恋理の話
廻牢恋理は特別だった。愛のように最初から特別だってわかった訳じゃない。家が近いから保育園に行っていた頃から知り合いだったけれど、その頃の事は殆ど憶えていない。何となく気が合って遊ぶようになったけれど、私と同じ普通の子だった。はずだ。多分。恋理は何でも出来た。作りたいと思った物を作って、欲しいと思った物を手に入れることが出来た。この世界が箱庭で、恋理はその管理人として何でも自由に出来ると言われたら信じた。
私は恋理がこの世界を壊したとしても、逆にあらゆる問題を解決したとしても驚かない。だって恋理は特別で恋理が世界を自由にしたいのならそれを止める事は出来ないから。
恋理は気がつけば特別になっていた。真面目に授業を受けていた所を見た憶えはない。それなのにいつも百点を取っていたし、何でも知っていた。
愛とは違い誰にでも好かれていた訳じゃない。むしろ嫌っていた人の方が多い。私の見立てが正しければクラスの六割は恋理を嫌い、恐れていた。三割が無関心で残りの一割が好意を抱いていた。それでもいじめられていたことは無い。だって、怖いから。別に暴力を振るう訳ではないし、暴言を吐く事もない。普通の人間。そのはずなのにまるで違う存在のように感じる。理解が出来ない存在。だから怖い。だから近寄りたくない。それが恋理だった。
恋理は周りからの評価を何一つ気にしていなかった。誰に嫌われていようとも、好かれていようとも気にしていなかった。恋理にとって人は欲しければ後から手に入れればいい存在だったから。
恋理は人と物の価値を自分の基準で決めていた。自分の欲しい物好きな物には価値があり、それ以外は価値が無い。欲しい物は手に入れて好きな物は自分の手元に置いておく。そんな誰もがしたいと思っても出来ないことが恋理には出来た。
中学一年生のある日、恋理は突然言った。
「私家族を洗脳したの」と。
確かそれは芸能人の不倫が大々的にニュースになっていた時だった。クラスでも話題になっていて私もその事について少し恋理に話していた時だった。
余りに唐突で理解が出来なかった私は一言聞き返すのが精一杯だった。
「なんで?」と。
「好きだからだよ」
「どういう事?よくわかんない」
「ほらさ。今悲愛が言っていたじゃん。結婚して子供がいるのに浮気なんてありえないって」
「うん」
「でもさ、人の気持ちなんて変わっていくものじゃん」
「まあ、そうかな」
「でも好きな人の気持ちは変わって欲しくないでしょ」
「そうだね」
「だったら自分で管理して離れられないようにすればいいんだよ」
「それで洗脳?」
「そうだよ、悲愛もそうすれば」
その時恋理が言っていた洗脳は今私がしているような催眠とは違い、時間を掛けて心理的に追い詰めていき、自分の支配下に置くというものだった。わかりやすく優しく説明してくれたけれど当然私には出来なかった。
恋理のお父さんは有名企業の重役だったけれど、いつの間にか社長になっていた。そしてその裏には恋理がいた。恋理は家族だけではなく、会社までを支配していた。理由は簡単。お金がいるから。その良し悪しはわからないけれど、恋理が支配する事でその会社は業績をアップしていた。
恋理にとってお金は欲しい物を手に入れる為のツールだった。お金にそれ以上の価値もそれ以下の価値も見出していなかった。必要な時に必要な分だけあればいい。その為に企業を支配し、金庫変わりとしていた。
恋理は自分が欲しいと思った物に執着していた。中学二年生の時、消しゴムを見せられた。
「これあげるよ。昔欲しがっていたでしょ」
そう言って渡されたのはキャラクター物の鉛筆だった。
確かに昔欲しがってはいた。二人とも欲しがっていたけれど、買って貰えずに持っている子の事を羨ましがっていた。でもそれは小学生の時、しかも低学年の時の話。鉛筆に書かれているキャラクターのアニメもとっくに終わっている。見るまで忘れていたし、何なら名前はうろ覚えであっているかもわからない。はっきり言っていらない。
「えーっと」
「いらない?」
「うん、ごめん」
「別に気にしなくていいよ。じゃあ捨てておくね」
そう言って恋理はその鉛筆をゴミ箱に捨てて何事も無かったように別の話を始めた。
恋理は一度欲しいと思った物は必ず手に入れる。どんな手を使っても、どれだけ時間が掛かっても。
特別な恋理が特別な愛の事を好きになった事は何も不思議じゃない。むしろ当然の事だとすら思った。愛が私と付き合うよりはずっと自然で当然の事だと思ってしまう。
だから恋理が愛を手に入れる為に催眠術を作ったのも不思議じゃない。それが許されない事かどうかなんて恋理には関係ないから。




