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大切な家族と負い目と

「お帰り、お姉ちゃん」

 玄関を開けると妹の(るい)が声を掛けてきた。どうやら風呂上りみたいでまだパジャマを着ていない下着の状態でいる。姉としてはその格好で玄関近くにいるのは不安なんだけど夜中に人なんて来ないと聞いてくれない。

 催眠で後処理をすると時間が掛かってしまう。大雑把に処理してしまえば早いけれど、後で問題が起きやすい。これからの生活に支障が出ないようにするには時間を掛けて丁寧にいじっていく必要がある。その為、後処理では数時間かかるのは当たり前でひどいときは一日掛けても終わらない事がある。木喪雲(もくもくも)さんの場合は言剥(ことはぎ)の掛けていた催眠がそこまで多くなかったから三時間で済んだ。

 他の人に比べれば簡単だったけどそれでも帰ってくれば時を過ぎてしまう。

「ただいま、(るい)。今お風呂なの?早く寝なよ。もう23時過ぎているでしょ」

「お母さんみたいな事言って。まだ動画見たい」

「寝なさい。まだ中学生なんだから」

「またお母さんみたいなこと言って」

「言わなきゃ日付変わるまで起きているでしょ。ちゃんと髪乾かしないよ」

「はーい。お休み」

 そう言いながら涙は髪を乾かしに洗面所へ行った。

 父さんは一週間の出張中。母さんはリビングでドラマを見ていた。この前から始まったドラマ。恋愛ものという事は知っているけど、興味はないから見たことは無い。

「お帰り。早く寝なさいよ」

「ただいま。わかっているよ。風呂入ったら寝るから。涙にも注意しなよ。早く寝なさいってさ」

「言っても聞かない」

「わかっているけどさ」

 一見普通の会話。私が夜遅くに帰ってくることに誰も触れない事を除けば。父と母は私達の意志を尊重してくれるけど放任主義じゃない。帰るのが夜遅くなれば怒る。そもそも家の門限は21時。かなりオーバーしている。それなのに何も言われない。何故なら催眠を掛けているから。私の行動に疑問を抱かないように。

 催眠にどんなリスクがあるのかはわからない。それでも家族に掛けるなんて最低だと言われれば何も言えない。けど、家族は私の事を大切にしてくれている。私のしている事を許すはずがない。私が催眠能力を持っているとか関係なく、もっと無敵の能力を持っていたとしても私が危険な目に合うのをよしとはしない。自ら首を突っ込むなんてなおさらだ。それでもこれは私にしか出来ない。だから催眠を掛けた。夜遅くに帰って来ても、深夜に家を出て行っても、買い物の途中にいなくなっても何も疑問を抱かないように。

心苦しくないと言えば嘘になる。それでもこれは仕方のない事だ。そう自分に言い聞かせた。今も言い聞かせている。家族に催眠を掛けたくはなかった。家族に掛けてしまえば一線を越えてしまう気がしていたから。勿論何もしなくても自動的に感染はしてしまうけれど、自発的な催眠を掛けたくはなかった。でも掛けてしまった。一線を越えてから心の何処で壁を感じてしまう。皆前と変わらず接してくれる。何一つ変わらず。私だけが家族に隠し事があり催眠を掛けてしまったと言う負い目と、もし何かあっても私の意志一つでどうにか出来るという優越感。そう感じる事への嫌悪感。私だけが壁を感じてしまう。前と同じように振舞っているつもりで、振舞っているという事は演じているって事だよねって思ってしまう。いつか全てが解決したら催眠を解いて、そうしたら前と同じに戻れるのかな?無理だとわかっていてもそう思ってしまう。

 催眠災害の後処理をしているとついナーバスになってしまう。駄目だなあ。疲れているのになかなか眠れなくなりそう。

 そんな事を考えながら毛布に包まっていたけど予想とは違って私はあっさりと眠ったみたいで久しぶりに夢を見た。二人との夢を。(あい)恋理(れんり)の夢を。あの頃の楽しかった日々。これから先の事なんて何も知らない平和な時間の夢。私は恋理と愛に声を掛けようとしてそこで目が覚めた。幸せな夢は長く見ていられなかったみたいで外はまだ暗かった。

 鏡の前に立って左目の力を発動させる。そこには勿論模様が現れている。ため息を飲み込んで私はもう一度布団に入った。


◇◇◇◇

 そもそも何故私が催眠能力を持っているのか。何故、催眠ツールなどというものが出回っているのか。私が対処をしているのか。それを語る上で絶対に欠かせない人物が二人いる。遠藤(えんどう)(あい)廻牢(かいろう)恋理(れんり)。二人とも私の幼馴染で愛は恋人。恋理は親友だった。二人とも特別な存在だった。私にとってもきっと世界にとっても。


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