夢と現実
私は愛の言う通り移動することにした。確かに公園でするような話じゃない。何処に移動するか迷ったけれど一番落ち着ける場所って事で私の部屋に来てもらった。まさか愛が来るなんて思っていなかったから片付けしてない。散らかってはないけど掃除したの3日前だからなあ。しかも軽くだし。部屋の隅までしっかり掃除機かけておけばよかった。
家ではお母さんが涙のお弁当を作っていた(私の分は作らなくていいって昨日の内に言ってある)。涙はまだ起きていないみたい。後10分もすれば早く起きなさいと言う叫び声が家中に響くはずだ。愛がいるところでそれは恥ずかしい。
「ごめんね。急にお邪魔して。私の家2年間使ってなかったから凄い状態だろうし」
「気にしないで。こっちこそうるさいだろうけれど気にしないで。ていうか忘れて」
「みんな全然変わってなくてむしろ嬉しいよ」
部屋に入ると昨夜の疲れが一気に襲ってきた。愛と無事再会できて安心してしまったから。このまま話を聞いてもまともに頭に入ってきそうもうない。
「本当にごめん30分寝させて」
「勿論。起きるまで待っているから」
「ありがとう」
「あ、悲愛化粧落とした方がいいよ」
「あ、忘れていたありがとう」
「ねえ写真撮っていい?」
「駄目だけど?なんでよ」
「悲愛が化粧した姿なんて初めて見たから。中学の時なんて休みの日でも意地でもしなかったじゃん。だから記録」
「やだ」
「そのお化粧私の為にしてくれたんじゃないのかな?」
「そうだけど」
「それなら撮らせてよ」
確かに愛の為にした。久しぶりに愛に会うなら少しでも再開できて良かったと思って欲しかったし少しでも良い自分で会いたかったから。でも本当に愛に見せる気は無かったというか。愛ともう一度会いたかったし愛の事は信用していたけれど。愛の為にした事だけど見せる事は意識していなかったというか。色々で頭が一杯だった。
近寄ってくる愛をさっと避けると部屋を出る。あーという声が聞こえたけど無視をして顔を洗う。
部屋に戻ると愛が少し残念そうな顔をしていた。
「じゃあお休み」
そう言って私は服のままベッドに入って寝た。パジャマに着替える事も考えたけれど愛に見せるのは恥ずかしかったから止めた。ベッドに入ると私の意識はすぐに夢の世界へと誘われて言った。30分どころか5時間も。
久しぶりに嫌な夢を見た。愛と恋理が目の前で消えてしまう夢。私は目の前の現実が受け入れなくて町中を探し続けた。二人の名前を呼び続けて喉が痛くなって周りから変な目で見られて。家族や友達、町の人に愛と恋理の事を聞いても誰も知らないって何言っているのって言われて。自分がおかしいのか不安になりながらそれでも二人はいたはずだって探し続けて足が痛くなって走れなくなってそれでも無理矢理歩き続けてそれでも見つけられなくて仕方なく家に帰って倒れる。そして目が覚めたらまた探しに行く。それを繰り返す夢。
目が覚める。動機がひどい。似た夢を前はよく見ていた。その度に飛び起きてあれが現実じゃない事を願って泣いていた。何で今こんな夢を見るのか。まさかさっき愛に会った事は夢なのか。そう思って愛が座っているはずの椅子を見る。そこに愛はいなかった。ヒッと声が漏れてしまう。
そこで気がついた。左手が暖かい。というか手に何か感触がある。まるで手を繋いでいるみたいな感じ。左を向くとそこには愛がいた。私と同じく服のまま布団に入ってすうすうと寝息を立てている愛。何故か手が繋がれている。ひゃっという間抜けな声が漏れてしまった。夢かと思ったけれど手の感触がそれを否定している。
何で?頭が混乱する。愛ってこんなパーソナルスペース狭かったの?こんな大胆な事する性格だっけ?二年間の間に変わったの?そんな事を考えていたけどふと愛の顔が目に入る。
二年前と比べると少し顔が引き締まって大人になったように見える。実際に二年の月日が経っているから当たり前なんだけど。気がつくと見とれていた。寝顔を見ていると何故か泣きそうになってしまう。二年。すごく長かった。辛い事が多すぎて何度も挫けそうになって。その度に虚雨達に助けられて愛と恋理の事を思い出して乗り越えてきた。それでも限界は近かった。
糸識の件ではもう限界でひどい事も言ってしまった。少しだけ後悔している。糸識の件で全てが終わったと思う。思いたい。あれでまだ終わりじゃなかったら私はもう放棄してしまう気がする。そこまで追い詰められていた。そんな時に愛が帰って来た。これから私はどうなるんだろう。愛の為なら頑張れる気はする。でも否穂達の為にはもう頑張れないの?そう思うとそれは違う気がする。私はこれからどうなるのかどうしたいのかわからない。そんな事を考えていたらスマホの音が鳴った。枕元のスマホを確認すると志鳥からだった。
『具合悪いって聞いたけど大丈夫?』そのメッセージを見て気がついた。今日学校に行かないって枯花達にしか伝えていない。催眠で操作していない。虚雨辺りが誤魔化してくれたみたいだ。数時間寝たから大丈夫と返そうと思って気がつく。今何時?12時半近く。噓でしょ?5時間以上寝ていたの?それだけ寝ていれば愛も暇になる。それで布団に入り込むかはわかんないけど。
時間を意識した途端お腹が空いてきた。半日寝たら元気になったと志鳥には返して否穂達とのグループにもありがとうと送っておく。
そこで愛も起きてきた。
「あ、悲愛おはよう。おはようじゃないか」
「うん。ごめん。何時間も寝ていたみたい」
「気にしないでよ。私の為に待っていてくれたんだから。布団入っちゃったけどよかった?」「気にしないで」
よくはないけれど個人的には悪くなかったです。そんな事言えないけれど。
「…お腹空いてない?そういえば愛は朝何か食べたの?」
「食べてないけど別にいいよ。今何時?」
「12時半過ぎ。お昼どうする?私が昨日買ったパンならあるけど。賞味期限少し過ぎているかも」
「貰っていいの?」
「うん。どっか食べに行くでもいいけど」
家にもカップ麺とかあるけど愛はこっちに帰って来たばかりだと言っていたしお寿司とかそういうものの方がいいかもしれない。
「んーパン貰えるならそれでいいかな。食べ終わったら話聞いて貰える?」
「勿論」
少し緊張が走る。朝あった時は全て話してと詰め寄ってしまったけれど私は全てを受け止めるだけの覚悟はあるのか。無い。でも流石に今までの事を聞かずに進むことは出来ない。
お昼のパンの味は感じなかった。




