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明日

 糸識(いとしき)小色(こいろ)の事件が解決して一ヶ月。テストも無事…私のテストの結果は無事とは言えないけど終わった。まあいつもよりは落ちたけど色々あり過ぎたからしょうがないよね。平均点以上だからセーフ。この一ヶ月催眠災害は起きていない。日常が戻って来た。二年前のような。正確には(あい)恋理(れんり)がいないから違うけど。まだ気を抜くことは出来ないけれど、もう催眠災害が起きる事は無いと思う。

 糸識は催眠の事を忘れて日常生活に戻っている。この二年間催眠を研究して色々やっていたみたいでそれを全て消してしまったから喪失感で少しは日常生活に異常が出てしまっているみたいだけどそのくらいは許容してもらいたい。私は誓って彼女から催眠に関する事しか消していないんだから。恨みを晴らす事も考えたけど止めた。

 糸識さん、ごめんね。あなたの催眠は恋理があげたもので私と同じだった。その上私とは違って自分の創意工夫で強くしたものだった。きっとあなたから催眠を奪う権利は無かった。それでも私がそうするべきだと思ったからそうした。この選択が胸を張って正しかったといえるように生きていくつもり。

 私はあなたを好きになった事後悔をしていないよ。恋する事は1人じゃできないから。誰かを魅力的に思う事で、一緒に居たいと思う事で恋は始まるんだと思う。1人じゃ始まらないけど私だけの感情。それが恋。私はあなたの事を魅力的に思ったから恋をした。それはきっと天使の力なんかじゃないよ。だって私の側には愛が居たんだから。それでも私はあなたの笑顔に惹かれた。天使の力も催眠の力なんてなくてもあなたは魅力的だから。


悲愛(かなえ)、何してんの早く行くよ!」

 珍しくテンションの高い虚雨(きょう)の言葉で私は考えを中断させた。今日はこれからアイドルのコンサートを見るのだ。最近人気の6人組の女性アイドル。テレビで聞かない日はないってくらいそのグループの曲が流れている。当選確立の低いコンサートチケットを当てる事の出来た虚雨の喜びはすごかった。何せ昼休みの教室で飛び上がってクラスの注目を集めたほどだ。虚雨恥ずかしがってクラスの記憶を改ざんしてと言ってきたけど私はレアな姿を見る事が出来て嬉しかった。

 ついでにクラスの皆の記憶は変えなかったのでどつかれた。チケットは二枚。枯花(かれか)は興味なしで否穂(いなほ)は行きたがっていたけど大会と被る。虚雨は家族と余り仲が良くはない。そこで私が行くことになった。

「わかった」

 私は笑顔で答える。付き合いだけど芸能人を近くで見る機会なんてなかなかないし都会に来るのも久しぶりでそわそわしてしまう。

 恋理と愛の事はまだ吹っ切れない。多分吹っ切る事は出来ない。いつまで経っても思い出してしまうと思う。それでも一区切りはついた。そう思う。少しだけは前を向くことが出来るようになった。


 なのに。…それなのに。

 周囲のテンションが高すぎてついて行けるか心配だったコンサート。気が付けは私も呑み込まれて楽しんでいた。終わるのが遅いので会場近くのホテルで一晩泊まり(少し残念だけど何も無かった)次の日は観光をしてお土産を買ってお昼くらいの特急で帰った。その特急の中で私のスマホが鳴った。メールの合図。

 差出人の名前は遠藤(えんどう)(あい)。私の心臓が痛いほどドクンとなった。周囲の音が聞こえなくなり、視界にその名前しか入らなくなった。きっと私の目は充血していて顔は青ざめていたに違いない。隣の席の虚雨が肩を叩いているのにも五分気がついていなかった。この世界の時が止まったように感じた5分。心配してくれる虚雨に大丈夫、酔っただけと誤魔化して。それでも心臓は高鳴ったままで。メールになんて書いてあるのか怖くて、開けなくて。読みたくなくて。

 それでも愛からのメールを読まないなんて選択肢は私にはなかった。人の前で読むことは出来ない。どんな反応をするかわからないから。虚雨と駅で別れた後兎に角早く帰りたくて大した距離じゃないのにタクシーを使った。土産話を聞きたがる涙に体調が悪いと嘘をつきお土産を渡して部屋に入る。浅い呼吸を繰り返して兎に角心を落ち着かせる。それから何度か深呼吸をする。それからたっぷり5分は経ってからようやく私はメールを開いた。そこには短くこう書かれていた。


『明日公園で待っている』

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