別れてください
確証はないけど催眠災害はもうなくなったと思う。催眠アプリをバラ撒いていた糸識小色を支配下に置いたから。じゃあこの後する事は何だろうと考えて。一番にしなきゃいけない事は3人と別れる事だった。
3人がいなければ私は絶対何処かで限界を迎えていた。全てを放りだしていた。もしかしたら世界を滅茶苦茶にしていたかもしれない。だから3人には感謝しているし心の底から愛している。でもだからこそこれからの事を考えたらこれ以上私に縛り付けている訳には行かない。
同性で結ばれる事がまだ偏見を持ってみられる事がある世界で。複数で付き合う事が許されない国で。こんな関係が許されないなんて事ずっとわかっていた。糸識の言っていた事は正しい。ちょうどいい機会だ。というかこの機会を逃したら弱い私は自分から言い出すことなんて出来ない。そしてどうしたって無意識の力関係が生まれてしまう私と3人では私から言い出さなきゃいけない。これは私のけじめ。誰にも渡さない。
糸識小色との騒動が終わって見かけだけは平和な時間が過ぎた。放課後私は皆を教室に呼び出した。四人だけが残った教室で私は震えながら「別れてください」と言った。
「もう催眠災害は起こらないはず。終わったの。全部。後は糸識小色の後処理をするだけ。私一人でも出来ると思う。…もう皆に頼る必要もなくなる。今まで本当にありがとう。一緒に居てくれて本当に嬉しかったし心強かった。付き合う事が出来て幸せだった。えっとそれで」
もっとはっきり嫌いだとか利用していたとかそういう事を言うつもりで。でもそんな事言える訳なくて。むしろ逆の事を言ってしまって。私は言葉に詰まってしまった。
「えっと兎に角別れよう」
「やだよ」
私が何とか絞り出した言葉はその一言で切り捨てられた。言ったのは否穂だけど枯花と虚雨も頷いている。
「やだって何で、3人は私に縛られる必要はもうないよ」
「そこから間違っているって。私達は誰も縛られてない。きっかけは違っても自分たちで判断して悲愛と付き合っているの」
「でも」
「むしろこれから始まりじゃないの。今までは催眠災害のせいでデート行っても中断したり悲愛が疲れていて遊びに行くのを延期したりだったじゃん。そもそもさ、誰に何を言われたのか知らないけどね、そんなの関係ない。この国とか世界とか知らない誰かの話とかどうでもいい。私は悲愛が好き。枯花と虚雨も。だからここにいるの」
「悲愛さあ、私達と別れたいなら催眠使いないよ。それなら別れられるよ」
「出来る訳ないじゃんそんな事!」
「何で?」
「何でってそんな事わかっているでしょ。私はもう催眠を使わなくていい世界になるように頑張って来たの。それに皆の脳をいじれるわけないじゃん。でもこれで本当に終わりなの。糸識さんの件はまだあるけどさ。だから」
「悲愛は自分の事過小評価しすぎだよ」
「え?」
「自分から言わなきゃ私達からは別れを告げられない。だから自分から言わなきゃ。もう催眠災害は起きない。だからこれ以上3人を自分なんかに縛っていちゃいけない。そう思っているでしょ」
虚雨にあっさりと自分の考えを見抜かれて私は言葉を失ってしまった。
「やっぱりね。悲愛はすぐ表情に出るから。そこも好きだけどね。悲愛の考えは間違っているよ。もし別れたいなら私ははっきり別れたいって悲愛に言える」
「私もね」
「悲愛はそんな事で怒ったり人生滅茶苦茶にしないから。ちゃんと人の事を尊重してくれる。ずっと一緒に居たんだからわかるよそのくらい」
「その通りだよ。私達は悲愛だから好きなんだし悲愛だから付き合っている。悲愛だから力になりたいし、悲愛だから側にいたいの」
「でも」
でもの次に紡ぐ言葉が思いつかなくて。私はさっき言えなかった言葉を言う事にした。
「嫌い、皆が。だから別れて」
「嘘。じゃあ何で泣いているの。何で言葉が震えているの。何でこっち見ないの。何で催眠使わないの」
何でって決まっているじゃん。好きだから。愛しているから。皆といたいから。
「兎に角私達と別れたいなら催眠使いなよ。そうじゃなきゃ別れないよ」
「同感」
「ほんとにその通りだよ」
「…いいの私で」
「悲愛だからだよ」
その言葉に私は何も返せなくて。気がつけば泣きながらうずくまっていた。そして3人は私が泣き止むまでずっと側に居てくれた。




