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勉強会と催眠と異変と

 「好きだよ。悲愛(かなえ)


 枯花(かれか)が前触れなく言ったその言葉に私は僅かな罪悪感と素直な嬉しさを覚えた。

 夏空(なつぞら)枯花(かれか)は私の恋人の一人だ。恋人から愛の言葉を言われれば普通は嬉しい。なのに素直に喜べない。そんな自分がまた嫌になる。

「ありがとう。私もだよ」

 枯花に返したその言葉は絶対に嘘じゃない。けれど心の底からの言葉でもない。枯花の事は大好きだ。人として何より恋人として。でも私が本当の本当に心の底から好きなのは(あい)だ。元恋人の愛。元と認めたくはないけれど。恋人達といるとふとした時にその事を突きつけられる。その度に苦しさと申し訳なさと情けなさと罪悪感を覚える。

 そしてそもそも私は、恋敵(こかな)悲愛(かなえ)という人間は枯花から好きだよと言ってもらえるに足る存在なのかと思ってしまう。

「どした?愛の事?それとも恋理(れんり)?」

 枯花は勘が鋭い。ほんの少しの変化で私が昔の事を思い出したことに気がつかれてしまった。恋人の前で元恋人の事を考える。特に理由もなくふとした時に。最低な事をしている。その自覚はある。そんな私達を許容してくれる枯花達には本当に感謝している。

「違うよ。勉強しよ、勉強。その為の時間でしょ」

 今は枯花の家でテストに向けて勉強しているのだ。正確に言えば私が教えている。これでも成績はそれなりにいい。枯花が赤点にならないように教えることくらいは出来る。否穂(いなほ)は部活で忙しくて参加できないし、虚雨(きょう)は人に勉強を教えるみたいな事はしたがらない。勉強しなくても問題ないくらい成績もいい。結果二人の勉強会となったわけだ。

「はーい。でも二人がいないから少し…ね」

「わかった。早めに切り上げよっか」

「流石話がわかる」

「そのかわり今は真面目にやるよ」

「うん。あ、テストいい点とったら特別な事したい」

「特別な事って何?」

「うーん。泊りでのデートとか?それともエッチ?」

「泊りはまあ許可取った方がいいし、お金も掛るからご褒美になるけどもう片方はいつでも良いよ」

「あ、ごめん。そっちは冗談」

「そう?本当に良いけど」

 私は枯花を縛り付けている立場だ。望むなら受け入れるべきだ。今までしてこなかったのは私がそれを望んでいなかったからにすぎないから。弱い私は一度そういう事をしてしまったらもう後戻り出来なくて、依存してしまう。それをわかっているからそういう行為をしていなかったけどそれは私の事情。彼女達には関係な事だから。

「いいって。無理しなくていい。悲愛が本当にしたいなら私も嬉しいし、したいけど無理させる気はない」

「ありがとう。でもいいの?性欲とか」

「ああ大丈夫。三人で解消しているから」

「そうなんだ」

 それは知らなかった。彼女同士が仲いい事はいい事だけれど、そう言う事を聞くのは何と言うか不思議な気分だ。聞きたいような聞きたくないような。それにしても少し羨ましい。正直参加したい。いや言えば参加できる。けれどしない。我慢しないと。

 一時中断してしまった勉強を再開して一時間ほど。

「今日のとこはこんなもんかな」

「いやー助かった。ありがとう」

「月曜日もやるからね」

「…はーい。でこの後は」

「そうだね。デート行こうか。どこ行く?」


 そう話し始めた時だった。私のスマホから着信音が響いた。

「あ、曲変えた?」

「うん。否穂からだ。出るね。あもしも」

「あ、悲愛!今大丈夫?」

 出た瞬間否穂の声が響く。部活終わりだというのに元気だなあ。少し羨ましい。スピーカーにしていないのに枯花にも少し聞こえるくらいには声が大きい。

「大丈夫だよ。どうかした?」

「今さ、部活帰りなんだけどさ、見つけちゃったんだよね」

「マジ?」

「うん」

 はあ、とため息出てしまう。久しぶりだ。最近は平和だったのでもしかしたら終わったのかと淡い期待をしていた。

「続けて大丈夫?」

「うん。続けて」

「悲愛、スピーカーにして」

「今、枯花といる。スピーカーにするね」

「ああ勉強会だもんね。えっと場所は羽院久(ういんく)公園。40歳くらいの主婦かな。高校生か大学生くらいの男子をリードで繋いで散歩している。周りはだーれも疑問に思っていない」

「…間違いないね。すぐ行く。待っていて」

「オッケー。あ、後男性物の服一式用意してもらって。多分、160センチくらいかな」

「わかった」

 電話を切ると心得ているというように枯花が私のスクールバックを渡してくれる。

「タクシー呼ぶ?」

「ううん、大丈夫。羽院久公園なら歩いても十分で着くから。それなら待っている時間が勿体ない」

「そっか。委員長とかには私から連絡しとく。服についても伝えておく」

「ありがとう。お願いね。ごめんね、枯花。埋め合わせはまた今度」

「良いよ気にしなくて。早く行ってあげな。疲れるだろうけど頑張って」

「うん。行って来る」


 もし人から二股って最低だよねと聞かれたら昔の私ならうんと答えていた。その上の三股ならなおさらだ。でも今の私はきっと笑って誤魔化す。だって私が三股しているから。否穂、枯花、虚雨。三人が私の彼女。三人とも私になんて釣り合わないくらいの優しくていい人で素敵で。そんな三人の人生から貴重な時間を私が貰って本当に良いのかなと思ってしまう。

 いくら私が三人にこれまでの経緯や力について全て話しているとはいえもし親が知ったら怒るだろう。当然だ。将来の約束も出来ないのに時間を奪ったうえで三股しているのだから。刺されても文句は言えない。そう思いつつ刺される事は無いようにしているのだから私は間違いなく小心者だけど。自分のそんな所が嫌い。

 それでも私は三人から離れたくない。もう一人には戻りたくない。一人で抱え込みたくない。そう思ってしまう。私の力を知りながら恐れずに付き合ってくれる。そんな人と三人も会えて付き合える。これを奇跡じゃなければ何なのだろう。この奇跡を手放したくない。


 人を自由に支配できる力があれば皆はどうするんだろう。フィクションの世界では催眠の力を使って自分の好きなように人を操って自由な世界を作る創作で溢れている。正直私もそういう力を手に入れたいと思った事も有る。学校に行かなくてもいいようにして、欲しい物も簡単に手に入れて毎日好きな物を食べてプライベートジェットで海外に行って。そんな子供みたいな事を考えていた。今思うと妄想は妄想だから楽しくて、実際に夢が叶ってしまうと付随する責任で苦しむことになる。少なくとも私はそうだ。こんな力は無ければいいと思うし、誰かに渡してしまえるなら渡したい。けどそれは出来ない。だから辛いし、早くこんな力から解放されたいと思ってしまう。だって人の人生を簡単に狂わせてしまう力なんて私には荷が重すぎる。その願いが叶う事はないなんてわかっているけれど。


 一八時。外はもう暗くなり始めている。これから枯花と過ごすはずだったのに私は何をしているんだろう。そんな事ばっかり考えているから変な事ばかり頭を過る。また朝まで掛かるんだろうな。寝不足になる。また肌の調子が悪くなりそう。ニキビが出来ないといいけど。一度できるとなかなか治らないんだよね。テストも近いのに授業を集中して受けられない。それ以上に見たくない物を見る事になる。気が重くなる。それでも私が片付けないと。責任感があるね。そう言われる事も有る。否穂とかがよく言ってくれる。間違いなく褒めてくれているし、そう言われれば悪い気はしない。でもこんな事ばかり対応しているとそんな責任感無ければ良かったと思う。

 そんな事ばかり考えていたから私は掛けられた声に反応できず通り過ぎてしまう所だった。

「悲愛、無視なんて寂しいよ」

 その言葉と共に肩に僅かな衝撃があった。ちょっとびっくりして身体がビクッとなる。

「ごめん、驚かせちゃった?」

 聞き覚えのある気がする声に振り向くとそこにいたのは中学の時の同級生だった。糸識(いとしき)小色(こいろ)。クラスの人気者だった。中学の時は黒髪だったけど染めたみたいで綺麗な金髪になっている。長い髪が後ろでまとめられてポニーテールにいなっている。糸識さんの雰囲気と相まってとても綺麗だ。私が何かをされる事なんてまずありえないのに今でも怯えてしまう小心者の私は顔を見てようやく安心する事が出来た。

「糸識さん」

「悲愛、呼び捨てでいいよ。久しぶり。卒業式以来だよね?」

 思ってもいなかった出会い。私は確かに胸の高鳴りを感じていた。こんな時じゃなかったら嬉しいんだけど今はそれどころじゃない。

「そうだね。久しぶり」

「悲愛は何処の高校行ったんだっけ?今暇?良かったらどこか遊びに行かない?せっかくなら他にも何人か誘ってさ」

「ありがとう。嬉しいんだけど」

「駄目かな?あ、もしかして私嫌われる?」

「違う、違う、違うって。ごめんこの後用事あって」

「あ、そうなの。じゃあまた今度二人でどっか行こうよ」

「わかった。行こう」

「約束ね。じゃあまた。連絡するね」

 そう言ってさっさと歩きだす糸識さん。会えた事で暗かった気分が少しだけ晴れた。何処か行こうと言う誘いがお世辞でも嬉しい。それはそれとして今は急がないと。私は少し早歩きで公園に向かった。


 羽院久公園に着くとベンチに否穂が座っていた。少し遅くなってしまった。もしかしたら公園を出てしまったかもしれない。もしそうなら否穂が連絡してくれると思うけど相手の力がどのくらい強いかはわからない。まずは確認しないと。そう思って否穂の方に近づくと声を掛ける前に私に気がついたようだ。よっという感じで手をあげてくれた。これから起こる事を考えると大分気楽に見える。少し羨ましい。

「あっち」

 指をさした方を見ると異様な光景が広がっていた。

 羽院久公園は普通の公園だ。砂場にベンチ、ブランコと自動販売機がある。余り大きくはないし遊具は少ないけれど、夕方や休日は子どもがよく遊んでいる。私も昔はよく遊んでいた。近所の人や行政の人が整備してくれているみたいで昔とそこまで変わっていない。勿論遊具は古くなって少し錆びている部分もあるけれど花壇にはきれいな花が咲いているし、雑草も見当たらない。近所の人に大切にされている事がわかる。子どもが五月蠅いなんてクレームが入る事はなく、いつも元気に走り回っている。学校帰り私は子どもの笑い声を元気だなーと思いながら通り過ぎていた。


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