これは浮気じゃないよね?ね?
虚雨も催眠災害に巻き込まれた一人だった。虚雨を狙った訳じゃなく、中高一貫の女子校一つを催眠で支配下に置いてハーレムを作ろうとした馬鹿がいた。私はそいつと相対した。その馬鹿も他の人と同じように聞きたくもない言い訳を続けて、私の事をズルい、自分にもおこぼれを分けてくれてもいいと叫んでいた。
私は限界だった。これまでの全てに。恋理も愛もいなくなった。私は地獄を見続けている。何でこんな目にもう嫌だ。気がつけば叫んでいた。
「煩い!《黙れ!黙れ!》何で私がこんな目にあわなきゃいけないの!人助けしているのに!何で責められるの!もう嫌だ!お前殺してやる!」
と。叫んだことで少しスッキリして何とか冷静さを取り戻した私は、残った理性を総動員してその男を処理した。
一先ず全員を帰らせた(つもりだった)教室で泣いていた。泣いていたというよりもわめいていたというべき状態だった。そこで話し掛けてきたのが虚雨だった。
「ありがとう」
「わ!え!誰!」
「驚かせてごめん。私は」
「皆帰らせたはず、まさか催眠に掛かって無いの!」
「落ち着いて。私は教室のロッカーにずっと隠れていたの。ずっと見ていた。皆を助けてくれてありがとう」
冷静な虚雨とは対照的に私は慌てふためいていた。何しろ予想外の事だったし催眠に掛かっていないのかもとも思っていた。
「兎に角落ち着いて。お礼がしたいの」
「いいから、帰って!」
「ねえ、あなたの悩み私に話してみない?」
「え?」
「あなたの叫びは聞いていた。あなたの力について誰にも話せないんでしょ。なら私に話してくれればいい。ため込むだけじゃ限界が来るよ。私に話してみない?」
「あなたの事なんか信用できない」
「信用する必要はない。だって人を操れるんでしょ。記憶も操作できる。見ていたよ。なら話が終わった後、記憶を消せばいい」
その言葉を聞いた私は納得しかけていた。というよりも納得したかった。虚雨の言う通り誰かに話したかった。聞いて欲しかった。吐き出したかった。
その時になってようやく冷静さを取り戻しかけていた私は、虚雨が催眠に掛かっている事を確かめた上で、本当にちゃんと掛かっているか幾つか実験をした。そして悩んだ末、話すことにした。
これまでの事を虚雨にひたすら吐き出していた。多分一生分泣いたってくらい泣いていた。醜態を晒す私を虚雨はただ慰め続けてくれた。
そしてこう言った。
「私と付き合おうよ」
突然すぎるその言葉を私は正直理解出来なかった。私の話を聞いて何でその結論になるのか。困惑して言葉に詰まる私をよそに虚雨の話は続いた。
「悲愛さんは同性が好きなんでしょ。私はどっちも好き。私悲愛さんの見た目結構好きだし。悲愛さん今一人だから苦しんだよ。恋人の一人でもいれば少しは状況変わるって」
「いやでも、私には愛がいるから…」
「今はいないんでしょ。戻ってきたらよりを戻せばいいじゃん。今他の人と付き合っても浮気にはならないよ」
「そうかもしれないけど」
「付き合ってみて無理と思えば別れればいいわけだし。悲愛さん催眠を使えるんだから禍根なんて残さず別れられるでしょ」
「いやそうかもしれないけどさ、それは出来なくない?仮にも付き合った相手でしょ。そもそも虚雨さんと私あったばかりじゃん」
「それならこの後、デート行こうよ」
「ごめんなさい。意味が分からないです」
「お互いの理解を深めようって事。まあ、悲愛さんは私の事理解したいなら催眠掛ければいいか」
「だからしないって。私はしたくてしているんじゃないの」
「やっぱり悲愛さん優しいよね」
正直虚雨の思考回路について行けなかった。え?何を言っているの?って感じだった。話が飛び飛びな気がしてしまう。けれど正直心を動かされ始めていた。だってとにかく辛かった。
「私の事優しいって何でそう思うの?」
「催眠で何でも出来るのに人助けに使っているし、さっきの話を聞いていれば優しいってわかるよ。私に出来る事は殆ど無いけど、話を聞くことくらいならしてあげたいなって」
「それ本当に言っているの?本気で?私と付き合うって」
「勿論だよ」
「わかった。でもいきなり付き合うんじゃなくて友達からで」
友達からといったのは愛への未練があったから。正直この時は付き合うつもりはなくて、兎に角一人で抱え込むのが嫌で誰かに側にいてもらいたかった。もう一人でいたくなかった。
…結局いつの間にか付き合っていたし、他に二人も彼女が出来たんだけど。




