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僕の方こそ説明して欲しいよ


「僕の方こそ説明して欲しいよ。

なんでキャナリィ嬢がエボニーと僕の仲を嫉妬する必要があるのか」

「え?」


エボニーにはジェードが何を言っているのかわからなかった。


「え?そんなのジェード様がウィスタリア侯爵令嬢の婚約者だからに決まってるじゃないですか」


婚約者に仲の良い異性が現れたら普通嫉妬するものでは?それとも貴族の婚約とはそんなことも気にならないほどに事務的なものなのだろうか。

噂を信じている生徒達もエボニーの言葉に思わず頷き、そんなことも察することが出来ないのかと信じられないものを見るようにジェードを見た。


しかし、それを聞き咎めたジェードを兄と呼んだ青年がエボニーにきつい視線を投げる。

「幼い頃からキャナの婚約者は私だ」

「え、でも次期フロスティ公爵夫人って」

「次期フロスティ公爵は私だからな」


弟の言葉に驚いたエボニーと周囲の生徒達は思わずジェードを見るが、ジェードは笑って肯定した。

「そうだよ。彼は一つ下の弟のシアンだ。シアン・フロスティ。

一年生の時から隣国に留学していてね、卒業までの一年は婚約者のキャナリィ嬢と学園生活を楽しむために戻ってきたんだよ」


その言葉にエボニーは絶句した。事実を確認せずに噂を信じていた者もまた、絶句した。


「じ、じゃああたし、間違えて・・・」

「間違え?嫌がらせが?」

思わず口をついて出たエボニーの言葉にジェードが問い返す。


「違うわ、嫌がらせは本当にあったのよ、信じて──」

ジェードにすがり付きながら弁解するエボニーにキャナリィが声をかける。


「先程も申しました通り、私がジェード様に嫉妬する理由がありません」

「──じゃあ誰が・・・」

キャナリィから言われて考え込むエボニーにシアンが冷えきった声で告げる。


「《《誰が》》等我々には関係ないな。キャナに謝罪してもらおうか。

で、君はどこの家の令嬢だ?我が家から正式に抗議をさせてもらう」

シアンの冷たい視線に耐えられず、エボニーは思わずジェードの背に隠れる。そんなエボニーの姿をみてジェードが代わりに答えた。


「エボニーは平民だよ」


ジェードがそう言うとシアンは目を丸くした。

「平民?!平民が侯爵令嬢を陥れようとし、フロスティ公爵家の後継とその伴侶に口を出したのか?──死にたいらしいな」

「死?!そんな大袈裟な・・・」

優しいジェードに似たシアンの口から飛び出した物騒な言葉にエボニーは答えるが、周囲にいる生徒達の表情から冗談ではないことを悟る。

そうだ、実際に何度も殺されかけたではないか。


「ひ、ヒッ!・・・ジェード様っ。た、たすけ・・・」

ジェードに助けを求め彼の上着を握りしめるエボニーを気にする風も無く、シアンはジェードに聞いた。


「兄さん・・・。ソレの話を鵜呑みにして確認をとらなかっただろう」

「僕がそういう面倒なことが苦手なことは知っているだろう。だから公爵家の後継も()()()んだ」

「でもそれで死人が出るのだから、少しは()()()を考えた方が良い」

気安い兄弟の会話だが、内容が気安くない。

シアンの射殺さんばかりの視線にエボニーはジェードの上着から手を離し後ずさりする。


そこにキャナリィの側にいたクラレットが進み出て告げた。

「シアン様、この件は私が一任されているのですわ。キャナ様にも了承していただいております」

クラレットに続いてキャナリィもシアンに言った。

「そうですわ。それにジェード様に問題が全くないわけではありませんもの。この件を大事にはしたくありませんの」

エボニーの生死の話も出ていたが、そんなことは些事であるかのような言いようである。


シアンはジェードとエボニーを一瞥したあと、クラレットを見て軽く頷き一歩下がった。

その様子を見てクラレットは頭を下げるとエボニーに向き直った。


エボニーは相手が恐ろしいシアンからいつもキャナリィの後ろに控えている様な令嬢に替わったことに安堵した。

「わ、私は嫌がらせで危うく死にかけたんですから!本当です!」


「──曰く、近くを通っただけで平民がと叱責された・・・でしたか?これは先日あなたが特別クラスの敷地内に近寄ろうとしていた時のことでしょうか。キャナ様が声を掛けなければあなたは今頃衛兵に拘束され退学になっていたでしょうね」


クラレットが穏やかに微笑みながら言葉を紡ぐ。


「曰く、教科書を奪われボロボロにされた・・・これは学園の敷地内に落ちていたボロボロの本のことでしょうか。あなたはキャナ様に不快な言葉を掛け去って行かれましたが、キャナ様が無関係であると証言する目撃者は多数おりますわ。そもそもわざわざあなたの持ち物に手を出すなんて煩わしい。貴族なら平民一人消す方が簡単ですのに・・・」

貴族、平民に関わらず、周囲の生徒が頷く様が見えた。


人が殺せそうなシアンの視線よりクラレットの穏やかさの方がエボニーには恐ろしく感じた。


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