それは愛人としてと言うことだろうか
「また何かされたのか?」
「ジェード様~」
いつものベンチから立ち上がったジェードの胸に、泣きながら飛び込みどんな目に遭ったのかを少し脚色を加えて伝える。
ウィスタリア侯爵令嬢に「平民ごときが近寄るな」と言われたと事実を少し歪めて伝えてから何度か話す機会があり、持ち前の可愛らしさと守ってあげたいと男性に思わせることに長けた処世術で距離を詰め名前を呼ぶ許可を貰った。
高位貴族は特別に想う異性にしか名を呼ばせないと聞く。
恋人関係にはなれたのだとエボニーは歓喜した。
しかし貴族だからなのか指一本触れてこないし将来の約束もない。全く関係が進展しないのだ。
計画通りではあるが、上手くいったとは思えなかった。
このまま彼が卒業してしまえばなんの約束も無い公爵令息であるジェードと平民の自分に接点はなくなる。
不安に駆られ、ジェードとの関係をもう一歩進めたいエボニーは貴族に罪を着せることが良くないことだと言うことは分かっていたのに教科書の件を自作自演し、キャナリィに仕掛けたのだ。
しかしそれを皮切りに、本当にひどい嫌がらせ──いや、命を狙われるようになった。
ジェードの卒業後、ウィスタリア侯爵令嬢と自分が学園に残ることになるのだ。
何とかしないと嫌がらせがジェードの卒業と共に終了になるという保証もない。
なんならあと二年耐えなければならないどころか、ジェードと離れた途端に事故に見せかけて殺される可能性すらある。
「ジェード様が卒業したあと、あたしはどうなってしまうのでしょう。今まではなんとか怪我もなく無事でしたが今後も大丈夫という保証はありません。不安なんです」
「その事なのだが・・・そのような人物を次期フロスティ公爵夫人に据えるのはどうかと父と母に進言したのだが将来の公爵夫人に変更はないと言われてしまったんだ」
申し訳なさそうに言うジェード。ちょっと頼りないがそんな憂い顔も美しい。
「まぁ、将来が心配なら卒業後は私の所に来ればいい。そうすればキャナリィ嬢も手を出さないだろう」
それは愛人としてと言うことだろうか。
貴族との縁が出来ることには変わりないけど、エボニーは誰かと夫を共有するのは嫌だと考えていた。
必ず婚約を破棄してもらわなければ・・・彼の卒業までになんとかしたい。
そう思ったエボニーは、世間を味方につけるためにキャナリィが次期フロスティ公爵夫人に相応しくないと公の場で糾弾してはどうかとジェードに提案した。




