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【完結】で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?  作者: Debby
花言葉は『恋の勝利』

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花言葉は「恋の勝利!」-終幕-

ある日の休日、キャナリィとクラレットは共にフロスティ公爵夫人にお茶会に招かれていた。


「そう、あの方は()()()()辺境に嫁がれたのね。じゃぁ、きっと幸せになれますわね」


いつもと変わらない公爵家の執事に先導されながら、キャナリィはクラレットに話を聞いていた。ジェードが裏で何か動いていたことを薄々感じていたキャナリィは扇子で顔を隠し遠い目をした。

辺境伯の寄子の男爵家──キャナリィの思う家であれば、悪い嫁ぎ先ではないだろう。

貴族の尺度では──だが。


その時七才の誕生日にクラレットから貰ったお守り(アスター)が揺れた。


「キャナ様そのお守り、まだ持っていてくれたのですね」


それを見たクラレットが懐かしそうに、それでいてどこかさみしそうに言った。


キャナリィは当時のクラレットが『街で偶然あった男の子が親切に作り方を教えてくれて、練習にも付き合ってくれたのです』と珍しく満面の笑みで話してくれたのを思い出した。

『でも名前も聞いていないし、お礼も言い損ねてしまいました』と、()()()()()()ことを後悔していたことも。


その後も『自分の話を聞いてくれた優しい人だからもう一度会いたい』と、諦めきれずにお店周辺にも何度か出向いて探していたようだが見つからず、その時の酷い落ち込みように「きっと初恋だったのね」と今なら察することが出来る。

後にも先にもクラレットのあんな笑顔を見たことがなかったキャナリィは、その男の子に軽く嫉妬したものだ。


クラレットは「初恋」に未だ気付いていないようだがそれは良いとしても、問題は彼女が自分に恋なんて無縁だと思っている節があることだ。

ジェード気持ちをなんとなく察しているキャナリィは彼を気の毒に思っていた。


今のシアンとキャナリィの幸せはジェードのおかげであると言っても過言ではない。

キャナリィはやはり貴族令嬢として口には出せずお守りを手に祈ることしか出来なかったが、シアンはとても努力をしてくれた。

それでもきっかけはジェードだ。彼には是非幸せになって欲しい。


いつもの廊下に差し掛かり、庭にある東屋に目をやる。

そこには相変わらずスヤスヤと眠るジェードがいた。


「クラレットが来ているというのに、ジェード様ったら──!」

キャナリィはそう口にすると、思いついたようにクラレットに言った。

「・・・クラレット、ジェード様もお茶にお誘いしましょう。彼を起こしてきてくださらない?私はシアン様を──「キャナ!」

そこに丁度シアンが姿を現し、キャナリィの手を取った。

見つめ合う次期公爵夫妻の姿に、執事は「お役御免ですね」とそっと消え、クラレットは仕方なくジェードの所へ向かうことにした。


クラレットは不思議に思っていることがあった。

ジェードが好きな宝石や芸術品に携わることを望み、商会を持つ貴族家への婿入りを望んでいた事は聞かされていたのだが、何故メイズ伯爵家が──自分が選ばれたのかが分からないのだ。

侯爵家にも商会を持つ家はあるのだ。大きな声では言えないがその候爵家の令嬢はジェードに懸想しており、彼が望むなら現在の婚約を破棄してでも彼を迎え入れたであろう事は考えなくとも分かる。


そんなことを考えながら歩いていたクラレットが屋敷に背を向け、ジェードの前に立ったとき──


キラッ


ジェードが身じろきした拍子にジャケットがはだけ、ベルトについていたチャームに太陽の光が当たったのだ。


自然とそこにクラレットの視線が動く──


「!──あの男の子は・・・ジェード様・・・だったのですね」


クラレットのつぶやきにジェードが目を覚ます。

まだ寝ぼけているようだ。


「あぁ、クラレットの笑顔だ。夢かな?ふふ、やっぱり笑うとかわいいな──って、クラレット!?」


途中ではっきり覚醒したジェードは目の前に立つクラレットを見て、彼らしくもなく飛び起き、そして立ち上がった。


「あ、あのときはありがとうございました・・・・・・ずっと、ずっとお礼を言いたくて──」


ジェードの手がクラレットの顔の方へ伸びる。まるで、涙をすくうような動き。


「紫のアスター、まだ持っていてくださったのですね」

「あ、いや──」


咄嗟にジャケットを正すジェードにクラレットは

「ずっと、ずっとお会いしたかった──」と抱きついた。


思ってもみなかった出来事に、ジェードは体勢を崩しそうになったがそこは流石に踏ん張ったようだ。


紫のアスター、花言葉は『恋の勝利』。


こちらに背を向けているクラレットの表情()は見えないけれど、ジェードにはその笑顔が見えているに違いない。


キャナリィとシアンは微笑み合い、そっとその場を後にした。





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