お前の『勝ち』だよ
キャナリィ嬢の誕生日プレゼントを選ぶために単身街に出た日からジェードの様子がおかしい。
「確か護衛の報告から町娘の格好をしたメイズ伯爵令嬢と何かを作っていたと言っていたな」
フロスティ公爵は当日の護衛からの報告書を読み返しながら考え込んでいた。
あの日、クラレットに護衛がついていたようにジェードにも護衛がついていた。
そして二人がチャーム作りに集中している間に情報交換を行っていたのだ。
そうでなければ、公園とはいえ身分を隠して街に出ている貴族令嬢が平民でしかも異性と同じテーブルにつくことが許されるはずがない。
お互いの素性を知った護衛達は、オープンな場所であるからとお互い見守ることにしたらしい。
ジェードとシアンの様子を注意深く観察していた公爵夫妻はジェードの企みにすぐに気付くこととなった。
企みといえども可愛いものだ。
いくら優秀とはいえまだ彼はまだ九才の子供なのだから。
しかしシアンとキャナリィ嬢はお互いに好意を持っているようだが、公爵家当主としての適正は同じ年齢であったときのジェードと比べてもシアンは劣る。一目瞭然だ。
学習への姿勢ひとつとっても、このままのシアンを公爵家当主に据えることは出来ない。
ジェードならば今すぐ後継と決めてしまっても良いほどの能力を備えているが。
「お手並み拝見といこう」
公爵はジェードによく似た笑みを浮かべ、報告書を仕舞った。
こうして七年が経った。
ジェードも学園に入学し、シアンは来年から国内の学園には進学せずレベルの高い隣国の学園に留学すると言い出した。
今からシアンが卒業するまで三年以上──ウィスタリア侯爵には話してあるが、うちの馬鹿共はともかくキャナリィ嬢をそんなに待たせるわけには行かないだろう。
シアンは努力し十分優秀に育った。
公爵家をまかせても大丈夫だろう。
ジェードとキャナリィ嬢が中々婚約しないため、何かを勘繰り『娘を嫁に』や『ジェードを婿に』等言ってくる貴族家が増えてきた。
愚かな奴らめ。他家にやるくらいなら無理にでもキャナリィ嬢と婚約させ公爵家の後継にするに決まっているだろう。
ウィスタリア侯爵家への最終確認は終えている。
侯爵夫妻から見てもキャナリィ嬢がシアンを想っていることは一目瞭然らしく否やはないとのこと。
メイズ伯爵家とは商会を通じてではあるが、古くから付き合いがある。
ジェードの婿入りの打診をしたところ青天の霹靂だったようだが、ジェードの目利きの噂も聞き及んでいるし、クラレット嬢はその性質から男性に敬遠されがちだった為婿探しも難航していたと言うことで逆に喜ばれた。
ある日のこと、丁度皆がサロンに揃っていたため後継の話をしようとするとジェードが私の言葉を遮ってきた。
ここでも愚か者を演じている?それとも思わず──といったところか?
「まだまだだな」
匙加減は絶妙だが私も伊達に長年公爵家の当主をやっているわけでは──いや、君たちの親をやっているわけではないんだよ。
「──しかしそうか。商会への婿入りを望むか。まぁお前は目利きも確かだからな。ではその方向で考えよう」
仕方がない、お前の『勝ち』だよ。




