今後ともよろしくお願い致しします
あれから七年の月日が流れた。
ジェードは十六才で学園の一年生、シアンは十五才になった。シアンは来年から隣国に留学することが決まっている。
「──シアンも頑張っているようだな」
ある日家族が揃った我が家のサロンで父がそう切り出した。
──とうとう来たか。ジェードは気分が高揚するのが分かった。
「次期公爵だが──」
「公爵家はキャナリィとシアンが継げばいいよ。僕はどこかの商会にでも婿に行くかな。そうすれば大好きな美術品や宝石に携われるでしょう」
そう言ってジェードはしまった、と思った。気持ちが逸りすぎて父の言葉を遮ってしまった。
しかし、この粗相もあまり物事や発言内容を深く考えて行動しないという虚像作りに一役買ってくれたようで、父は深いため息をひとつついただけで叱責はなかった。
その結果ジェードは公爵を継ぐには致命的であると、後継はシアンだと正式に決まった。
「ジェードは他の高位の貴族家に入るとしてもその家に迷惑をかけてしまうかも知れないな──しかしそうか。商会への婿入りを望むか。まぁお前は目利きも確かだからな。ではその方向で考えよう」
話はそれで終わったが、ジェードは勝利を確信していた。
貴族家には保たなければならない面子というものがある。
ジェードは公爵家の令息でしかも長男だ。いくら本人が望んでも下位貴族に婿に出すわけにはいかない。
侯爵家、もしくは一定の水準以上の結果を出している伯爵家。
そしてその中で商会を経営しており一人娘に現在婚約者のいない家と言えば──
その3ヶ月後、フロスティ公爵家とウィスタリア侯爵家、フロスティ公爵家とメイズ伯爵家で二組の婚約が結ばれた。
それからクラレットと七年ぶりの再会を果たしたが、あの時お互いに名乗らなかったためクラレットは少年から青年へと成長したジェードが分からないようだった。
それでも学園に通い出した今、公爵家令息で美しい面立ち、しかも婚約者がいないと言うことで、ジェードは女生徒からかなりの人気を博しているのだ。
ジェードが一度微笑めば、女生徒は顔を赤らめるというのに・・・
「あなたに恋情はありません──が、あなたの審美眼と眼識は尊敬に値すると思っております。今後ともよろしくお願い致しします」
姿勢を正し、真っ直ぐジェードを見て顔を赤らめることもなく頭を下げるクラレットに、ジェードは拍子抜けしてしまった。
「え、それだけ?」
「それだけとは?」
表情に出ないのは相変わらずか・・・こちらはクラレットを手に入れるために大変な努力をして見せたというのに、自分を見ても全く表情を変えないとは自信をなくしてしまうよ。
「──面白いけどね」
ジェードは小さな声でそうつぶやくと、仄暗く微笑んだ。
まぁ、他の男にも簡単にはあの表情を見せないのだと思うと溜飲も下がるというものだ。




