ねぇそれ、どうするの?
キャナリィと初めて会ったのはジェードが八才、弟であるシアンが七才の時だった。
ウィスタリア侯爵夫人と共に母のお茶会にやって来たのだ。
ジェードとシアンも呼ばれて夫人に挨拶をした後、キャナリィと三人、庭で遊んだのを覚えている。
後から知ったのだが、それはフロスティ公爵を継ぐ予定のジェードとキャナリィの婚約を前提とした顔合わせだったらしかった。
「困ったな」
それを知ったジェードは頭を悩ませた。
キャナリィはいつもふんわり笑っている可愛らしい子だとは思うし、ウィスタリア侯爵夫人を見ても将来は美人になると思う。
所作も流石は侯爵令嬢だというレベルだし、穏やかで人当たりも良い。他の貴族や使用人とも上手くやるだろうし、子供も問題なく産み育てることが出来るだろう。
ジェードにもそれはよく分かっていたが、どうしても彼女が好きになれなかった。
下手に自分のやることに口を出してこられるより、従順な方が扱いやすいだろうし、所詮貴族の結婚だ。これは家同士の契約であり、余程険悪でない限り本人達の好みなどは聞き入れて貰えない。
その証拠にジェードがそうであるように、キャナリィからも自分への好意は感じられない。なのにこの話は進められている。
いや、むしろ──
分かっているのに流されているのか、諦めているのか、ジェードのような戸惑いや迷いも感じないキャナリィが何か気に食わないのだ。
──親に言われたから自分と婚約するのか?
いつもニコニコ笑っているキャナリィをジェードは人形のようでよく分からない、とてもつまらない女の子だと感じていた。
キャナリィと出会って一年が経った頃、ジェードはキャナリィへの誕生日プレゼントを買いに街に出ていた。
貴族とは言えまだ子供で婚約者でも無い。あまり高価な品は渡さないのが定石だ。
例えどんなものを渡しても、キャナリィは柔らかく微笑み、心から喜んで受け取ってくれるに違いない。そんな子だ。
しかし「そうじゃない」──ジェードはそう呟き女の子の好みそうなアクセサリー達から顔を反らし、ショップを後にした。
ふと横を見るとその店の裏で何かを覗き込んでいる一人の女の子が目に入った。
何を見ているのか気になって近付くと、そこは店で売られている宝石を加工している加工場のようだった。
彼女はアクセサリーを作るには小さくて使えなかったり、大きな宝石をカットする際に出た──ジェードに言わせれば屑石を見ていたのだ。
(なんだ、つまらない)
ジェードがそう思い立ち去ろうとしたとき、少女が顔を上げて口を開いた。
「緑色もある?」と。
「エメラルドとペリドットがありますよ」と店主は奥から屑石の入った皿を持って出てきた。
「ありがとう」
女の子は再び顔を屑石に落とすと真剣な顔で吟味しだしたため、店主は「決まったら声をかけておくれ」と言い残し作業台の方へ戻っていった。
ジェードは街娘風の衣装の素材や所作から女の子が貴族令嬢であることに気づいた。
そして貴族令嬢がそんな屑石をどうするのか気になった──ので思わず聞いてしまった。
「ねぇそれ、どうするの?」
いつもならこんな不躾なことはしないがお互い庶民風の格好をしている。
だからこれはセーフだろう。




