80話 それぞれの戦い
騎兵隊の戦闘が始まった直後、ボルドは両翼の歩兵隊から小隊を出撃させる。
それに対し、右翼の小隊にはロイが、左翼の小隊にはネージュが対応する。
「私はリブ様の歩兵隊長ロイと言います!!ここは通しません!!」
「ふむ、私はクイーン様の第4親衛隊にして歩兵隊司令官のラルフだ。悪いがここを通らせてもらう」
右翼側でロイとラルフの戦闘が始まる。
一方左翼側では戦闘は起こっていなかった。
「私はリブ様の歩兵副隊長ネージュです。手加減はしません」
「あら、これはご丁寧にどうも。私はクイーン様の配下リリスと申します。特に役職はないわ。戦闘も苦手なの。ボルドがうるさいから出てきたけど、私としては時間稼ぎが出来ればそれでいいわ?」
ネージュはその言葉が気になった。
この戦場で時間を稼ぐ意味がないからだ。
制限時間が決められている以上、時間稼ぎは逆に相手にとって不利になるのだ。
もしかしたら、この人の狙いはここではないかもしれない。
ネージュは直感でそう感じた。
歩兵隊を前に出し、ネージュは小声で通信を始める。
「リブ様、こちらの敵は何か企んでいるかもしれません。お気をつけください」
「わかった。こちらで対応してみるからネージュはそいつを足止めしておくだけでいいよ」
通信を受けた俺はチャコとマガストールに辺りを警戒させる。
ネージュの方は相手が戦う意志がないから、進展はない。
一方、ロイの方はかなり苦戦しているようだった。
「くっ!!ディフェンダーですか!!私とでは相性が悪いですね……」
「どうした?そんなものか?全く手応えがないが?」
ロイの攻撃はことごとくラルフの盾で防がれてしまっていた。
これは、何か手を考えなければ負けてしまいますね……
ロイはケインとの特訓を思い出していた。
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「ロイさん、ガードを固める相手に正攻法だけでは勝てませんよ?」
「しかし、私のスキルではこうするしか方法がないですが……」
ロイは訓練所でケインの特訓を受けていた。
いつも、ケインやカイザーの後ろで待機して相手の足が止まってから攻撃するしかないので、それでは歩兵隊の隊長として前で胸を張って戦闘できないと感じたからだ。
しかし、何度攻撃しても、全てケインの大盾に防がれてしまう。
「相手の隙をつくには、行動を変えないといつまで経っても攻撃は当たりませんよ?」
ロイは必死に考えた。
今あるスキルで、ケインに攻撃を当てるにはどうしたらいいのか。
考え、試し、失敗して更に考える。
それをもう数えきれないほどやっている。
それでもケインの防御は崩れなかった。
「ロイさん、私とロイさんのミスマッチの部分は何ですか?そこをうまく利用出来ればいいと思うのですが?戦闘に卑怯な事などないのですから」
バカ真面目に正面からしか攻撃してこないロイに対してケインはそうアドバイスを送る。
「ミスマッチな部分ですか……」
ロイは、何かを思いつく。
そして、次の攻撃でケインにダメージを与える事に成功したのだった。
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そうだった!!
私はまたバカ正直に正面から……
ロイはそう思うと、一度距離を開ける。
「どうした?もう諦めたか?」
ラルフは余裕の態度でロイを挑発する。
「いえ、あなたを倒す方法を思い出しました」
「ほう、何度やっても同じ事だが……ならば遊びは終わりだ!!今度はこちらも攻撃させてもらう!!」
ロイの言葉にラルフが反応する。
そして、ロイは持っていたスピアをその場におくと、剣に持ち替える。
「剣だと?大盾に最も不利な武器に変えるなど愚の骨頂!!」
ラルフは勝ちを確信した。
2人の間に一瞬の間が開くと
『瞬足!!』
『ワンハンドクイック!!』
ロイは瞬足で自身の移動速度を加速すると、更にワンハンドクイックで攻撃速度を上げる。
「何!!だが正面から来るならスピードなど関係ない!!」
『ヘビーボディ!!』
ラルフは盾を前に構えカウンターの準備をする。
しかし、その盾にロイの攻撃は当たる事はなかった。
ラルフは背中に痛みを感じながら、その場に倒れるのだった。
ロイは加速した直後、ラルフが盾で前を固めたのを確認すると、直前で左側に軽くジャンプする。
そして、ラルフの真横を通り抜ける瞬間右手の剣を後ろ側に薙ぎ払う。
剣速も上がっているので、剣がラルフの背中に直撃した。
攻撃スキルだけではなく、移動スキルと補助スキルを組み合わせて剣技にしたのだ。
「スキルだけに頼らないか……」
ラルフは負けを確信しながら意識が遠くなるのを感じていた。
ネージュの報告を受けた俺は、ロイの戦いを見ながら周囲に気を配る。
チャコとマガストールも俺から少し離れた場所で気配を消して周囲を警戒している。
「リブ様、いました」
チャコが怪しい男を見つけた。
城壁の真下辺りに隠密のスキルを使って俺の元に向かって来ているみたいだ。
マガストールが男の背後に回っている。
チャコとマーチは俺の隣で警戒してくれているが、別に警護はいらない気がする。
男に追いついたマガストールが後ろから羽交い締めにすると
『パワーボム!!』
と、階段の高さを利用して地面に頭から叩きつける。
男はその衝撃に耐えられずそのまま気絶してしまった。
それに気がついたリリスは
「あら?あの人失敗したみたいね、所詮は新参者だったわね。これで作戦は失敗、それじゃ引き上げるわね」
そう言うと歩兵隊を連れて陣形に戻って行った。
ことごとく作戦が失敗したボルドは、苛立ちを抑えきれないでいた。
「本当に使えない奴らだ!!クイーン様になんと報告すればいい!!」
そう、この戦場にクイーン・デルタはいないのだ。
総大将はボルドで、数人の将軍を連れて来ただけだった。
ボルドは、クイーンが戦場に出るまでもなく、自分達だけで勝てると思っていたのだ。
しかし、結果は惨敗これ以上の失態は許されなかった。
冷静であれば、次の手を考える所なのだがボルドの怒りはその冷静さを失わせてしまった。
何を血迷ったか、全軍突撃の命令を下したのだ。
後は、マット軍の重籐弓隊と魔導兵団の餌食だった……
クイーン軍は全滅、将軍達も深傷を負っていてまともに戦えない。
無事なのは、ボルドとリリスの2人だけだが、リリスはラルフ達の回復で忙しい。
結果として、無傷で残っているのはボルド1人だけだ。
対するマット軍はほぼ無傷。
数人の怪我人はいるが、大した怪我ではない。
ボルドは捨て身の攻撃を覚悟するのだった。
王城攻防戦……残り3分




