73話 遠征開始
マットを出た俺達は方向がわからない事に気がつく。
ミーシャが方位磁針を作ってくれたのだが、磁場がないらしく針が動かないのだ。
仕方ないので、適当に歩き始める。
城門を出てとりあえず真っ直ぐだ。
しばらく歩くと、ケンタウロスの森とは少し違う森が見えて来た。
「あれってケンタの森とは違う気がするんだけど」
俺達は会話の便宜上ボスの地形で呼んでいる。
ケンタの森、マンティの山などだ。
「確かに、生い茂っている木々が少し違いますね」
ノエルも違うと感じていた。
「ボスがいるかもしれないけど入ってみる?」
「ボスがいたらガンガン倒しますよ?」
何故かミーシャはやる気満々だ。
それならと、森の中に入る。
しかし、森の中にはモンスターがいない。
雑魚もいないのだ。
「どうなっているんだろう?」
俺達は不思議に思いながらも、奥に向かう。
すると突然、目の前に光が走る。
『貴方は何者ですか?』
小さな光が目の前に止まると、声が聞こえた。
「俺はリブ・クロートだ。この森はモンスターの地形じゃないのか?」
俺は、その光に話しかける。
『ここは精霊の森……風の精霊シルフ様の支配領域です』
どうやらこの小さな光は、精霊のようだ。
精霊……確か使役スキルを獲得したな。
「そのシルフ様に会いたいのだけど、どこに行けば会えるのかな?」
『シルフ様に会いたいのであれば、貴方に資格があれば自ずと会えます』
精霊はそう言うと、どこかに飛んでいってしまった。
まぁ、資格が有るなら会えるんだからとりあえず奥に進もう。
そのまま、奥に進むと光が射す広場に出た。
そこには無数の小さな光が飛び交い、眩しいくらいだった。
広場の中央に来ると、空から光の柱が降りてくる。
『私は風の精霊シルフ。貴方は大きな力を持っていますね?その力を何に使いますか?』
「力を何に使うか?そんなの決まっている。みんなの笑顔を守る為だよ。俺は、みんなと楽しく生活したい。その為にこの力を使うつもりだ」
俺はありのままを答える。
言葉を飾っても仕方がないのだ。
みんなと笑って暮らしたいというのは、あの時俺が心に誓った事なのだから。
『笑顔を守るか……簡単な事ではないぞ?それでも貴方はそれを目指すのか?』
「ああ、簡単じゃ無いのは承知の上だ。でも、それでも俺はそれを失いたくないんだ」
『いいでしょう。私も貴方に力を貸してあげしょう。さぁ、私を使役しなさい』
シルフにそう言われて、俺は精霊使役のスキルを発動させる。
すると、シルフが俺の体に入って来た。
「おっ!!なんか体が暖かい」
そして、俺の体が光出す。
「リブ様、称号アップですか?」
ミーシャに聞かれて本を開いたのだが、称号に変化はなかった。
しかし、新しいスキルが増えていた。
追加スキル : マッピング、フライ、シルフの息吹、ウィンドカッター、アルクストリーム
と書いてあった。
なんとなくわかるが、一応念のためスキル鑑定を使ってみる。
マッピング : 風の精霊を使って、地形などを地図に記す。
フライ : 空中浮遊が可能になる(単身)
シルフの息吹 : 風の精霊シルフによる強力な風魔法
ウィンドカッター : 風の刃を飛ばすことができる魔法
アルクストリーム : 風の方舟を作り出し空高く舞い上がる。数人を運ぶ事が出来る(許容人数:8人)
となっていた。
マッピングとアルクストリームはかなり使えそうだ。
シルフが俺の中に入った事で森は消えてしまった。
草原に戻った俺達は、先に進む。
せっかくなので、今覚えた魔法を使ってみる事にした。
『アルクストリーム!!』
『マッピング!!』
風で出来た大きな方舟は、俺達を乗せると空高く舞い上がる。
そして、ゆっくりと進み始めた。
「これは楽だな。移動も勝手に動いてくれるし自動で地図も作ってくれる」
空から下を見ると、草原にいくつか城と街が見える。
海も見えるし、大きな山もあった。
地上からでは見えなかった景色が、そこには広がっていた。
「これで移動もいいけど、城や街がわからないな。ある程度マッピングしたら歩いて移動しよう」
「そうですね、せっかくの遠征だからゆっくり楽しみたいです」
ノエルは遠足気分だった。
まぁ、こっちの世界に来てからほとんどマットの中にいたから仕方ないだろう。
大陸の3分の1程度マップが完成したので街の近くの草原に降りる。
そこから歩いて街に入る事にした。
「さっきの魔法を魔導兵器に搭載したら空が飛べますね」
ミーシャは、魔導兵器の事を考えていた。
別にいいけど、やり過ぎないようにね……
そして門をくぐると、そこは街というより村だった。
農村と呼ぶのに相応しい田園風景が広がっている。
「この村を統合したら、食料事情が改善されそうだな」
マットは一気に人口が増え過ぎてしまった為、自給自足だけでは足りなくなって来ていたのだ。
今はまだなんとかなっているが、今後住民が増えた場合足りなくなるのは明白だった。
現時点でのマットの問題点は、将来的な食料不足、住民の増加による土地不足、そして娯楽施設の不足だ。
土地不足はどこかの街を統合すればなんとかなるだろう。
しかし、食料不足はどうする事も出来ないでいた。
娯楽施設は、土地がないのだから後回しでいいだろう。
しかし、休みの日を制定した以上、娯楽施設は必須なのだ。
「食料不足は深刻ですからね……今ある農場だけでは生産量も種類も限られてしまいますから……」
ノエル達とそんな話をしながら歩いていると村人が作業をしていた。
「こんにちは、こちらの長の方はどちらにいらっしゃいますか?」
ノエルが声をかけると、その女性は不思議そうな顔でこちらを見た。
「長の家ならあそこの大きな屋敷だよ。しかしこんな何もない田舎に何をしに来たんだい?」
「ええ、たまたま近くを通りかかったものですから」
「あんたらもかい、どうせここには何もないんだから長に会わなくてもそのまま帰りな」
女性は少し不機嫌そうにそう言った。
「何もない?こんな素晴らしい田園があるじゃないですか?俺は是非この村を統合したいんです」
俺は女性にそう答える。
「はっ?あんた何者だい?みんな見向きもしないここを欲しいだって?」
「すみません、申し遅れました。俺はマットという都市の盟主をしているリブ・クロートといいます。人口が増えてしまった都市の食料事情を改善する為に、是非この村が必要なんです」
俺の言葉に何故か女性は首を横に振る。
「これまで何人か盟主さんが来たけど、この村を見たら呆れてすぐに帰っちまう。気持ちはありがたいが、ここはもうダメだよ。そんな事が何回も続いちまったせいで、農業しかないこの村をみんな見捨てて出て行ってしまった。ここにはもう年寄りが数人いるだけなんだ」
女性は悲しそうな表情でそう言っている。
だが、俺には人数は関係ない。
マットで農業部を作ってそこに人を雇えばいいのだ。
ここの年寄り衆に指導員になってもらえばいい。
マットの住民に年寄りの言う事を聞きたくないなどと、そんな小さい事を言う人間はいないはずだ。
この大きさの田園なら100人もいれば大丈夫だろう。
「年寄りが数人いてくれて助かります。是非俺の元で農業指導をお願いしたいです。ノエル、絶対この村をもらうぞ」
「はい!!必ず手に入れて農業に従事する人を集めてみせます」
ノエルもその気だった。
「あんた方も物好きだね……本気かい?」
「ええ、俺は本気ですよ!!」
そう答えると女性は大きな声で笑い始めた。
「すまない。ここまでこの村を欲しがる盟主さんが現れるとは思わなかった。長生きはするもんだね」
俺達が不思議そうな顔をしていると
「私がここの長で、マリアーネだよ。いや、私達の盟主になる方だ。敬意を見せなければならないね」
なんと、この女性がここの村の長だったのだ。




