66話 クーパーという女性
俺達はいつも通り、城に戻って風呂に入ると宴会が始まるという流れで、現在酒を飲んでいる。
コウリュさんは、もう恒例になりつつある、見るもの全てに驚くという見慣れた反応をしているのだが、クーパーさんに任せて放置だ。
「2日に1回くらい宴会してない?そろそろ普通の食事でもいいんだけど」
俺がそう言うと、全員が一斉に俺を見る。
ん?俺なんか変な事言った?何でみんなそんな怪訝な表情で俺を見てくるの?
「リブ様?何を言ってらっしゃるの?お祝い事があれば宴会するのが当たり前でしょ?」
マーチが凄い勢いで、詰め寄って来る。
それに対してみんなが大きく頷く。
何故か、全員がマーチを支持しているようだ。
クーパーさんまで、ありえないみたいな顔をしている。
「まぁ、ワイは普通の食事にチョビっとだけ飲めればそれでもええんやけどな?」
そこに、空気を読まないサリーが爆弾を落とす。
次の瞬間、電光石火の速さでサリーの胸ぐらにマーチの手が伸びる。
「はぁ?アンタ何を言ってるの?マジあり得ないんだけど!!自分が何を言っているのかわかってるのかしら?」
冷静なのか、興奮しているのかわからないマーチは、物凄く怖かった。
サリーは俺の方を見ながら助けを求めているが、俺はそっと目を逸らす。
「んな!!リブ様……」
サリーよ……骨は拾ってやるからな……
俺は、そのまま静かにその場を後にする。
「マーチはん!!ワイが悪かった!!もう二度と言わんから許してください!!」
サリーは、命乞いをしている。
マーチはサリーから手を離すと、キッと睨んで
「本当にこのサルは!!禿げればいいのに!!」
と、恐怖の言葉を投げかけると、何事もなかった様に酒を飲み始める。
サリーは震えながら、マーチから距離を取る。
その様子を見て、全員が爆笑していた。
特にミーシャは、寝転がりながらお腹に手を当てて、足をバタバタさせながら転げ回って爆笑している。
「ミーシャ、あまり笑うと明日の朝には腹筋がシックスパックになっちゃうよ?」
ミーシャはヒーヒー言いながら
「だから……それは勘弁……でも……禿げろって……」
ミーシャは、再度爆笑し始める。
それを見て、全員がまた爆笑している。
うん、賑やかなのはいい事だ。
「それで、リブさんにお願いがあるのですがいいですか?」
クーパーさんが、急に俺にそう言うとマーチンさんとコウリュさんも俺の方を向く。
「はい?何でしょう?」
「ここに来て数日経ったのですが、マットの技術力と戦力に感動しました。だから私達もマットに入れて欲しいんです。ただ、私とマーチンはすぐにでも入れるのですが、コウリュ達は、今の同盟を抜けなければなりません。それで、彼女達の盟主を探して倒して欲しいのです」
クーパーさんは、いきなりマットに入りたいと言ってきた。
俺は返事に困ってしまった。
仮にも、クーパーさんも王候補だったはずだ。
それがいきなり俺の下につくと言われても、戦闘なしで配下になれるのかもわからない。
とはいえ、無抵抗のクーパーさんの城を燃やすのは抵抗がある。
街の住民達や、残りの2人の意見も聞かなければならない。
それに、コウリュさん達の本当の盟主がどこにいるのかもわからないのだ。
「リブ様、コウリュさん達の盟主が見つかるまでの間、とりあえずマットの隣にクーパーさんの城を転移して頂いて友好関係のままというのはどうでしょうか?」
悩んでいる俺を見たケインがそう提案してくれた。
それはいい考えだ。
お互いに交流していけば、街の住民達も納得してくれるかもしれない。
「そうしよう。クーパーさんそれでいいですか?」
「はい、そうして頂けると私も助かります。すぐにでも転移させましょう」
クーパーさんは、今すぐ城に戻ろうとする。
「え?今から?もう19時だよ?明日でもいいんじゃない?」
俺は、席を立とうとするクーパーさんを引き止める。
「いえ、城に残っている2人にもここの食事を食べさせてあげたいんです」
そう言うと、マーチンさんを連れて出て行く。
「リブさんごめんなさいね。クーパーさんは一度言い出したら聞かないから……」
コウリュさんが申し訳なさそうに謝ってくる。
まぁ、外に出て転移の書を使うだけだから大丈夫か。
俺は、気にしない様にして酒をグイッと飲む。
すると、ドン!!っと大きな音がして地震が起きる。
「もう転移したんだ……アイーナ、料理の追加とグラスの用意いい?」
俺は、アイーナにそう言うと
「ええ、もう用意させています」
とアイーナは微笑みながら部下のメイドに指示していた。
しかし、ここのメイドさん達はよく働くな。
今度は、メイドさん達の慰安会でもしてやろう。
俺がそんな事を考えていると、クーパーさんが帰ってきた。
「リブさんありがとうございます。それと、これからよろしくお願いします」
クーパーさんはお礼を言いながら席につくと、飲みかけのお酒をクイっと飲む。
その後ろで、困っている2人の男性がいた。
「ワイズもゲーリックもこっちに座って」
コウリュさんに呼ばれて、2人は席に座る。
が、いまいち状況が掴めていない。
「リブさん、彼らはワイズとゲーリックです。ちょっと人見知りですが気のいい人達ですよ?」
コウリュさんが紹介してくれた。
ワイズとゲーリックと呼ばれた男性は、2人とも頭に角があるから恐らく鬼人だろう。
ただ、人見知りというより、クーパーさんが説明しないで連れてきたから、どういう状況なのかわからないと言った方が正解だな。
「ねえ、クーパーさん?自分だけ美味しそうにお酒飲んでるけど、2人に説明した?」
コウリュさんが、クーパーさんに詰め寄る。
しかし、クーパーさんは何も無かった様な澄ました顔で
「ええ、ちゃんとご飯を食べに行くって言いましたよ?」
と、意味不明な事を口走る。
うん、絶対それじゃわからないな……
ご飯を食べに食べに行くだけで城を転移させる人はいないと思いますよ?
「もう!!それじゃわからないでしょ?まったく……」
コウリュさんがため息を吐く。
「えっとね、これから私達はリブさんにお世話になる事になるわ。今は友好関係って事で城を隣に移動させたけど、あの人が見つかったらリブさんに倒してもらって、その後はリブさんの配下になる事になったの」
コウリュさんの説明に、2人は驚いている。
それはそうだろう。いきなりそんな話をされても困るというものだ。
「それでね、クーパーさんがあなた達にもここの料理を食べさせたいって言い出して今に至るって訳」
2人は、目の前の料理に目を向けると、コウリュさんを見る。
「そう、懐かしい日本食よ?日本酒やビールそれにワインやウィスキーもあるわ」
コウリュさんはそう言うと、グイッとビールを飲むと唐揚げを食べる。
2人は困惑した顔で俺を見ると
「私はワイズと言います。これからよろしくお願いします」
「私はゲーリックです。よろしくお願いします」
「リブです。前回はお話しできなかったですが、これからゆっくり慣れていってください。お風呂もありますのでいつでも使ってくださいね」
俺は2人に挨拶する。
「ここのお風呂は温泉みたいですごいわよ?サウナもあるし、シャンプーやボディソープもあるわ。ご飯も美味しいし」
と、今まで黙っていたクーパーさんが説明しだした。
それをまず伝えてから連れてきてあげて欲しかった。
俺だけでは無く、ここにいる全員がそう思ったのだった。




