56話 それぞれの準備と思惑
セバスチャンが、相手の参謀らしき男と通信を終え、しばらく経った頃、チャコとマガストールはグランツの城の近くの森に到着した。
周囲を見回し、誰もいない事を確認すると地下通路のロイにサインを送る。
そのサインに合わせて、ロイとネージュも歩兵、弓隊を率いて森に出る。
そして、そのまま配置に着く。
歩兵隊員達も息を潜めてその瞬間を待つ。
その時、目の前の城から1人の男が出てくるのが見えた。
参謀服を着た男は、マットの方向に向かって歩いて行く。
恐らくあれが新しい使者だろう。
誰もが開戦が近い事を感じていた。
その頃、カイザーは騎兵隊とギートは訓練所の中で準備をしていた。
新しい使者が城に入る前に城門で準備をしてしまうと、バレてしまう為だ。
騎兵の機動力を考えれば、使者が城に入ってから準備しても間に合うという判断だった。
その時、チャコからグループ通信が入る。
グループ通信は、本を読み漁っているケインが見つけた方法だ。
「グランツの城から1人の男がマットに向かいました。後5分ほどで着くと思います」
それを聞いたギートは矢塔に向かう。
矢塔の頂上に身を潜めて、狭間から城門の方を覗き込む。
少し遠くに人影を確認すると、じっとその時を待つ。
時を同じくして、ミーシャとサリーは兵器工場で必死に魔導兵器を作っていた。
まだ、試作段階ではあるが一体は出来ている。
その試作1号を、リブのクリエイトで100体ほどコピーした。
騎兵隊から100人ほど借入れ、魔導兵として使い方を説明する。
サリーのスキルで火魔法と水魔法をエンチャントした魔導兵器は、銃器を兼ね揃えた魔導兵器に仕上がっていた。
ミーシャとサリーが乗る機体には、リブが精霊魔法エクスブロードをエンチャントした。
その驚異的な魔導兵は波動砲はまだ撃てないものの、十分な戦力になっていた。
そして、チャコのグループ通信を聞くと、緊張した面持ちで出陣の時を待つのだった。
マーチはクーパーと一緒に参謀本部にいた。
その顔は、緊張とプレッシャーで強張っていた。
今回は、総大将という大役を受けた為だ。
「マーチさん、リラックスしてとは言えないけど、リブさんもいるんだからそこまで気負わなくても大丈夫なのでは?他のメンバーもとても頼れる人達じゃないですか。きっと勝てますよ」
クーパーは、マーチの緊張を少しでも和らげるようと、笑顔で話かける。
「ええ、みんなとても頼りになりますわ。でも、だからこそ無理させないように私がしっかり戦況を見極めないと……」
マーチは更に自分を追い込んでいく。
クーパーは、心配しながらも本当にいい同盟だと思うのだった。
そこにチャコのグループ通信が入る。
マーチとクーパーはお互いに顔を見合わせると、カイザーのいる訓練所に向けて歩き出すのだった。
俺とケイン、ノエルは大広間でその時を待っていた。
新しい使者が、内通してくれるかどうかは賭けでしかない。
もし断られた場合、こちらの動きがバレてしまう可能性もある。
まぁ、その場合でも問題ないように準備はしているのだが、出来れば警戒されたくない。
「使者の態度次第では、ガンマを人質として使う事も考えておいた方がよろしいかと」
ケインがそう提案してきたのだが、
「いや、ガンマは普通に返すよ。人質で脅すとかは嫌いなんだ。奇襲は戦略としていいけど、人質は何となく違う気がするんだよね」
俺は人質はどうしても非人道的な感じがして嫌だった。
もし、一般の住民が人質に取られたりする事も考えると、偵察に来た彼も人質という事になってしまう。
それだけは、どうしても避けたかった。
そして、ケインと話をしているとチャコからグループ通信が入る。
「どうやらフランが単独で来るみたいだな。上手く取り込めればいいけど、相手は頭が切れそうだから慎重にいこう」
フランの到着まで、細かい部分を調整しながら待っていると
「使者の人が、城門を通過しました」
矢塔で確認をしていた、ギートから通信が入る。
全員に緊張が走る。
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
参謀服を身に着けた男が、セバスチャンに連れられて入って来た。
「はじめまして、私グランツ・ロックスの参謀をしております。フランと申します。この度は、我々の落ち度により暗殺者を送り込む形になりました事、深くお詫び申し上げます」
フランの言葉は予想外だった。
保釈の交渉をするのかと思っていたら、まず詫びの言葉を述べたのだ。
「いや、偵察は軍事的に必要な事だ。その人物が暗殺者のスキルを持っていただけの事。
その人物が偶然、俺達に見つかって捕まっただけなのだから、そこまで謝罪される事でもない」
俺は何でもないと、フランに返す。
暗殺者という設定自体が、俺が作り上げた話なのだから、実際何も問題はないのだ。
「そう言って頂けると、こちらとしても助かります」
「それで?まさかその謝罪の為だけに、ここまで来た訳ではないですよね?」
「はい、我らが盟主であるグランツ様のご友人であるガンマ様を保釈して頂きたく、お願いに参りました」
やはり、ガンマの保釈の話だった。
「保釈金は前回の使者が持って来ていた。こちらに対して暗殺する意思がないのなら釈放しても構わない」
俺の言葉に今度はフランが驚いている。
恐らく、自分とガンマは人質として使われると思っていたのだろう。
「よろしいのですか?」
「ああ、人質などという、つまらない戦略は嫌いなのでね」
「ありがとうございます」
フランは深く頭を下げる。
そして、顔を上げて俺の方を見ると
「貴方様のお名前をお教え頂けないでしょうか?」
と聞いて来た。
「ああ、俺の名前はリブ・クロートだ。ここの城主でマットの盟主をしている」
「リブ様でございますね……失礼を承知でもうひとつお願いがございます」
フランが、俺に何かを頼もうといている。
「なんだろうか?俺に出来る事であれば聞きますが?」
「はい…… その…… 申し上げ難い事なのですが……」
フランは、俺達を見回すと意を決したように
「グランツを倒して頂きたいのです!!そして、私達を登用して頂きたく」
と、驚きの発言をした。
え?グランツの参謀が自分の主を倒してくれって?何かの策略か?
俺は、驚きを超えて混乱してしまった。
「お話中失礼します。私、リブ様の参謀をしていますケインと申します。フランさん、ご自分の盟主を倒して欲しいという事は、謀反になると思うのですがなぜそのような事を?」
その様子を見ていたケインが代わりに口を開く。
「はい、既にご存知かと思いますが、私は元々グランツの部下ではないのです。
戦争に負けて、強制的に従っているだけに過ぎません。あの人は、統治に興味がなく王としての資質を感じません。
しかし、この街は実に素晴らしかった……
監視の目もなく、住民達にも活気があり本当に楽しそうに生活していました。
それに、リブ様と従者の方の関係も、ただの主従関係ではないとお見受けしました。
私と元の盟主は、ここの様な領土にする事が夢でした……
しかし突然、グランツに攻撃を受けてしまい、戦争の準備が出来ていなかった我々は敗北してしまったのです……
私達は自分達の住民を守る為にグランツに従ってはいますが、彼に対して忠誠心はないのです」
フランは目に涙を浮かべながら話をしている。
これが、何かの策略だったらこの人は相当の策士だ。
「フランさん、それが真実である証明は?俺達を懐柔しておいて、寝首を掻くなんて事はないですよね?」
俺達に謀反を表明して、安心させておいて寝首を掻く事も可能なのだ。
「証明はできません。しかし、お話した事は全て事実で御座います。
それでしたら、レナードという代表がおります。彼は、元々私達の街の代表だった者です。彼に、グランツの城に入れるよう手引きをさせましょう」
俺は、ノエルを見る。
「リブ様、フランさんは信用しても大丈夫だと思います」
そう、ノエルは読心術スキルで、相手が何を考えているのかわかるのだ。
「ふむ、フランさんわかりました。では、こちらからもお願いがあります」
俺は、フランの顔を見るとこれからの計画を話すのだった。




