53話 レナードという男
「大体、欲しそうな情報は手に入ったかな?」
チャコは、宿屋の部屋で情報を精査していた。
マガストールは、お酒の仕入れをする為に街に出ている。
「でも、この城って大きいけど何となく殺風景なんだよね」
街を吸収して、大きくはなっているのだが、マットほど活気がない。
グランツに関しては、悪い話は聞かないが、特にいい話もない。
良く言えば悪政ではないのだが、悪く言えば誰もグランツに興味がないのだ。
グランツとその部下が、滅多に街に出る事はないらしく、ほとんど城にいるとの事だった。
内門の内側にいくつか施設はあるので、何らかの役職には就いている事は確認できた。
しかし、施設の形や大きさは各城によって違うみたいで、どれが何の施設なのか見ただけでは判断できなかった。
チャコ達は、街の酒場や買い物をした店で、噂や情報を集めたのだがほとんど何も出てこないのが現状だった。
なので、そろそろマットに戻ろうと帰り支度をしていると
コンコン!
部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はい」
「すみません、少々よろしいでしょうか?」
チャコが返事をすると、扉の向こうから男の人の声がした。
もしかしたら、偵察がバレて捕まえに来たのかもしれないと、両手にダガーを握り警戒をしていると
「私、この街の代表をしております、レナードと申します」
男の人が扉の向こうで自己紹介をした。
代表が私に何の用だろう?
チャコは、警戒をしたまま扉を少しだけ開けて外を見る。
扉の向こうには、口髭を生やした優しそうな老紳士が立っていた。
レナード以外、他に人はいなそうだった。
「何のご用でしょうか?」
チャコは、恐る恐るレナードに問う。
すると、レナードは周りを警戒すると
「マットからいらした方で間違いないでしょうか?」
と、小声でチャコに聞いてきた。
「はい、そうですが?」
チャコがそう返すと、レナードは安心した顔をして微笑んだ。
「良かったです。ここでは何ですので、後ほどお連れ様とご一緒に私の屋敷までお越し頂けますでしょうか?」
レナードはそう言うと、屋敷の場所が書かれた紙をチャコに渡すと一礼して帰っていった。
しばらくして、マガストールが帰ってきたので一緒にレナードの屋敷に向かう。
地図に書かれた場所に着くと、大きな鉄で出来た門がある。
門の前まで来ると、レナードが出迎えてくれた。
「わざわざ、ご足労いただきましてありがとうございます。どうぞこちらへ」
チャコとマガストールはレナードに連れられて、屋敷の中に入ると右手側にある食堂に案内される。
椅子に座ると、メイドさんが紅茶を入れてくれる。
「それで?わざわざ屋敷まで招待してくれた理由は何ですか?私達はただの観光客ですよ?」
チャコはレナードに問う。
偵察中に、リブの部下などと名乗れないので観光中の夫婦として振る舞う。
「はい実は私、チャーリーとは従兄弟でして、先程までマットの街にお邪魔していまして、あそこは素晴らしい街ですね。是非とも私達もご一緒したいと思いました」
へー、チャーリーさんと従兄弟なんだ?
って、え?ご一緒?
チャコはマガストールと目を合わせると、
「その話を、私達にする為に招待した訳じゃないですよね?目的は何ですか?」
「そのマットから、観光客の方が私共の街にいらっしゃるとお聞きしまして、この街の感想をお聞きしようかと思いまして」
レナードは何やら意味深な笑みを浮かべている。
「なるほどね……」
チャコは、何かを察して建前で話を進める。
「そうね、大きな街にしては殺風景だと感じたわ?売っている品物もマットの方が質が良いし、サービスも不十分だと思ったかな?あなたはどう思った?」
そう言うとマガストールに話を振る。
「そうだね、お酒の種類も少ないし街に活気がないな。後、みんなここの城主様に敬意がないかな?マットの住民は全員リブ様を尊敬してますから」
「やはりそうですか。グランツ様も良いお方なのですが、街の運営には興味がありませんから。何より、住民は税金を納める為のただの奴隷のように考えるお方ですので……
部下の方々も、元はご自分が王候補だった方とその従者の方々ですので、グランツ様に忠誠心などございませんし、勝っている間はここにおられるでしょうが、負けると判れば裏切る方もいるのでは無いでしょうか?」
レナードは、世間話を装いながら重要な情報をくれる。
もしかしたら、この屋敷にも監視の目があるのでは?
街の中にも、宿屋にも変装した兵士が監視をしている雰囲気があった。
なので、ここの屋敷の中にもいるのではないかと考えたのだ。
それで、街の人は情報を話せないし、興味がない振りをしているのだろう。
チャコとマガストールはそう感じたのだった。
「紅茶のおかわりを頂けますか?」
チャコは何気に隣に立っているメイドにお願いする。
メイドは、誰にも気づかれないくらい一瞬だが、嫌そうな顔をしてキッチンで紅茶の準備をする為に部屋を出る。
「なるほどね」
「さすがでございます。リブ様は本当に優秀な部下をお持ちですね」
レナードがチャーリーの従兄弟で、先程までマットに行っていたのだから、
チャコとマガストールの存在を知らない訳がない。
それなのに、ただの観光客としてこの街の感想を聞くなど、おかしな話なのだ。
「失礼致しました。改めまして、我々はマットに合流したいのでございます。あの街は本当に素晴らしい。この街から何人か送り込んで内偵を進めていたのですが、帰って来る者全てが絶賛するのです。そして、先日戻った者がチャーリーから手紙を預かっており、一度遊びに来るようにと書かれていました。そして、先程までマットにいた訳なのですが、その時にチャコ様達がこちらにいらっしゃるとお聞きしました」
レナードはメイドが帰って来る前にと、早口でそして小声で話を進める。
「リブ様はグランツを倒す予定がお有りとか、是非とも協力したいのですが、監視がいますので詳しくはお話しできません。手紙も一度中身を確認されてしまいますし、チャーリーの所に行くにも監視が同行します。ですのでこれを」
そう言うと、数枚の紙を魔法のバッグから取り出すと、そっとチャコに手渡す。
チャコは、その紙をすぐに魔法のバッグにしまう。
するとそこに、紅茶を持ったメイドが戻って来た。
「もっと、品物を揃えたいですね。洋服もセンスがないです。宿屋の食事も質素ですし、布団も硬いですね」
「なるほど、やはり観光客のお方の感想が1番良いですね。こちらに足りないものが、良くわかりました」
と、何事もなかったように話だす。
レナードもそれに合わせる。
メイドは、紅茶を注ぐとまたチャコの隣に立つ。
その後は、何でもない雑談をして、不自然にならないように時間を稼ぎ、屋敷を後にするのだった。
「それでは、私達はこれで」
「はい、わざわざお時間を作ってお話をお聞かせ頂き、ありがとうございました」
チャコとマガストールは宿屋に戻ると、もう一泊して陽炎城に戻る事にした。
そのまま帰ると、監視に疑われる可能性があるからだ。
宿屋に戻っても、レナードから受け取った紙は出さず、あくまで普通の観光客として振る舞い、翌日街を出るのだった。




