49話 グランツという男
静かな城の奥の部屋で、椅子に腰掛ける男がいた。
額には大きな角が2本生えており、目は鋭く口には牙が見える。
その男の目の前に6人の男女が跪く。
そこに、傷ついた兵士が駆け込んでくる。
兵士は部屋の入口で跪き頭を下げると、起こった事を報告する。
「報告致します。ガンマ様敗北!!兵士は全員戻りましたが、ガンマ様は捕虜として捕縛されました!!」
兵士の報告を目を閉じて聞いていた男は、そっと目を開けると兵士を睨む。
そして、深いため息を吐くと
「ご苦労、下がっていいぞ」
と、兵士を部屋から下がらせると、強い覇気を出す。
その覇気に当てられ6人は、体を硬直させる。
「ガンマがしくじった。しかもよりによって捕虜になるという失態付きだ。この事態をどう思う?」
男は6人を順番に見回すと、覇気を解く。
体の硬直が解けた6人は、一瞬安堵するが、即座に緊張した面持ちで男を見る。
「ガンマさんは役職を与えられておらず、スキルも持っていません。負けてしまうのも仕方がないかと。しかしながら、こちらの情報も知らせてはいないので、大事には至らないでしょう。ですが、敗北の責任は取らせるべきかと」
参謀服に身を包んだ紳士のような男が顔を上げると、男にそう告げる。
他の5人は、下を向いたまま男の言葉を聞く。
「ふむ、しかし奴は俺が唯一友人付き合いを許した男……こちらの痛手にならないのであれば、多少は目を瞑ってやらんでもない」
男はそう言いながらも、内心は穏やかではなかった。
自分達が負けるなどあり得ないのだ。
「グランツ様、私めがその城を再度攻めてまいりましょうか?」
今度は、鎧を来た大男が進言する。
グランツと呼ばれた男は、その大男を睨むと
「いやジーガ、あの城は何か嫌な予感がする。何故か、あの城にだけは2度も敗北している。あそこには、得体の知れない何かがある。慎重に事を進めなければならない気がするのだ」
グランツは、天井を見上げるとジーガにそう答える。
ジーガは、グランツの言葉を受け止めると、また無言で下を向く。
「フラン、向こうに使者を送るのだ。まずはガンマを保釈してもらおう。その後で、あの城に偵察を送るのだ。これは俺の勘だが、近いうちにあの城と大きな戦争が起こる気がする。その前に、向こうの情報が欲しい。お前達も急ぎ準備を進めるのだ。相手を格下と思わない事だ」
グランツはそう言うと、椅子から立ち上がり6人に指示を出す。
フランと呼ばれた参謀服の男は、急いで立ち上がると部屋から出て行く。
他の5人も、立ち上がりグランツに一礼すると部屋から出て行くのだった。
グランツは独裁者ではない。
ましてや、アークのように自信家でもない。
2度の敗北、そして唯一の友を捕虜にされた。
その怒りは抑えきれないが、感情のままに行動を起こすような単純な男でもなかった。
まずは、安全に友を連れ戻し、その上で次の手を考えるのだ。
確実に勝つための手段を考え、それを正確に実行しなければならない。
あの城には、そこまでしなければならないと感じたのだ。
あそこには、何かがある。そして、その何かがわからない内は軽率な行動をするべきではない。
それこそ、被害が拡大する可能性があるのだ。
そのためには、情報が必要だった。
「一体あの城には何があると言うのだ……」
グランツはそう呟くと、また椅子に腰掛けそっと目を閉じるのだった。
一方、部屋を出たジーガは悔しそうだった。
「グランツ様は何を慎重になっておられるのだ?あんな城、力でねじ伏せれば済むじゃないか!!」
「ジーガさん、いくらなんでもそれは無謀過ぎます。それこそ何回やっても返り討ちに合いますよ?」
「ふん!!フラン!!何を甘い事を言っている。参謀の貴様がそんなんだからグランツ様も弱気になるのだ!!」
ジーガはフランの胸ぐらを掴むと、そのまま投げ捨てる。
投げられたフランを、近くにいた男が受け止める。
「まぁまぁ、ジーガさん落ち着いて下さい。フランに当たっても仕方ないでしょう?」
「やかましい!!セシル!!貴様も投げ飛ばしてやろうか?」
セシルと呼ばれた、細身の男は苦笑いをすると
「グランツ様の命令は絶対でしょ?それともジーガさんはグランツ様ともう一度戦いますか?」
そう、ここにいる6人はグランツと戦い、敗れた者達だったのだ。
ジーガとセシルは、元王候補で盟主としてグランツと戦った。
しかし負けてしまい、ジーガの元配下、ウェンツとビル、セシルの元配下、フランとライズ
という、お互いに2人の従者達と共にグランツの配下になったのだ。
ジーガは巨人で大柄の男だ。職業は騎士で役職は騎兵隊長、セシルは細身の男性で人間の剣士。役職は歩兵隊長、フランは髪の長い男性のエルフで魔術師の参謀、ライズは優しい感じの女性で人間の回復士。役職は病院担当官、ウェンツは獣人(兎人)の男性で生産職の製造開発長、ビルは少し小柄の男性で鬼人の隠密。役職は研究員だ。
この6人が今のグランツの部下である。
そこに、グランツの友達としてガンマがいる。
そういう経緯もあって、グランツ陣営は1枚岩ではなかった。
一髪触発の関係性を、グランツの武力で押さえつけているに過ぎないのが現状なのだ。
だから、何かにつけてジーガとセシルは揉めていた。
その度にフランが間に入るのだが、セシル側のフランが参謀なのがジーガは気に入らないのだった。
ジーガは力こそが正義の所謂、筋肉バカなのだ。
それなのに、グランツはナンバー2にセシルの元従者で王候補ですらなかった奴を抜擢した。
ジーガは、それも面白くなかったのだ。
「ふん!!雑魚どもは、精々俺の足を引っ張らないように訓練しておけ!!」
そう言うと、ジーガは訓練所に向かって歩いて行く。
「やれやれ、先が思いやられますね……これから大きな戦争になるというのに……保釈金と使者の選別はやっておきますので、ビルさんはガンマさんが保釈された後に、偵察をお願いします」
フランはそう言うと、保釈金の支度と使者の人選をする為に参謀本部に入って行くのだった。




