2話 敵?味方?新たな人物
揺れが収まったのを確認して、ベランダから砂煙が起こった方角を見てみる。
すると、そこにはさっきまでなかったはずの西洋風の城が出現していた。
「新しい城?」
もしかして誰かいるかもしれない。
そう思い、俺が階段を降りようとした瞬間、光と共に小さな台の上に新しい本が出現した。
「本?」
また何かの登録?そう思いながら本の表紙を見る。
そこには【同盟と役職】と書かれていた。
同盟?役職?
なにそれ?美味しいの?
などと意味不明な事を思いながら、その本を手に取って開いてみる。
そこには《同盟を作り仲間を集めて役職を与える》と書かれていて、次のページには役職が数個並んでいた。
そして、もう1枚ページをめくると《通信》と書かれていて、隣には魔法陣が描かれている。
よくわからないけど、お隣さんと連絡が取れるかな?
とりあえず呼びかけてみよう。
「おーい、もしもーし、聞こえますか〜?」
……………
返事がない……ただの…………
またしても、どこかで聞いた事のあるセリフが頭の中をよぎるがやめておく。
言葉が通じてないのかな?
そもそも、この世界の言葉って日本語なんだろうか?
言語認識スキルとかあるんだから、もしかしたらスキルがないと通じないのかも……
それに、向こうの人もいきなりここに来てしまって混乱している最中だろう。
まだ言語認識スキルもないかもしれないから、しばらく待ってみよう
自分も経験したからわかるけど、パニックになるのは当然だろう。
俺は気長に待つ事にして、連絡を待っている間に自分の城の中を整備しようと思ったのだった。
まずは、風呂とトイレとキッチンだ!!
スペースはあったが、ただそれだけで必要な物は何もない。
「水回りは現代風かよ……」
思わず笑ってしまう。
それもそのはず、キッチンと思われるスペースにはカマドこそないが、どう見ても流し台っぽい物や、この城に対して違和感しか無い蛇口やテーブルがあるのだ。
風呂やトイレのスペースも同じで、蛇口だけはあるのだから、もうそれ以外考えられないのである。
「だったら最初から全部付けておいてくれ……」
俺には、水回りにこだわるどこかの奥様みたいな感覚はないのだ。
まずはトイレだな。
鍛治スペースで材料を確認すると、手に持っている本に作り方が浮かんだ。
確かに作り方は浮かんだのだが……
どうやら材料が足りないらしい。
って、材料はどこにあるの?
部屋の中を見回してもそれらしい物はどこにもない。
外に出るしかないのか?
城の中は全部見て回ったのだから、何もないのは確認済みだ。
となると、外しか思いつかないのである。
入って来た時に閉じ込められた玄関の扉は、登録後に開いている。
まぁ行くしかないか。
意を決して城の外に出る。
今は落ち着いてはいるが、まだここがどこなのかわからないままなのは変わらないのである。
内側の城門は相変わらず自動ドアで勝手に開く。
外側の城門は常に開いている状態だ。
この城から出たら現実世界に帰れるかも?
という淡い期待は無情にも打ち砕かれたのだが、もうそこは諦めているので気にしない。
城門の外に出ると先ほどの西洋風の城が見える。
思っていたより近くてびっくりした。
お隣さんがいい人だといいな〜とか、日本人だったらいいな〜なんて思いながら、材料を求めて歩いていたのだが、ふとある事を思い出し急いで城に戻る。
走って城に戻った俺は城門の中に飛び込むと、ふーと息を整えて空を見上げる。
「ヤバい……平和ボケしてたけど、武器が作れるって事は何かしらの危険があるって事じゃん!!」
そうなのだ!!
ここは多分異世界で、武器や防具や魔法があるのだからモンスターなんかがいてもおかしくないのだ。
「準備はしっかりしておかないと、死にたくはないからな」
突然迷い込んでしまった所とはいえ、別に死にたい訳ではないのだ。
「えっとまずは魔法の使い方と……」
何時間経過したのかわからない時の中で、久しぶりと感じる【指南の書】を開く。
しかし……
そこに魔法の使い方は書いてない。
それならと【技能の書】を開く。
そして、またしても膝から崩れ落ちる……
「終わった……」
まさかの【技能の書】にも何も書いてなかったのだから、もうどうしようもない。
となれば、次に取る手段はよく見るあれだ。
「ファイヤーボール!!」
城門の外に向かって両手を前に突き出し、初級であろう火属性魔法を大声で叫んでみる。
………………。
『リブはファイヤーボールの呪文を唱えた!!』
『しかし、何も起こらなかった……』
頭の中にあの悲しいセリフが横切った。
「これもう詰みでは?」
そう呟いてどうしようか悩んでいる時に、胸にしまっておいた本から声が聞こえて来た。
「あの……すみません……もしもし?」
細くて優しい男の人の声である。
「はいはーい!!」
久しぶりの人の声に嬉々として反応してしまった。
すると、男の人の声もほんの少し嬉しそうに答える。
「良かった……私の他にも人がいるのですね?」
ホッとしたような声で更に俺に質問をしてくる。
「すみません。ここはどこなのでしょうか?私、取引先に行く途中で道に迷ってしまいまして……気がついたら西洋風のお城の中にいまして……」
男の人は間髪入れずに話かけてくる。
「混乱しながらお城の中を回っていたら外に日本のお城が見えまして……それで……登録?みたいな事をしましたら……この本が出て来まして……」
うん、間違いなく俺と同じ道を歩んでいるみたいだ。
「それがですね、俺も急にこの城の城主とかに選ばれまして、とりあえず考える事を諦めてここで暮らす事にした所です」
笑いながらありのままを向こうに伝える。
嘘はない。
事実を事実のままである。
「えっ……」
絶対、困った顔をしてるだろうな〜と思う反応が返って来たと思ったら、そのまま無言になってしまった。
「あの〜、大丈夫ですか?もしよければ、お名前を教えてくれないですか?」
一方的なのは申し訳ないと思いつつ、敵なのか味方なのかを確認しなければならない。
「こちらの世界の名前ではケインと申します……日本からこちらの世界に来てしまったみたいで……種族は人間で……職業は騎士です……」
しばらくの無言の後、そう返事が返って来た。
「ケインさん……ですね?俺はリブ・クロートです。ケインさんと同じで、日本からこちらの世界に迷いこんでしまいまして……俺も種族は人間で生産職をしています。よろしくお願いします」
「えっと……リブさん?ですね。生産職なのですね?すみません、ここは異世界なのでしょうか?それともゲームの中とかなのでしょうか?」
丁寧で物腰の柔らかい話し方で、俺にもよくわかっていない重要な問題を突きつけてきた。
「それがですね〜、俺にもわかりません!!」
わーはっはっはーと大爆笑をしながら俺はそう答える。
「やはり……リブさんもわからないですか…… 私より先にこちらにいらしたみたいなので、もしかしたらと思ったのですが……」
「うーん……先と言っても、そこまで差がないかと……」
事実、俺の登録が終わってすぐにケインさんの城が出現したのだから、時間的にさほど差はないのだ。
「リブさん!!」
「はい!!」
俺は、突然名前を呼ばれてびっくりしてしまった。
「今からそちらのお城にお邪魔してもよろしいでしょうか?」
先ほどまでの優しい声から一変、力のある声でこちらに来たいというケインさん。
「はぁ……まぁ……俺は別に構わないですが……こちらにですか?」
急に声色が変わったので少し警戒してしまったが、人には会いたいので一応了承する。
「はい!!では今から伺います。後ほど!!」
ケインさんはそう言うと、通信が切れてしまった。
しかし、この世界に来て初めて人と会話をした事で、少し安心したのだった。