157話 出城戦終結
悪魔軍が王城の魔方陣を無効化したその頃、出城のゼキル達はリゲル軍と戦闘中であった。
地下道を真っ直ぐ駆け抜けるゼキルに向かって次々とリゲル軍の兵士が襲いかかってくる。
「全く……次から次へとキリがないな……小太郎さんは後ろから挟み撃ちしてくれているのか?」
ゼキルは文句を言いながらも兵士達を斬り進んで行く。
そして地下道の終点迄来るとそこには床に魔方陣が描かれていた。
「っていうか今までの兵士達はこの魔方陣を守ってた奴らって事かよ……本番はこれからってか?」
ゼキルは深くため息を吐くとワープポータルの魔方陣に乗る。
すると、体が光に包まれてその場を後にするのだった。
ゼキルがワープポータルで移動している頃、羅刹は城の裏手に着いていた。
そのまま城壁の上に登り中を見ると、なぜか城がぼろぼろに崩壊している事に気がつく。
「まだ何もしていないのに何でこんなに崩壊しているんだ?それにあそこにあるのは……死体の山?」
羅刹が城壁と城の間に無造作に山にされている兵士の死体の山を見る。
「今日の戦闘ではあそこまで死体は出ていなかったはず……じゃあなぜこんな所に死体の山が?」
羅刹の知る限りリゲルの兵士にはそこまで負傷兵は出ていない。
なのに隠されるように山にされている。
「まさか、兵士の魂を使って?」
羅刹はリゲルが味方の兵士を殺してその魂で邪気を放つ魔方陣を形成しているのだと思った。
しかし、その考えは実際は全く違っていた。
その死体の山は先日リブが悪魔軍を使って殺させた兵士達だったのだ。
だが、そんな事を知らない羅刹は憤りを感じていた。
「リゲルめ……ついに人間を辞めたか!!」
珍しく怒りを露わにしながら城壁を越えて行く。
そして兵士達の死体の山迄来ると両手を合わせて祈る。
「せめて安らかに……」
戦争中なので死者が出る事が仕方ない事は理解している。
だが実際この数の死体を見てしまうと、さすがの羅刹も感じるものがある。
「とりあえずハヤテさんと合流しなければ」
羅刹はそそくさとその場を後にしてハヤテとの合流場所に急ぐ。
と、城の裏口にハヤテの姿を確認した。
「ハヤテさん、無事でしたか」
「ええ、そもそもこの城には兵士はいませんから」
羅刹はその言葉に先程の山を思い出す。
「あれは酷いですね……もしかして?」
羅刹がそこまで言うとハヤテから驚くべき内容の話を聞く事になる。
「ええ、昨晩リブ様の命令でルシファスさん達悪魔軍が城を襲撃してあっという間に兵士達を殺して制圧しちゃったんですよ。私と小太郎はシールドのある街に避難したので無事でしたけどね」
その話を聞いた羅刹はその場で呆然としてしまった。
リゲルが美味方の兵士を殺したと思い込んでいたのだが、その実はリブの命令で悪魔軍が殺したのだ。
「そ……それは本当ですか?」
「ええ、クリオさんから連絡が来てから10分ほどの出来事でしたけど、実際目の当たりにして驚きましたよ……味方で良かったと思いましたね」
油断していたとはいえ、10分程度であれだけの兵士を殺してしまう戦力など羅刹にとっては脅威でしかなかった。
信じられないが、真実なのだろう。
「普段は温厚なのに……これだけの事をやってしまう方なのですね……」
「はい、絶対敵対してはいけないお方です……」
羅刹もリブ様だけは怒らせてはいけない人だと感じるのにそう時間はかからなかった。
「ではこの城内は誰も?」
「ええ、1人もいません。また夜襲をかけられたらひとたまりもないですから。兵士達は全員シールドのある街の中です」
「という事は魔方陣も?」
「それなのですが……街の中にはそのような物は見当たりませんでした。ですので魔方陣自体は城の中にあると思うのですが……」
ハヤテは調べても何もなかったと首を振る。
「隠し部屋があるとか?」
「そこまでは調べてませんね……もう一度城内を見てみましょう」
そう言うとハヤテと羅刹は崩壊している城の中に入って行く。
そしてある部屋の前まで来ると、突然中から眩しい光と共に1人の男が現れる。
隠れる場所もなく、突然の出来事だったので2人は慌てて戦闘体制をとる。
「ここはどこだ?」
その男の声を聞いた羅刹がふっと肩の力を落とす。
「ゼキル、なんでこんな所に?」
羅刹の目の前にいたのはワープして来たゼキルだった。
「おお羅刹か?無事城に入れたみたいだな?」
「それで?小太郎さんは?」
「会ってないぜ?ワープポータルの魔方陣に乗ったらここにワープしたからな」
「え?小太郎はゼキルさんが来るはずの場所で戦闘中のはずですが?」
ゼキルの言葉にハヤテが焦る。
「それってどこですか?」
「ワープポータルらしい魔方陣の所です。城壁の前辺りだったと思いますが」
ハヤテが城壁の辺りを指差す。
「ゼキルがここにワープして来たという事はそちらの魔方陣が本命の可能性がありますね」
「それってヤバくないですか?」
「かなりヤバいな」
3人は顔を見合わせると急いで城壁に向かう。
城壁の前に着くとそこには必死に敵と戦っている小太郎がいた。
「やはり……すぐに助けなければ」
ハヤテは小太郎目掛けて走って行く。
「どうする?俺達も加勢するか?」
「いえ、あれを見て下さい」
ゼキルは羅刹が指差す方向を見る。
「なるほど……魔方陣か」
「ええ、小太郎さん達が敵の兵士を引きつけてくれているうちにあれを無効化出来れば任務完了です」
「だがそう簡単にいくのか?そもそも魔方陣の消し方なんて俺は知らないぞ?」
「私も知りません。ですがあそこまで行けば何かわかるはずです」
「ほう?その根拠は?」
「ありません。ですが韓国軍の総大将の姿も確認出来ていないという事はあそこにいる確率は高いはずです」
「なるほどな……そいつを倒せばわかるって事か」
「ええ、簡単でしょ?」
「まぁ、簡単かどうかはわからないが、作戦自体はわかりやすくていいな」
「行きますよ?」
「ああ」
そう言うと2人は魔方陣に向かって走り出す。
それに気がついた敵の兵士達が2人に襲いかかるが、ゼキル達からすれば所詮は有象無象の雑魚だった。
そして、難なく魔方陣の前まで辿り着く。
「ここまで来るとは思いませんでした」
そこには黒いローブを羽織った1人の男が立っていた。
「お前が韓国軍のリーダーか?」
「ええ、私が韓国軍総司令のソジュンと申します。元サムライ軍大将のゼキルさん」
ソジュンは口元に薄ら笑みを浮かべながらゼキルと羅刹を交互に見る。
「それで?私を倒してこの魔方陣を消そうとお考えですか?」
「ああ、その通りだ。悪いがここで死んでもらう」
「それはそれは……ですが私も一応リゲル軍の幹部……そう簡単にやられはしませんよ?」
ソジュンはそう言うと呪文を唱え始める。
「ゼキル!!金縛の術かもしれない!!気をつけて!!」
羅刹は両耳を塞ぐとソジュンから距離をとる。
「もう遅いですよ?」
ソジュンが両腕を高く突き上げると羅刹の動きが止まる。
「くっ!!しまった!!」
羅刹は金縛の術を受け体の自由を奪われてしまった。
「このままでは……」
羅刹の周囲に敵の兵士が集まって来る。
「それが金縛の術か?」
その時ソジュンの背後に黒い影が現れる。
「なっ!!なぜ動けるのです?」
「俺はリブ様の影……影に金縛など通用しないんだ」
その影がユラっと揺らめくとそこからゼキルが姿を現す。
「で……ですが!!これなら!!」
ソジュンはゼキルに向かって回し蹴りを繰り出す。
「体術……いやテコンドーか」
「私は術師であり拳聖なのです」
「なるほどな……だが相性が悪かったな……」
ゼキルはその蹴りをギリギリのところで躱わすとそのまま両手のカタールをクロスさせる。
『双刃撃!!』
ゼキルはそのままクロスさせたカタールを交互に繰り出すと2度の斬撃がソジュンに襲いかかる。
「この程度の技で私を倒せるなどと思わないで頂きたい」
ソジュンはその斬撃を寸前の所で空中に躱わす。
そして、そのまま体を捻ると
『覇道一閃!!』
振り上げた足のかかとをゼキルの脳天目掛けて振り下ろす。
だがその攻撃は空を斬りそのまま地面に叩きつけられる。
「なっ!!確かに捉えたはず!!」
『ダークシャドウスラッシュ!!』
驚くソジュンの背後からゼキルの強烈な一撃が襲う。
「残念だったな、お前が捉えたのは俺の幻影だ」
「な……」
ゼキルの攻撃を喰らったソジュンはそのまま地面に倒れ込む。
が、次の瞬間倒れたはずのソジュンの体が揺らめきながら消えていく。
「残念でしたね、私のそれも幻影です」
ソジュンはゼキルに向かって口元に薄ら笑みを浮かべる。
「そのようですね?ですがこちらは本体のようです」
「な……なぜ……」
「あなたがゼキルにばかり気を取られるからですよ?あなたがテコンドーに切り替えた瞬間に金縛が解けましたので隙を伺っていたのです」
ゼキルだけに気を取られていたソジュンの胸元には背後から羅刹の日本刀が突き刺さっていた。
「ふふふ……私もここまで……ですか……」
そう言うとソジュンは前向きに地面に倒れる。
ソジュンの死により魔法陣は維持する魔力を失い、そのまま消えていく。
「これで任務完了だな……」
「ええ、無事終わらせる事ができました」
ゼキルと羅刹はお互いの拳をぶつけ合うのだった。