156話 王城とドラゴンと悪魔軍
ゼキル達が出城に向かっていた頃、ルシファス達はリゲルの王城の前にいた。
「さて、ここまで来たのはいいのですが……攻防戦以外で王城を攻撃できるのでしょうか?」
「ルシファス様?そもそも僕達は王候補じゃないんだから、関係ないんじゃないですか?」
ルシファスの隣でパイモンが無邪気に笑う。
「そうとも限りませんよ?王城に手を出せば我々とて守護龍の標的になるかと思いますが?」
ルシファスの隣に立つアガレスがパイモンを諭すようにそう言うと王城を見上げる。
「そんな事はどちらでも構わない……俺達はクロート様の為に全力で潰すだけだ」
銀髪をかき上げながらバアルが前に出る。
「その通りよ?私達のやる事は変わらないわ?準備が出来次第行くわよ?」
ルシファスは悪魔軍全体を見回すと右手を高く上げる。
そして、その振り上げた右手を振り下ろすと悪魔軍が一気に王城に雪崩れ込んでいく。
「ルシファス様、我々も王城に向かいましょう」
「ええ、いくら不死の軍団でもドラゴンには勝てないでしょうからね」
アガレスとルシファスも王城の城壁の門を潜ると中に入って行く。
そこでは既にリゲル軍と悪魔軍の戦闘が始まっていた。
しかし、2人はその戦闘を気にする事なく一点を見つめていた。
そこには王城の上からルシファス達を睨む1体のドラゴンがいた。
「あの緑色のドラゴンは誰かしら?」
「見た所以前はいなかった新しいドラゴンかと」
「でも、誰かの生まれ変わりよね?私が知らないなんて事ないと思うのだけれど?」
「ふむ……直接聞いてみるのが早いですね」
アガレスはそう言うと一気に王城を駆け上がる。
そして頂上に着くとドラゴンの前で一礼する。
「私はルシファス様の側近でアガレスと申します。失礼ながらあなた様のお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
『ルシファス?誰かは知らんが我の守護する王城に攻め入るとはいい度胸だ。だが貴様らはここで終わるのだ、消え行く者が我の名前など聞いても意味がないだろう?」
「誰が消えるですって?」
いつの間にかアガレスの後ろにルシファスが立っていた。
『貴様らだ。たかが人間如きが我々ドラゴンに勝てる訳が無かろう?』
「私が人間に見えるのね?所詮は下等ドラゴンって事かしら?」
『我を下等扱いするとはいい度胸だ……だが!!それは我に対する侮辱でしかないぞ!!』
「ふん……相手の真意にさえ気が付かない小童が偉そうに何を言うか!!貴様こそ誰に向かってほざいておるのじゃ!!」
ルシファスはそう言うと大きなドラゴンに姿を変える。
『この姿になるのも久しぶりじゃな!!さて、小童よこれでもまだ私が負けると思うか?』
『い……いえ……私如きでは貴方様に敵うはずもなく……あ……貴方様に対して無礼な発言をした事をお許し頂きたく……』
ドラゴンの姿になったルシファスに威圧されて、先程まで威勢の良かった緑色のドラゴンは子猫のようにガタガタ震えている。
『し……失礼ながら……貴方様の真名をお教え頂きたく……』
『ふん!!人に名を聞く時は自分から名乗るのが礼儀ではないか?』
『も……申し訳ありません!!我……私はムシュフシュと申します』
『ムシュフシュ?聞いた事ない名だな?』
「ルシファス様、ムシュフシュといえばティアマト様の眷属で『バビロンの竜』と呼ばれた聖獣かと」
『ティアマトの?』
『は……はい、私はティアマト様により生み出された聖獣にございます』
『聖獣がなぜ王城を守っておるのだ?そもそもティアマトはどうした?』
『ティアマト様は邪竜戦争の折、神力を使い果たされそのまま……私はティアマト様の最後の意思によりこの王城の守護の使命を与えられました』
『ふむ……なるほどな……という事はティアマト自身もそろそろ復活する頃じゃな?』
『な……なぜそのような事がわかるのですか?貴方様は一体?』
『おお!!そうじゃったな。妾はニーズヘッグじゃ、今はリブ様に頂いたルシファスと名乗っておるがな』
『ニ……ニーズヘッグ様でしたか!!それはティアマト様の眷属である私如きが敵うはずもなく……それで、ニーズヘッグ様?リブ様とは?』
『リブ様とは妾の愛しき主人様じゃ』
「ルシファス様、それでは説明になっておりません……ムシュフシュ様、リブ様とはクロート家の当主であり、こちらの隣国であるイグニアス王国の国王様でございます」
『クロート家?どこかで聞いた事がある名ですが……私にはわからないですね……』
『リブ様の事は良い、この城のどこかに魔法陣があるじゃろ?妾達はそれを破壊しにきたのじゃ。そなたの王城を攻撃する訳ではない故通してもらえんかの?』
『魔法陣……で、ございますか?それならこれでは?一体これは何なのでしょう?リゲル殿からこれを守るように言われたのですが』
ムシュフシュの下に禍々しい気を放つ魔法陣があった。
『ふむ、それじゃな……これは悪魔龍を意のままに動かす邪気を放つ魔法陣じゃ。これを消さねば妾の主人様が困ってしまうのじゃ』
ルシファスはその魔法陣に手をかける。
しかし、巨大な力で弾かれてしまう。
『これは面倒じゃな……』
「ルシファス様、ここは私がこの術を解きましょう」
アガレスは魔法陣の前に立つと両手を広げる。
そして、何やら呪文を唱えると魔方陣から出ている邪気が消えていく。
「ふぅ……これで大丈夫かと。この魔方陣はもうその機能を有しておりません」
アガレスの言葉通り、魔方陣はゆっくりと薄くなっていき最終的には消えてしまった。
『では妾達の仕事は終わりじゃの?長居は無用じゃ引き上げるぞ』
ルシファスとアガレスがその場を離れようとすると
『ニーズヘッグ様、リゲル殿と戦争中なのでございますか?』
『ムシュフシュと申したか?妾はニーズヘッグではなくルシファスじゃ!!そこを間違えるではない!!』
『は……はぁ……申し訳ございません。ルシファス様……それでリゲル殿とは?』
『うむ、妾達の主人様であられるリブ様と貴様の主であるリゲルとは戦争中じゃ。じゃが、リゲルがこの魔方陣を使って悪魔龍を無理矢理復活させての……今リブ様達が応戦中なのじゃ。だから妾達も大至急リブ様の元に戻らねばならん』
「はい、これで悪魔龍の力も半減したはずですので私達も急ぎリブ様に加勢しなければなりません」
『そうですか……という事はリゲル殿が負ければそのままこの王城に攻め入るという事でしょうか?』
『まぁそうなるじゃろうの?その時は手加減せぬ故気合いを入れておくのじゃぞ?』
『やはり……』
ムシュフシュは困惑した顔でガックリと長い首を落とす。
「ムシュフシュ様、そう気を落とさないでください。リブ様の事ですので無理矢理この王城を攻め落とすような事はされないと思われます」
『そ……そうですか!!』
ムシュフシュは今度は嬉しそうに顔を上げる。
『忙しい奴じゃの……結局は戦うのじゃから同じ事であろうにそんな事より、魔方陣が再度作られんように監視しておくのじゃな?もしまた同じ魔方陣が張られるようなら今度こそ容赦せんぞ?』
『は……はい!!リゲル殿には2度とそのような馬鹿な事はさせません!!私も命は大事ですので……』
ムシュフシュは目を輝かせながらルシファスに宣言する。
『まぁ良い、では任せたぞ?』
ルシファスとアガレスはその場を後にすると、バアル達に号令をかけて王城から引き上げて行く。
「それで?ルシファス様はいつまで龍の姿のままなのですか?」
『せっかくじゃから、このままあのアホ龍と対峙してやろうと思うての』
「なるほどでございます。もしかしたら悪魔龍様もルシファス様に気が付かれるかもしれませんし良い考えかと」
王城を後にした悪魔軍はそのまま一気に空に上がるとリブ達のいる陣目掛けて最速で戻って行くのだった。