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城から始まる異世界物語  作者: 紅蓮
大陸騒乱編
156/160

153話 デスモスの戦い開戦

戦争は開戦された。

俺の合図と同時に左翼のレオンが動き出す。


突進して行くレオンの騎兵隊のその後方からギートの弩弓隊からリゲル軍右翼に陣取るチャンの大盾騎兵隊目掛けて、矢が雨のように降り注ぐ。

俺はその様子を山の中腹にある陣から見ていた。


「これは……まるでギートのアローシャワーみたいだな」


「はい、弩弓の角度を調整出来るように改良して敵の真上から矢を降り注がせているみたいですわ?」


俺の隣で一緒に見ていたマーチが説明してくれる。


「なるほど、これがギートが言っていた進化ってやつか?」


「これだけではないですけどね?進化の1つである事は間違いないですわ?」


この他にもまだあるのか……


そして、ギート達の矢が収まると同時に、レオンの騎兵隊が衝突する。

上空から降り注ぐ矢を防ぐ為に大盾を上に構えていた大盾騎兵隊はその突進を受け止める事は出来なかった。


「リブ様が配下!!レオン・シュバルツである!!1番槍は我が騎兵隊がもらった!!」


上空から降り注ぐ矢を防ぐ為に大盾を上に向けていた大盾騎兵隊は、レオンの突進を簡単に受けてしまった。


「このまま一気に押しつぶす!!」


レオンはチャンの所まで一気に突き進んで行く。

だが、体制を整えた大盾騎兵隊に押し戻されてしまう。


「まだ……終わり違う!!押し戻す!!」


チャンは騎兵の層を厚くして守備を固める。



「くっ!!このままでは!!100騎だけついて来い!!残りはここで踏ん張ってくれ!!チェコフ!!ここは任せる!!」


レオンは副官のチェコフにその場を任せると、精鋭100騎を連れて敵の間をすり抜けて行く。


「レオン様、お気をつけて!!」


チェコフはレオンを見送るとその場で戦闘を始める。


「突破が目的だ!!無駄な戦闘は避けるぞ!!」


レオンはチャン目掛けて一気に突き進む。


「なんとしてもここで成果を出さなければ……リブ様に認めてもらう為にも……」


レオンは焦っていた。

イグニアスでは新参者で今までも戦争では何もできていなかった。


「レオン様!!囲まれています!!これ以上は危険です!!一度戻って体制を整えましょう!!」


「それはできん!!チャンまでもう少しだ!!」


「ですが!!」


レオンと100騎の兵士達は完全に包囲されてしまった。


「くっ!!」


「敵の大将レオンの首を取れ!!」


チャンの号令で大盾騎兵隊は一気にレオンに迫ってくる。


『グランドクロス!!』


レオンを中心に十字の光が天を突く。

迫って来ていた騎兵隊は光を受け吹き飛ぶ。


「こんなものか!!かかって来い!!」


レオンはなりふり構わず槍を振り回す。


「これは危険ですね……仕方ありません……」


騎兵隊の兵士の1人がレオンの前に出る。


「レオンさん、とりあえず一度下がってください。ここは私が」


「いち兵士に何が出来る?黙って……」


レオンがそこまで言いかけると、兵士は兜を取る。


「あ……あなたは……何故ここに?」


レオンはその顔を見ると言葉を失う。


「リブ様の命令であなたの騎兵隊に参加していました。きっとレオンさんが暴走するからと」


「そ……そうですか……すみません……お願いします……」


「ええ、お任せを」


『紅炎華!!』


炎の花びらが戦場に舞うと包囲していた大盾騎兵を一気に燃やして行き、後方にレオンの退路が出来る。


「マガストールさんありがとうございます」


レオンの目の前には偵察をしていたはずのマガストールが騎馬に乗っていたのだ。


「一度退却する!!」


レオンは100騎の兵士を連れてチェコフの所まで戻って行く。


「これは失態だ……」


レオンは戻りながら頭を悩ませる。


「そんな事はありませんよ?」


そんなレオンの隣にいつの間にかマガストールが並んでいた。


「しかし!!」


「あなたの行動はリブ様の読み通りです。と言う事はこの先も当然考えられている……と言う事です」


「と言いますと?」


「チャンはあなたを退けた事で安心しています。ですが、それが彼の最後です……」


マガストールの言葉通り、チャンは安堵し気を抜いていた。


「そんなに落ち着いていて大丈夫ですか?まぁ今から命を落とすあなたには関係ない事ですが」


チャンは突然背後から聞こえた声に反応する。

が……時すでに遅く、その首は落とされる。


「お……おま……だ……れ……」


「今までケインさんが仕切っていたから目立たなかったですが、王もまた策士ですね」


「というか、どこまで先を見ておられるのか」


ハンゾーは血の付いた刀を振るとガルフォードと共に影に消えて行く。


「チャン様!!」


物音に気がついた兵士が崩れ行くチャンを抱える。

しかし、チャンの息はもうなかった。


「そ……そんな……」


周りにいた兵士達もそれに気がつくのにそう時間はかからなかった。

大将チャンの死によって大盾騎兵隊は壊滅状態になる。


この機を逃す事なく、レオンは一気に畳み掛けた。

こうして左翼側の騎兵同士の戦いは、レオン軍の勝利で幕を下ろすのだった。


一方、右翼側ではワイズのサポートを受けた鬼人達がギャスパーの重装歩兵隊と戦っていた。


「鬼人如きが俺の重装歩兵に勝てる訳がないだろう!!重装歩兵隊!!陣形ファランクス!!」


ギャスパーの指示で重装歩兵達は横隊だった陣形を変える。

5列の横隊が集まり大盾を前に出し密集陣形を取りながらその隙間から槍が飛び出している。


「鬼人どもを串刺しにしてやれ!!」


ギャスパーの声に重装歩兵隊達が呼応する。


「ファランクスなどという古臭い陣形を取りやがって」


大きな角を持ち筋肉質な体をした鬼人が大きく息を吐くと持っている大剣を振り回す。


「全く……リカードは相変わらずの筋肉脳だこと……」


リカードと呼ばれた鬼人の後ろから、更にもう1人の鬼人が姿を現す。

鬼人にしては細身で背が高く、美形の女性だ。


「アンか?そう言う貴様こそ戦う事しか考えておらんではないか?」


「あら?そんな事はないわよ?最近ではリブ様の為に色々と勉強してますもの」


「ふっ……肉体が若返ったとはいえ我らは300を超える老兵じゃぞ?」


「何を言っているのかしら?肉体があの頃に戻ったのだから心も若返るに決まっているじゃない?」


「まぁ好きにせい……今はそれどころではないからの」


「右脇……かしら?」


「ああ、あの陣形は右側が弱点じゃからの」


「それはどうかな?」


2人の会話に大柄の男が加わる。


「ウラか、どう言う意味じゃ?」


ウラと呼ばれた大男は2メートルほどの身長でガッチリとした体格の鬼人だった。


「あのファランクスは方陣と組み合わされているようだ」


「ふむ……なるほどの……ではどうする?このまま睨み合っておってもしかたないぞ?」


「それなら今ソンカクが考えておる、しばらく待っていろ」


ウラはそう言うとその場を後にする。


「でもこの感じ懐かしいわね?あの頃に戻ったみたいだわ?」


「みたいじゃない……戻って来たのじゃ……あの時の失敗を取り返す為にの……」


「そうね……今回はもう失敗出来ないわね……だからソンカクの結論が出るまでは大人しくしていてね?」


「ふん!!わかっておるわ!!クロート様に勝利を届けねばならんからの」


「ええ、私達にとっては初陣ですしね」


そんな話をしていると、ソンカクの策を伝えにモウキが駆け寄ってきた。


「リカード様、アン様、ソン婆……ソンカク様から伝言です。敵中央を一点突破して内部から破壊せよとの事です!!」


「わーはっはー!!見ろ!!結局ソンカクも脳筋ではないか!!」


「本当にね……全くだわ?」


伝言を聞いたリカードは嬉しそうに大剣を振り回し、アンは呆れている。


「ですが、突破はアン様の部隊10人で行うようにと……そしてその空いた穴をリカード様とウラ様で広げて欲しいとの事です」


「え〜私が先陣ですの?この脳筋の筋肉ダルマに行かせればいいのに」


「そうじゃぞ!!ワシが一気に吹っ飛ばしてやるというのに!!というか誰が脳筋じゃ!!」


モウキが作戦の詳細を伝えるとアンは更に呆れて、リカードは少し不満そうにしている。


「アン様の方が隙間を抜けやすいからと聞いてます」


「確かにね……」


「それはそうじゃの……」


モウキの言葉に2人とも納得している。


「じゃあ行きますわね?私が囲まれる前に来てくださいね?」


「ああ、任せておくのじゃ」


アンはそう言うと部下の精鋭10人を連れて敵に向かって行く。


「隙間を探すわよ?そこから一点突破よ!!」


「はっ!!」


アンは敵に向かって走りながら盾の隙間を探す。


「アン様!!あそこがよろしいかと!!」


部下の1人が少しだけ空いている隙間を指差す。


「そうね、突破するわよ!!遅れないようについて来なさい!!」


アンは細い体を前に真っ直ぐ伸ばすとレイピアを突き出す。


星屑乱舞(ほしくずらんぶ)!!』


突き出したレイピアを僅かに空いていた盾と盾の隙間に突き刺すとそのままレイピアを振り回す。


「ぐわっ!!」


「ぎゃー!!」


アンの攻撃でファランクスに小さな穴が出来る。

そこに10人の部下達が割り込んで行くとその小さな穴を少しずつ広げながら中心に向かって行く。


するとファランクスの中心に届く手前で部下の1人が狼煙を上げる。


「合図だ!!行くぞお前ら!!」


その狼煙を見たリカードとウラが鬼人部隊を引き連れてアンが空けた小さな穴に突進して行く。


「どりゃ〜〜!!」


リカードが大剣を左右に大きく振ると重装歩兵達が軽々と吹き飛んで行く。


「相変わらずの馬鹿力だな……」


ウラはそんなリカードを見ながら大斧を地面に叩きつける。

その振動で周りの兵士達が膝から崩れ落ちる。


「ウラ様も似たようなものかと……」


鬼人兵達は呆れながらもリカードとウラが広げた穴を確実に大きくして行く。


「ファランクスを解きテルシオに!!」


「テルシオ!!」


「テルシオ!!」


重装歩兵達は大声で叫びながら密集陣形から正方形に陣形を変えて行く。


「テルシオか……突進に対しては有効な方陣だな」


「わざわざ陣形が出来るまで待ってやる必要もなかろう!!」


ウラが足を止めるのに対しリカードは敵を追いかけながら倒して行く。


「リカード待て!!そこは罠だ!!」


先陣を切っていたアンがリカードに向かって叫ぶ。


「なんじゃと?」


アンの声にリカードが気がついた時には完全に包囲されてしまっていた。


「全く脳筋めが……」


アンは突進をやめ、後方に方向転換するとリカードに向かって走って行く。


「アン!!こっちだ!!」


そのアンに声をかけたのはロンケイだった。


「ロンケイか?何故だ?リカードを見殺しにするのか!!」


アンはチラッとロンケイの方を見ると行進を止める。


「なるほどな……」


アンがロンケイの所に向かおうとした次の瞬間、リカードを包囲していた兵士達が一斉に崩れ落ちる。


「こら!!ソンカク!!やるならやると言え!!ワシまで倒れる所じゃったぞ!!」


包囲されていた中心でリカードが怒りながら出てくる。


「やかましい!!考えも無しに突っ込むなと毎回言っているだろう?」


リカードの目線のその先でソンカクが怒っている。


「それで?ここからどうするんじゃ?」


正方形の真ん中に集まった鬼人達は敵に完全に包囲されてしまっていた。


「安心しろ、策も無しにここまでくる訳がないだろう?」


ソンカクは周囲を見回すとギャスパーの方を見る。


「あれがこの部隊の大将か……ではこちらは方円の陣を敷くとしよう」


「方円じゃと?それではこちらから攻撃出来んではないか!!」


「黙れ脳筋!!この状況を打破するには必要な事だ!!」


「ソンカクまでリカードを脳筋扱いか……」


リカードとソンカクの言い争いを見てアンが笑いを堪えながら方円の陣形に移動する。


「それで?ここからどうするのかしら?」


持ち場に着いたアンがソンカクに聞く。


「あれをやる」


ソンカクが発したその一言だけで周りがざわつき始める。


「本気か?」


「まぁそれしかないじゃろうの……」


「ここからか?」


「やるしかないだろ?」


それぞれの思いが交錯しながらも、全員考えている事は同じだった。


「やるぞ!!」


ソンカクの号令で全員が精神を集中させる。

そして5人の息が揃った瞬間、体からオーラが発生する。


鬼神合技(きしんごうぎ)!!絶影五重奏(ぜつえいごじゅうそう)!!」


5人の鬼人が同時に5色のオーラを纏うとそのオーラが影となり周囲に広がって行く。

その影が囲んでいる兵士達に届くと上空に5色の光が立ち上り、兵士達を巻き上げて行く。


『リザレクトブースト!!シールドストライク!!』


ギャスパーは回復力と耐性力を向上させてそのオーラから身を守る。


「ふざけやがって……こうなったら!!」


ギャスパーは鬼人達向かって凄いスピードで突進して行く。


『移動速度上昇!!』


そして更にその速度を上げると、アンに向かって剣を振り下ろす。

突然目の前に現れたギャスパーにアンは対応出来ずにいた。


「アン!!」


ソンカクが叫びながらアン方に向かって走り出すが、それより先ににギャスパーの剣がアンの目前に迫る。

アンは両目を瞑り自分の最後を覚悟する。

ギャスパーの剣が地面まで振り下ろされると砂煙が舞い上がり辺りを包む。


「アーーーン!!」


ソンカクの悲痛な叫びが戦場にこだまする。


私……死んだの?

リブ様に手料理を振る舞ってあげたかったですわ……


アンの脳裏にリブの顔が浮かぶ。

だが、それと同時にアンは違和感を感じていた。

自分の体には一切の痛みを感じないのだ。


状況を確認する為にアンはそっと目を開ける。

そして、その目に映ったのは今まさに胸から血飛沫をあげて倒れて行くリカードの姿だった。


「リカード!!」


「へっ……無事じゃったか?アン……」


リカードは倒れながら、アンをチラッっと見る。

そして口元に笑みを浮かべると、そのまま地面に倒れる。


「リカード!!リカード!!」


アンは大粒の涙を流しながらリカードの体を抱えるとそのままギャスパーを睨みつける。


「許さない!!」


そして、アンがギャスパーにレイピアを向けた時だった。

剣を振り下ろしたままの格好のギャスパーの首が血飛沫と共に空に舞い上がった。


「え?」


驚くアンの目に映ったのは、ギャスパーの背後から大斧を横に薙ぎ払ったウラの姿だった。


「よくもリカードを……」


ウラの太く低い怒りの声が地鳴りのように静かに轟く。


「ウラ……」


「早くリカードの手当てを……」


「でもここには……」


鬼人族には回復役がいない……

陣に戻ってアドオンかライズに見てもらうしかないのだ。


だが、ここから陣までは距離があった。

何より大柄なリカードを運ぶにはアンでは無理だった。


「ふっ……ワシも随分と長生きをさせてもらった……戦場で散るのなら本望というものじゃ……クロート様のお役に立てたかの?」


「ええ……きっとリブ様もお喜びになるわ?」


アンは目に涙を溜めながらリカードの体をギュッと抱く。


「そうか……良かった……」


リカードが目を閉じようとしたその時だった。


「全く……何を言っているのかしら?リブ様は誰も死ぬなって命令したのよ?初陣で死人が出たなんて知ったら喜ぶどころか怒られますよ?」


アン達の前に砂塵の中からウサギの耳を持つ女性が現れる。


「あ……あなたは……」


アンの目の前にいたのはノエルだった。


『リザレクション!!』


ノエルはリカードに手をかざすと、蘇生の魔法を唱える。


「ふぅ……間に合ってよかった……」


「あ……ありがとうございます!!」


「でも、あくまで戦闘不能状態から回復しただけに過ぎないから急いで陣にある野戦病院に連れて行ってアドオンさん達に診てもらいなさい?」


ノエルはそう言うとアンとリカードを連れて陣にワープする。


「とりあえずリカードが無事で良かった……私達の初陣もこれで終わりね……勝鬨を上げなさい!!」


ソンカクの言葉を受け、目に大粒の涙を溜めながらウラが大声で天に向かって雄叫びを上げる。

そのウラの声に呼応するかのように鬼人達の勝鬨が戦場に響き渡るのだった。



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