150話 戦争準備
ケイン達がシャディと共にデスモス連邦国に向かった頃、俺達は準備を始めていた。
今回は戦争ではないが、念の為兵士達にも準備をさせている。
上手くいけばいいが、もし失敗して大戦争にでも発展したらこちらも出陣しなければならないのだ。
「さて、集まってもらったのは他でもない。デスモス連邦国を潰す事にした」
俺の言葉に全員に緊張が走る。
「リブ様、遂に動くのですね?」
ギートが身を乗り出す。
「ああ、だが今回はイレギュラーとも言える。こちらが準備を整えて戦争を仕掛けるのならまだしも不意打ちのようなものだからな」
「ですが、それはあちらが先に仕掛けた事……仕方ありません」
「ロイさん?どういう事ですか?」
「それは……」
ロイが事の顛末をみんなに説明してくれた。
「何それ!!卑怯なやり方!!許せない!!」
「まぁ落ち着けギート、だから今回こちらも同じ事をしてやろうと思ってな」
「と言いますと?」
「なぁに簡単だ。まずはケインとノエルにあちらの王城に行ってもらいノエルに位置を覚えてもらう。その後、俺が向こうの王城に行ってここにいるメンバーを転移させてもらうんだ。そこからは戦場になる」
「なるほど!!せやけどこちらの守りはどうするんでっか?あちらさんが伏兵で攻めてこんとも限らんでっしゃろ?」
「ああ、だからメンバーを2分する。国を守る者と攻め込む者だ。クリオ達に国境線の全てを監視させているから守備軍は国境の手前で待機だ。だが、場合によってはそのまま攻め込む覚悟はしておいてくれ」
「了解ですわ。それで?こちらの指揮は誰がとるんでっか?」
「守備軍の指揮はフランに任せる。補佐にマーチをつける事にした。クーパー達も守備軍に加わってもらう。そして今回から正式にレオンが俺達の軍の指揮下に入る事になった。今までは遊軍として参加していたが、本人達の強い希望もあって配下になる事になった。なのでレオンも守備軍に入ってもらう」
レオン・シュバルツ……
かつて王城攻防戦で俺達の援軍として駆けつけてくれた盟主だ。
今はイグニアス王国内の地方領主として北方地方を管理している。
管理と言っても北方にある街や村からの税の徴収や困った事があればケインやマーチに連絡をするといった仕事がメインだ。
だが、今回俺達がデスモス連邦国を攻撃して統一に乗り出したと聞きつけ、シュバルツの名を捨ててでも自分も参加したいと言ってきたのだ。
これには頭を悩ませたが、リゲルの王城をレオンに占領させてその後、俺が占領するという事になった。
「せやったらレオンはんは攻撃班の方がええんちゃいますの?」
「いや、まずはリゲルを倒して王城を解放しないと占領は出来ないらしい……だろう?フェルノ?」
全員がフェルノ達に注目する。
「それは俺から説明しよう」
そう言うとグラキエースが立ち上がる。
「王城にはいくつか制限がある。王城は誰も所有していない状態で攻防戦によって一定時間占領される事で占領した者の物となる。だが、一度誰かが王になると王城の所有権は王になる。その為、王城に王がいる状態では他の者が王城に攻め入ろうと攻防戦は開始されない。だから、まずは持ち主となった者を倒さないと攻防戦自体が始まらないのだ」
「だ……そうだ。だからまずはあの王城の持ち主であるリゲルを倒して王城の所有権を無くさない限り王城自体は解放されないんだ」
「なるほど……それで?あちらさんのドラゴンは王を守っているんちゃいますの?」
「いやそれはない。ドラゴンの役割だが、守護ドラゴンが必ずその王城を守っている。だが、守護ドラゴンはあくまで王城を守っているのであって城主を守っている訳ではない。俺達は例外的にクロートに従っているのだが、本来召喚一族以外の城主にはドラゴンを使役する事が出来ない。だから城主個人を攻撃したとしても、城を攻撃しない限り守護ドラゴンが出てくる事はないと言う事だ」
グラキエースが再度説明する。
「ほな、こっちが有利ちゅう事でんな?」
「そうなるな、だがあちらにも将軍はいる。前回は基本部隊戦だったから個々の情報がない。個人戦となれば実力は未知数だ」
「さて、それではこちらの戦力の確認ですが、リゲルの元に攻め込むメンバーはカイザーさん、ロイさん、ミーシャさん、チャコさん、マガストールさんでよろしいですか?」
フランがメンバーを見回すと俺に聞いてきた。
「そうだな……それにケインとノエル……か」
俺は逆に防衛の指揮官不足を考える。
「こちらの防衛戦力が足りなくならないか?」
「そうですね……歩兵隊はネージュさんとセシルに任せるとしても、やはり騎兵隊を指揮する方が……」
「そうだよな……やっぱりカイザーがいなくなるのは厳しいか?」
「それはご安心ください!!カイザーさんの代わりに私とレオンさんで指揮を取りますので!!」
ゲーリックが勢いよく立ち上がると俺とフランにそう告げる。
「そうなのか?」
俺はフランに確認する。
「い……いえ……私は今初めて聞きました……」
フランが困った顔でゲーリックを見る。
「それでしたら問題ありません。私とレオンさんで騎兵隊の訓練を行なっておりましたので」
ゲーリックは問題ないと言っている。
「それなら騎兵隊はゲーリック達に任せよう。後はギートとユリーカの弩弓兵隊とサリーの魔導兵器部隊だがそちらは今まで通りだから問題ないだろう」
「ふっふっふ……リブ様……我が魔導兵器部隊は生まれ変わったんでっせ?」
サリーが自信満々に立ち上がる。
「ほう?どう生まれ変わったんだ?」
「よー聞いてくれました!!魔導兵器部隊は魔導戦士部隊になったんです!!」
魔導戦士?
なんだ?それ?
「魔導戦士って?」
「製作を断念した機動戦士をそのまま解体せずに、魔導兵器と組み合わせて中型魔導兵器として改良したんですわ」
え?中型魔導兵器って何?
魔導兵器が小型で機動戦士が大型って事?
「な……なぁサリー……それ見てみたいんだが?」
「ええ、後でお披露目する予定でしたので是非」
サリーのドヤ顔がムカつくが今回だけは大目にみてやろう。
「それなら私達の弩弓部隊も進化してますよ?」
ギートとユリーカもドヤっているがこっちはサリーと違って可愛いな。
って進化した?
「ギートそれはどういう事?」
「私達も後でリブ様にお披露目する予定ですのでその時に」
「わかった。楽しみにしておくよ」
俺がそう言うとギートちユリーカが嬉しそうにはしゃいでいる。
やっぱり和むな……
「リブ様?ワイの時と雰囲気がちゃうのは気のせいでっか?」
うん、だってサリーのドヤ顔はイラッとするから。
とも言えないので適当に流しておく。
「後はドラゴニュート隊、エルフ隊、鬼人隊、獣人隊だな。彼らは戦場に出ても問題無さそうか?」
「はい、数は少ないですが1人1人が一騎当千の力がありますので問題ないかと」
「指揮は誰が取るんだ?」
「ドラゴニュート隊はドラグが、エルフ隊はアルベレスが、鬼人隊はソンカクがそして獣人隊は獣王自らが指揮を取ります」
「彼らは初陣だし貴重な戦力だから無理をさせないようにしてくれ。もちろん他の兵士達も傷つけさせるつもりはないが、これは戦争だ……なるべく被害は少なくとしか言えないが……後、街の防衛はどうなっている?」
「はい、そちらはセバスチャンさんがしっかりと準備されておりますのでご安心ください」
「そうか、パークの方も大丈夫か?」
「それは私から」
そう言うとクーパーが立ち上がる。
「ドリームパークは王城を中心に展開されておりますので、言ってみればパーク全体が王城という括りになります。そうなればフェルノさんとグラキエースさんが守護ドラゴンとして防衛してくださいます。ですが、セントラルシティに関しましては街の扱いになるそうでセバスチャンさんのシールドで守られるとの事です。ですので、もしこの王城に攻めて来た場合はお客様とスタッフは全員セントラルシティに避難する様にマニュアル化してあります」
「なるほど、それなら安心だな。後は各街もいつでもシールドを展開出来る様になっているって事か」
「はい、私をはじめ各街の代表にはシールドを展開する準備をさせてあります」
セバスチャンが俺の質問に答える。
「それならセバスチャンに任せる。タイミングを間違えない様に絶対に国民を傷つけるな」
「はっ!!かしこまりました」
「後はこの王城以外の街と村だな」
「そちらにもシールドを配布してありますのでご安心ください」
「それなら大丈夫だな。後は……俺に従ってもいないが害もない城の城主達だが……まぁあいつらはどうでもいいか」
イグニアス王国には、俺に従わないが攻撃もしないと言う変わった城主が数人いた。
彼らは自分の城で生活し城の近くの街にしか行かないという『引きこもり城主』達だ。
『引きこもり城主』達は戦争にも参加しなければモンスター退治もしない。
お腹が空いたら街に出て食事をし、また城の中にいるだけの存在だ。
特に害もないので放置しているが、戦争になれば攻撃対象である事は間違いない。
ケインが地方城主として何人か登用したと言っていたが誰がそうなのか俺にはわからない。
「地方城主にはシールドを配布してあります。その他の城主は勝手に燃えるかと……」
フランも気にしていないようだ。
「まぁそうだな……これを機にどうにかなってくれると嬉しいが、今回はこちらまで攻め込まれる事はないだろう……それで他に伝える事はあるか?」
俺は全員を見回す。
「リブ様、よろしいですか?」
「ゼキルか?どうした?」
「はい、今回の攻撃班に俺達も入れてもらえませんか?」
「3人を?」
「はいそうです」
「でも……元盟主だろ?大丈夫なのか?」
「ええ、寧ろシャディの話を聞いて3人ともムカついているんです……まさか国民がそんな扱いをされてるなんて……」
「まぁ王になった全員がいい王とは限らないからな。チャコ達の報告では、エスペランサ帝国はそこまで酷くはないみたいだから、圧政を敷いているのはデスモス連邦国だけだろうな」
「それなら尚更、俺達も一緒に行きたいです!!リゲルの野郎をぶっ飛ばさないと気がすまない……」
「わかった。ではゼキルと羅刹、そしてシエルの攻撃班参加を許可する」
「ありがとうございます!!」
こうしてゼキル達も戦場に参加する事になった。
会議も大詰めに差し掛かった頃、会議室の扉が開く。
「失礼致します。リブ様、ケイン様達がお戻りになられました……ですが……ケイン様とカイザー様がお怪我をなされておりまして……現在ライズ様が手当を行なっております」
セバスチャンが青ざめた顔で入ってくる。
「え?それで?大丈夫なのか?」
「はい、命に別状はございません……ノエル様が応急手当てをされたようですので……」
「状況を知りたい!!大至急ノエルを呼んでくれ!!」
俺が大声で叫ぶと
「リブ様、私はこちらに……」
ノエルがセバスチャンの後ろから姿を現す。
「ノエル!!大丈夫?無事なの?」
俺が声をかける前にマーチがノエルの元に駆け寄る。
「ええ、お姉ちゃん……私は大丈夫……でもケインさんが……」
そう言うとノエルが泣き出してしまった。
「ま……まぁノエルが無事で良かった。それで?ケインはなぜ怪我を?」
俺の問いに、ノエルは涙を拭きながら前に出る。
「はい……まずはあちらで起こった事を説明させて頂きます」
ノエルは外交官らしく気丈に振る舞う。
「私達はシャディさんと共にデスモス連邦国に入り、王城を目指しました。そして、謁見を許されてリゲルの前まで行ったのです。ですが、ケインさんが交渉を始めようとした時でした……突然リゲルの配下の1人がケインさんを攻撃したのです……カイザーさんが咄嗟に応戦し、チャコさんが私を守ってくれました。そして、シャディさんは必死にリゲルを説得したのですが……彼は聞く耳を持たず……そして配下達に何やら耳打ちしたのです。すると数人の配下達が一斉にケインさん達に襲い掛かり……ケインさんとカイザーさんも必死に抵抗しましたが、多勢に無勢……危険だと判断して無理矢理ワープで戻ってきました……」
「チャコはどうした?」
「チャコさんは嫌な予感がすると言って、国境の壁に向かいました」
「無事なんだな?」
「はい、お怪我はありません」
良かった……
だが、いくら多勢に無勢とはいえ、タンク役のケインとカイザーでも対抗出来なかったと言う事か?
「リブ様、恐らくそれは金縛の術だな……」
「ゼキル?どう言う事だ?」
ゼキルは俺の方を見ると説明を始める。
「リゲルの配下に陰陽道というおかしな術を使う奴がいた。俺は会った事もないし名前も知らないが、確かそいつは韓国軍の総司令官をしていたはず……そいつが金縛の術を使うと聞いた事がある」
「なるほど……それでケインもカイザーも手も足も出なかった……と言う事か……だが、なぜケイン達はいきなり攻撃されたんだ?名目上は同盟の交渉に行ったはずだが?」
「リゲルはシャディを信用していないので、恐らくオルドアとは別に監視がいたのでしょう。そしてその監視から報告を受けたリゲルがケインさん達を攻撃したのだと思います」
オルドアとは別に監視か……
「という事は俺達の計画は向こうに筒抜けって事か」
「今のところ、多分……としか言えません……」
「多分?」
「計画がバレているかもしれませんが、単純にオルドアが倒されたから報復した……という線も捨てられないので」
「なるほどな……それでチャコは国境に向かった訳か……フラン、大至急兵士達を集めて軍を国境まで進めてくれ。すまない、サリー達の新兵器を見ている余裕も無さそうだ」
「そんなん言うとる場合やないでしょ、ワイらも急いで準備しまっせ」
サリーが慌てて席を立つ。
それに合わせるように全員が大急ぎで会議室から出ていく。
「さて、クロート様?私達はどうすればいいのかしら?」
「ルシファス達悪魔軍はまだ動かないでくれ。ケインほどではないが俺に少し考えがある……」
「わかりましたわ?そもそも私達はクロート様の命令しか聞かないのですから軍に入れられても意味がないのですけどね?では準備だけしておきますわ?」
ルシファスはニコッと笑うと部屋から出て行く。
さて……ケインの様子を見に行くか……
俺も、誰もいなくなった会議室から出て行くのだった。