149話 陰謀……そして策略
後日、俺は新たに作った執務室の机の前に座っていた。
執務室を作った理由は、この城に俺の居場所がないからだ。
ケイン達には参謀本部、他の幹部やメンバーにも仕事をする場所がある。
しかし俺には玉座しかないのだ……
その執務室で俺は考え事をしていた。
マットドリームパークは無事開園した。
来園者も予定以上で繁盛しているようだ。
特に大きな問題もないとの事だった。
クーパーとマーチンの経営能力もかなりのものだ。
ホテルや物販も順調に売上が上がっている。
この分なら早い段階で税金を無くして教育や福祉にも力を入れる事が出来るだろう。
とりあえずパークの件はクーパー達に任せておけば問題ないだろう。
下手に口を出すより、俺は俺のやるべき事をやるだけだ。
とはいえ俺のやる事って……
まずはこの大陸の統一からだな……
「リブ様、よろしいでしょうか?」
そんな事を考えていると、執務室の扉の向こうからケインの声がした。
「ああ、大丈夫だ」
「失礼します」
扉が開くと、ケインとハンゾー、ガルフォードが入ってきた。
「どうしたんだ?」
「はい、このハンゾー達に命じられていた他の大陸の調査ですが、やはり海を渡る事は出来ないようです」
ケインの報告にハンゾー達が申し訳なさそうにしている。
確かにハンゾー達にはもうひとつの大陸の調査を命じていた。
しかし、大陸を渡る手段が無いと報告を受けていた。
なのでその方法を見つけるように命じていたのだが、どうやら見つからないらしい。
「そうか……まぁそんな顔をしなくてもいいよ。無理なものは仕方ないんだから。しかし……海も空もダメとなると一体どうやって渡るんだろう?この大陸を統一しても海を渡る手段がなければ世界統一なんて出来ないだろ?」
「はい、考えられる事はこの大陸を統一すれば大陸を渡る手段が発生する……という事くらいですね……あちらからもこちらの大陸に渡って来ていないようですし」
そう、こちらから渡れないのと同様に向こうからも攻めてきていないのだ、
もしそうだとすれば、向こうの大陸もまだ統一されていない証拠でもあった。
海は沖にいくほど荒れていて船は通れない……空も雷雲が遮っていて先に進めない……雲の上にはなぜか通り抜けれないという状況だった。
「もしかしたらこの大陸を統一したらその時にあの結界のような嵐が無くなるって事か?」
「そう考えるのが自然かと」
「という事はやっぱりまずは大陸統一からだな。でも戦車に魔導兵器が通用するかどうか……それにクイーンが新しい兵器を作らないとも限らない。慎重にいかないとこちらの兵士達を無駄死にさせてしまう結果だけは避けないとな」
「そうですね、兵士達にも家族や恋人がいる者もいますから……できれば生きて帰って来て欲しいですからね」
「そういえば獣人達の能力はわかった?」
「はい、まずは身体能力の高さですね。後、人種によって魔法とは違う戦技が使えるようです」
「戦技?」
「はい、各自スキルのような技を必ず所持しているようで持っている技は個々に違うそうです」
「それって俺達と同じ戦力が100人いるって事なんじゃ?」
「それはそうなのですが、戦技を使ってしまうとしばらく動けなくなってしまうそうなのです」
「それは危険だな……もし戦場で使って動けなくなったら狙われやすくなるって事だろ?」
「はい、ですのでここぞという時以外は使えません……」
「それって訓練で克服……っていうほど簡単なものじゃないか……」
「いえ……それはやってみる価値はあるかと……もし戦技を使用しても動けるとなればかなりの戦力アップになりますし」
ケインは何か考えている。
「リブ様!!私のスキルを使って試してみてもよろしいでしょうか?」
「ああ、ケインに任せるよ。久しぶりにあれをやるのか?」
「はい、matのメンバーをレベルアップした頃を思い出します」
「なんか懐かしいな……あの頃はまさか王になるなんて思ってもいなかったけど……モンスターを狩るのに必死だったからな」
「そうですね……しかし相手はコボルトでしたけどね」
ケインは笑いながら懐かしそうにしている。
「まぁケインのスキルもあの頃より強くなっているんだろ?仮に戦技の強化は無理でも獣人達が強くなれば問題ない」
「了解しました。では早速始めようと思います」
「ハンゾー達も受けてみたら?どうせ向こうの大陸には行けないんだったらそこまで忙しくないだろ?それに戦場には出てもらうからその時に役に立ってもらいたいし」
ケインとの会話中ずっと不思議そうな顔で聞いていたハンゾー達ににも訓練を勧めてみる。
「是非お願いします。我々も戦力としてみなさんと共に戦場に立ちたいですから」
ハンゾーとガルフォードも嬉しそうにケインを追って部屋を出ていく。
そして静かになった執務室でまたしても1人で考え始める。
まずはリゲルか?それともクイーン?
どちらにしてももっと情報が必要だな。
戦車か……
威力がわからない以上適当な事は出来ない。
将軍クラスなら耐えれるだろうが、普通の兵士達は無理だ。
だが、兵士がいなければ戦争には勝てない。
防御に特化した兵器を作るか?
そうすれば戦車でも銃でも防げる。
だが兵器を持ち歩く訳にもいかないか……
……
…………
………………
兵器を持ち歩く?
あれならもしかして?
サリーに相談してみるか。
一応俺も鍛治のスキルがあるし試してみても面白そうだ。
「リブ様、いらっしゃいますか?」
今度はマーチか?
「ああ、入っていいよ」
「失礼します」
扉が開くとマーチとノエルが入ってきた。
「どうしたの?」
「はい、リゲルの国から使者が参っておりますがいかが致しましょう?」
リゲルから使者?
「リゲルが俺になんの用だ?」
俺の質問にマーチとノエルは顔を見合わせる。
「どうやら同盟を結んでクイーンを倒したいとの事ですわ?」
同盟?なぜ今なんだ?
「今リゲルと同盟を結んで、こちらにメリットはあるのか?」
「正直申しますとこちらにはほとんどメリットはないですわね……別にリゲルと同盟を組まなくても単独でクイーンとは戦えますから。恐らくですが、今こちらから攻められたらリゲルが耐えられないと考えたのでしょう」
「なるほどな、連戦では兵士が足りないって事か……だが、戦車の性能を知る事は出来そうだな?クイーンも新兵器を作成するには時間がかかるだろうし」
「はい、ですが今戦争を仕掛ける事もどうかと……うちは今ドリームパークが開園したばかりでみなさんそちらに忙しいので戦争どころではないかと……」
確かにそうなのだが……
「そっちも大事だけど今は大陸統一の方が重要だと思うけど?とりあえず向こうの意図を聞いてみるか」
「そうですわね……ここは平和な日本じゃなくて戦争中の異世界ですものね……」
マーチも渋々納得してくれたようだ。
「謁見の間を用意してケインも呼んでくれ。俺もすぐ行く」
俺が謁見の間に入るとそこにはケインとマーチが玉座の両脇に立っていた。
そしてその隣にはノエル、ミーシャ、カイザー、ロイ、チャコも控えている。
「リブ様、お客様をお迎えしてもよろしいでしょうか?」
入口でセバスチャンが俺に尋ねてくる。
「ああ、入ってもらって大丈夫だ」
「了解致しました」
セバスチャンは1礼すると謁見の間から出て行く。
「リブ様、この時期に同盟という事はクイーン軍が弱っている間に追い込もうという感じですか?」
ケインが小声で話しかけてきた。
「さぁな?リゲル軍の被害も少なくないからな……今matに攻められたら困るって事じゃないのか?」
「なるほどです……」
そんな会話をしていると入口からセバスチャンと一緒に1人の男が入ってきた。
「リブ様、こちらがリゲル様からの使者でシャディ様にございます」
セバスチャンに紹介されたシャディは胸に手を当てて1礼する。
「私がリブ・クロートだ。楽にするといい」
「リブ・クロート陛下にはお初にお目にかかります。私はデスモス連邦国リゲルの配下でシャディと申します。この度は我々のお話をお聞き頂きありがとうございます」
リゲルの配下の割には礼儀正しくて紳士的な男だな?
ゼキル達やチャコに聞いていた印象と大分違うな。
そういえばゼキル達の姿が見えないけど、元同僚じゃないのか?
「俺の事はリブでいい。それで?今回は同盟の話だと聞いているが?」
「はい、我が王リゲルはリブ様との共闘を望んでおります」
「ほう……だがなぜ今同盟なんだ?俺達にデスモス連邦国を攻撃させない為か?」
「残念ながら、リブ様とは違いリゲルはそこまで頭の回転は良くないのです……単純に2国で攻めればエスペランサ帝国を滅ぼせると考えているだけです……」
うーん……さっきからシャディの発言に違和感があるんだよな……
「それで?シャディはなぜリゲルに仕えているんだ?」
どうも配下という割にはリゲルに対する発言がおかしい。
そもそもリゲルに様を付けていないし。
「リゲル……ですか……特に理由はありません。彼とは戦って負けた……ただそれだけです。尊敬もしていませんし、力で押し付けられてはいますが、私は人として同格だと思っています。たまたま彼が王になる資格を持ち、私が持っていなかった……というだけですね」
「それならなぜ今回使者を?」
「それは、国を平和に統治し、民衆が楽しく暮らしているというこちらの国を、自らのその目で見てみたかったからです」
「それで?実際に見た感想は?」
「この国……イグニアス王国は私の想像以上にとても素晴らしい国でした。こちらの世界の情緒を残しつつ、あちらの世界を実現している。何より力で支配するのでなく国民が自分の意思で自ら進んで仕事をしているのが素晴らしい……デスモス連邦国では王都に住む民以外は重税に悩まされ税金を払う為に働いているのだ……みな、何事もないように振る舞ってはいるが心の中では穏やかではないだろう……」
「ふむ……それは可哀想だが、残念ながら俺にはどうする事も出来ないな……お前達幹部でなんとかするしかない問題だ」
「それは何度も助言していますが……結局それを言うのは私1人……他の幹部達も自分さえ良ければそれでいいのです」
まぁシャディの気持ちはわかるが、所詮は他国の事……
俺達には関係ないな……
「なんて酷い!!リブ様!!同盟なんて受けずにリゲルを先に滅ぼしましょう!!」
え?
マーチさん何を言っているの?
しかも当事国の使者を目の前に……
「い……いや……そもそも同盟を組みたいと言ってきている使者を目の前にそんな物騒な事言うもんじゃないよ?」
「ですが!!」
「う……うん……気持ちはわかるけど一旦落ち着こうか……」
俺はシャディの方をチラッと見る。
ん?シャディの口元に笑みが見えたのは気のせいか?
「それで?同盟を組んでこちらにメリットは?」
「ございません。リゲルが後方に憂いが無くなるというだけですね」
はっ?
仮にも使者がそれを口にして大丈夫なのか?
「ではシャディ、お前はこちらにメリットがないと知っていて何故俺の所に来たんだ?」
「リゲルの命令ですので……私の意見など無いに等しいですから」
うーん……何かがおかしい……
「なぁケイン、何か違和感がないか?」
俺は小声で隣にいるケインに話かける。
「はい、このシャディという方は何か企んでいるかと」
ケインもおかしいとは思っているが何を企んでいるかまではわからないようだ。
「さて……シャディと言ったか?お前は何を企んでいる?」
考えていても仕方がないので、俺は直接シャディから聞き出す事にした。
「企む?私がですか?」
「ああ、お前は俺達と同盟を結ぶ為にここに来たんだろう?なのにさっきからリゲルを倒させるように誘導しているように感じるのだが?」
「ふ……ふふふふ……リブ様は噂通りですね。ですが私は何も企んでなどおりません。リゲルの命令でここに来てリブ様と同盟を結ぶ交渉をしているだけですので」
「そうか?それで噂とは?」
「ええ、一見飄々としていて何も考えていないように見えるがその実はかなりのキレもので、決断力はあるのに慎重で、力があるのに独裁ではなく配下の意見に耳を傾ける。そして何より勘が鋭い……そういう人物だと聞いております」
なんだ?それ?
俺は自分で考えるのが面倒でケイン達に丸投げしてるだけで、思いついたままに行動してたまたま上手くいっているだけのお飾り王だぞ?
まぁ力だけは他のメンバーよりはあるが、それだけだ。
「誰がそんな噂をしているか知らないが、そんな大層な人間でもないぞ?」
「そういう事にしておきましょう……では同盟の件ですがどうされますか?」
そう言うと、シャディはそっと下を向く。
ん?下に何かあるのか?
影しかないけど?
あれ?
なんであそこに影があるんだ?
確かに謁見の間には光が差している。
だが、この時間だとシャディのいる位置では光はほぼ真上から入ってきている。
だから影はシャディの真下に出来るはずだ。
なのにシャディの影は後ろに向かって伸びている。
俺は無言でケインの方を向く。
ケインも気がついたようだ。
「ふむ……その件に関しては少し幹部達と話をする時間をくれ。戦争となれば俺の一存では決められないからな」
「そうですか、ではしばらくこちらの国に滞在させてもらえる許可を頂けますか?」
「ああ、それは構わない。セバスチャン、シャディに部屋を用意してやってくれ」
俺は入口に控えているセバスチャンに指示を出す。
「了解致しました。では早速用意して参ります」
セバスチャンはそのまま謁見の間から出て行く。
「カイザーすまないが入口を封鎖してくれ。ノエルとミーシャは支援魔法の準備を、マーチは後方支援を頼む」
突然の指示にマーチとミーシャは不思議そうな顔をするが、何かを察して行動に移る。
「大丈夫だとは思うがケインは念の為に盾の用意を」
「はっ、かしこまりました」
「チャコ、ロイ気を抜くなよ?」
「はい、心得ております」
「じゃあ始めようか!!」
俺の号令でシャディが後ろに飛ぶ。
すると、シャディがいた場所に影だけが残っている。
「ゼキル!!羅刹!!今だ!!」
「流石気づかれてましたか!!」
すると柱の影からゼキルと羅刹が現れる。
そして、影に向かって攻撃を仕掛ける。
「ぐはっ!!」
影の中から声がすると、人影が現れる。
「何故気づいた?」
「まぁな、勘だけはいいのでな」
そこには1人の男が立っていた。
「よう、久しぶりだな。暗殺部隊副官……いや、今は隊長か?」
「ふっ……ゼキル……貴様達がいなくなってくれたおかげでな」
「だが、実力は前のままだな?」
「舐めるな!!この国の王を殺してこんな城から逃げ出すくらい簡単だ!!」
男は俺に向かって突進してくる。
「舐めてるのは貴様だ!!オルドア!!」
ゼキルがオルドアの前に出るとゼキルのカタールとオルドアの鉄の爪が激突して火花が散る。
次の瞬間、オルドアの背後から羅刹のアサシンブレードが狙う。
オルドアはその攻撃をギリギリの所で躱すと、そのまま逆立ちして足に仕込んだ短剣で羅刹に反撃する。
そこにゼキルがカタールを振り下ろす。
オルドアは地面についた手を深く沈めるとその反動で宙に舞う。
そしてそのままゼキルに鉄の爪を振り下ろす。
カキンッという音と共に武器同士が激突すると、すぐさま両者共後ろに飛び退く。
そして、着地と同時に地面を蹴ると再度激突する。
羅刹は2人の戦いに入れずその場で立ちすくんでいた。
「どうしたゼキル?元サムライ軍の団長の実力はこの程度か?」
「オルドアに合わせて戦っていただけだが?誤解させてしまったか?じゃあそろそろ決着をつけようか」
ゼキルはそう言うと、一度オルドアから距離を取る。
すると、ゼキルの体が揺らめき複数のゼキルが現れる。
「ふっ……何かと思えばただの分身か……落ちたなゼキル……」
オルドアはゼキルの技がただの分身だと思い油断してしまった。
その思い違いがこの勝負の勝敗を分けた。
『ダークシャドウスラッシュ!!』
突然ゼキルがオルドアの背後から現れると闇のオーラを纏ったカタールがオルドアの背を斬りつける。
その攻撃を受けたオルドアはなす術なくその場に崩れ落ちる。
「な……なん……だ……と……」
倒れ込んだオルドアはそのまま起き上がる事はなかった。
「お前の言う通り、リブ様やここの幹部に比べたらまだまだだな、だがお前如きには負けないよ」
ゼキルはそう言うとリブの前に跪く。
いつの間にか羅刹もゼキルの隣にいた。
「ゼキルご苦労様、しかしなんで隠れて気配も消してたんだ?」
「すみません、シャディが城に入った時にオルドアの気配を感じずっと機会を狙っていました」
「それで?シャディは敵なのか?それとも……」
「私は敵ではありません。彼が影にいたので言えませんでしたが……」
シャディはそう言うと俺の前に跪く。
「リブ様、リゲルを倒しデスモス連邦国の民をお救いください」
「それはリゲルに反旗を翻すって事でいいのか?」
「はい、私はこれ以上民が苦しめられるのを見ていられません……」
俺はゼキルの方を見る。
「リブ様、こいつはリゲル軍の幹部の中では唯一まともな奴です。他の幹部は完全に腐ってますがこいつだけはリゲルに反論していました」
「ええ、ですからこうして交渉役としてリブ様を暗殺する役目を命じられたのです……」
「なるほど……トカゲの尻尾切りか……」
「はい、私の影からオルドアが飛び出せば私も共犯となりそのまま処分されるでしょう……それを理由にリゲルがこちらに攻めてくる……という寸法です……」
「そうか……ではこうしよう。まずはケインとノエルに同盟の使者としてあちらに行ってもらう。護衛にはカイザーとチャコをつける。その後俺が直接リゲルの元に行きそこで……」
「なるほどです……」
「そう言う事ですか」
「わかりました」
「護衛はお任せください」
こうして俺達は策略を巡らすのだった。