148話 パーク開園準備と悪魔軍
ドリームパークはかなり広かった。
1日中歩き回っても全部見切れるかどうかだ。
「こちらは森林エリアになります」
マーチンからエリア毎の説明を受けながらパーク内を進んでいると、森林エリアの奥に少し気になる場所があった。
「なぁ、あれは?」
「あの場所は関係者以外立ち入り禁止になります」
そこには大きな扉がありどう見ても冥界の門なのだ。
「あれって冥界の門だよな?なんであんな所に?」
「はい、ルシフェル様からの要請で城の近くに門があれば、もし戦争になった時に悪魔軍を召喚しやすいと言われましたので、オブジェとしても使えるという事で私がパーク内に配置しました」
隣にいるケインが説明してくれた。
「なるほどね、そういえばそろそろ悪魔軍も編成しないとな。確か上位悪魔は名前を付けると受肉するんだったな。そしてその上級悪魔がいないと軍として機能しない……だったか?」
「はい、ルシファス様からはそう聞いております」
「しかし……誰が上級悪魔なのかわからないけど……どうしたらいいんだろう?」
「ルシファス様にお聞きしてみては?」
「確かにそれが1番早いんだけど……」
出来ればルシファスには近づきたくないな……
「あら?どうしてそんなに嫌そうですの?」
突然俺の背後から声がした。
というか耳元から聞こえるのだが?
背中には柔らかいものがあたる感触がするし……
「えっと……ルシファス?……離れてくれないかな?」
「せっかくクロート様が自ら私の家までおいでくださったのにそんな勿体無い事できませんわ?」
「う……うん……別にわざわざここに来た訳じゃなくてたまたま通りすがっただけなんだけどね?そもそもここに門がある事自体今初めて知ったくらいだし……」
「そんな意地悪な事言わずに、ちょっと寄っていってください。上級悪魔達も紹介しますし」
ルシファスの家には寄りたくないが上級悪魔は紹介して欲しいな、もしかしたらルシファスを制御できる悪魔がいるかもしれないし……
俺達は冥界の門を潜り冥界に入って行く。
そこには数1000の悪魔が両脇に並び跪いて門から先に進む道を作るように並んでいた。
その道を真っ直ぐ進むと、その先には魔法陣が描かれた大きな台座があった。
「クロート様、こちらで悪魔召喚をお願いします」
「へっ?俺が召喚するの?ルシファスが呼んでくれるんじゃないの?」
「爵位を持つ悪魔は私の眷属とはいえ、部下という訳ではないのですわ?あくまでも私は序列1位で王の爵位を持っているというだけですので」
「そうなんだ?でも俺が召喚して応じてくれるのか?」
「多分大丈夫ですわ?彼等も馬鹿じゃないですから」
ルシファスに言われて俺は悪魔を召喚する為に魔法陣に向かう。
だが、悪魔召喚ってどうやるんだ?
やっぱりここはエロイムエッサイムか?
我は求め訴えたり!!だっけ?
「クロート様、そこでサモンアークデーモンと」
ああ〜そっちか……
『サモン!!アークデーモン!!』
俺が呪文を唱えると魔法陣から黒い霧が渦を巻いて現れる。
そしてその黒い霧が収束すると、そこには見た目の違う10体の悪魔が跪いていた。
「爵位持ちはこれだけ?」
「いえ、悪魔の爵位持ちは全部で72柱おります。この者達はその中でも序列が上位の者達で王の爵位を持つ者とその派閥の公爵と侯爵達です」
「同じ爵位の中に更に序列があるのか……それで?その王の爵位を持つのはこの中に何人いるんだ?」
「ここにいるのは3人ですね。残りは公爵が3人と侯爵が4人です。王の爵位を持つのは銀の髪の者が序列1位、紫の髪の者が序列9位、緑色の者が序列13位です」
ん?王なのになんでそんなに順位が離れているんだ?
「王なのになんで順番じゃないんだ?」
「1位の派閥の公爵達の方が序列的には上になりますので」
王でも1位の配下より序列は下になるって事か。
という事はこの銀の髪の悪魔には7人の配下がいるって事か?
まぁ今は名前か……
えっと……確かソロモン72柱ってあったな。
「じゃあお前は今日からバアルだよろしくな」
俺は銀髪の悪魔に『バアル』と名前を付ける。
するとバアルの体を黒い霧が渦を巻くように覆う。
そしてその霧が晴れるとそこには大きな角を持つ銀髪のイケメン紳士が立っていた。
「クロート様、ありがとうございます。この『バアル』クロート様の為に誠心誠意働かせて頂きます。できますればこの者達にも名前を頂けますと幸いと存じます」
バアルがそう言うと3体の悪魔がバアルの後ろに控える。
「じゃあ、アガレス、ガミジン、マルバスで」
俺は前にいる順番に名前を付ける。
そして3体もバアル同様黒い霧に包まれると姿が変わっていく。
アガレスは品のいい博識っぽい白髪の老紳士、ガミジンは馬?ロバ?のような耳を持つ少年、マルバスはライオンのような顔に綺麗な立髪を持ち額から大きな角が2本生えている。
「ありがとうございます」
3人はお礼を言いながら頭を下げると再度バアルの後ろに控える。
これでバアルの派閥はとりあえず終わったようだ。
「じゃあ次は……」
俺は紫の髪の悪魔を見る。
「お前は『パイモン』だ」
またしても黒い霧がパイモンを覆うと、そこには小さな女性?のような少年のような姿のパイモンが立つ。
「クロート様!!ありがとうございます〜!!」
俺はパイモンの姿を見て気になった事があるので聞いてみる事にした。
「えっと、パイモンは男の子なのか?それとも女の子?」
スカートのような服装になっていたので聞いてみる。
「はい!!僕は男ですよ?」
うん……
これは所謂、男の娘ってやつだな……
まぁ可愛いからいいか……
「それで?パイモンの配下は?」
「はい!!この子達です!!」
パイモンがそう言うと後ろに2人控える。
「じゃあ、グシオンとシュトリで」
こちらも同様に霧が晴れると、グシオンはセクシーな女性に、シュトリは猫のような耳が頭に有り背中に綺麗な白い羽のある女性の姿に変わる。
「クロート様、ありがとうございます。これからはよろしくお願い致します」
グシオンはニコッと笑うとパイモンの後ろに控える。
「さて、最後だな。お前は『ベレト』だ」
『ベレト』は大きな鳥のような足を持ち長い髪の筋肉質な男に姿を変える。
「ありがたき……」
ベレトは太い声で短く礼を言うとそのまま跪く。
「あ……ああ……そしてお前の配下はレラジェとエリゴスだ」
そしてお馴染みになった霧が巻き起こり2人も姿を変える。
レラジェは短髪の可愛い狩人の女性に、エゴリスは大きな角のある兜鎧を被りフルプレートを纏った騎士に変わった。
「クロート様よろしくお願いします」
こうして新たに10人の仲間が増えた。
この10人に下級悪魔の戦士を統率させて悪魔軍の出来上がりだ。
残りの62体の悪魔がどうなっているのかは不明だが、ルシファスが後は任せて欲しいと言っているので気にしないでおこう。
「これからはルシファスを筆頭にバアル達が悪魔軍として戦争に参加してもらう事になるからそのつもりで準備しておいてくれ」
「「「はっ!!」」」
10人の悪魔が一斉に跪く。
「クロート様、ひとつよろしいでしょうか?」
アガレスが俺の前に進み出る。
「アガレス?どうした?」
「はっ!!もしよろしければ私にルシファス様の執事として身の回りのお世話をする事をお許し頂けないでしょうか?」
マジ?それはこっちからお願いしたい。
これでルシファスの行動も制限出来るかもしれない。
「許す!!アガレス!!今日からお前にルシファスの世話係として生活態度から行動までの全てを任せる!!」
「ちょっ!!私はいやよ?せっかく人化できたのだからこれからも自由に!!」
ルシファスがそこまで言うと
「そうだよ!!それにルシファス様のお世話は僕がやるし!!」
パイモンがルシファスを守るように両手を広げて前に出る。
「それはダメでしょ?パイモン様じゃあ絶対にルシファス様を甘やかすでしょうし」
グシオンが呆れた感じでパイモンを止める。
「ちょっと!!グシオン!!僕の配下のくせに生意気だぞ?」
「でも、今クロート様が決められた事に文句を言うのはどうなのかしら?」
シュトリもパイモンに異議を唱える。
「あ……クロート様……そう言う事じゃないですよ?」
パイモンが申し訳なさそうに俺を見る。
「まぁお前の気持ちもわかるが、俺はアガレスに任せると言ったんだ。これは決定事項だから覆る事はない!!それにルシファスにはこれからは悪魔達の管理を任せるんだ。今までみたいに自由に遊んでる暇はないぞ?」
俺の言葉にパイモンはがっくりと項垂れて無言で後ろに下がって行く。
「ちょっと!!クロート様?私の意見は?」
「ルシファスさん?もう一度あそこに戻りたいのですか?」
マーチが冷たい目でニコッと笑う。
「あ……マーチさん……いえ……そういう訳じゃないのよ?」
ルシファスの顔から一気に血の気が引いていく。
どうやらマーチからなんらかの罰を受けたようだ。
「それでしたらリブ様の決定に素直に従ってくださいね?」
「は……はい……アガレス……よろしくね?」
「お任せ下さいませ」
これで一件落着だ。
しばらくは平和な生活をおくれそうだ。
「さて、この話はここまでとして……バアル、軍の編成や訓練に関してはお前に一任する。パイモン、ベレトと共に最強の軍を作るのだ!!」
「はっ!!お任せ下さい!!クロート様のお役に立てるよう精一杯『最強の軍』を作ってみせます」
鋭い目を輝かせてバアルが他の悪魔達を見回す。
「パイモン、ベレト、いいな?クロート様は我々に『最強の軍』を作れと仰ったのだ。その期待に応えるぞ?」
「はーい!!」
「ああ……任せろ……」
三者三様だが、やる気は十分のようだ。
「じゃあなルシファス。悪魔達をしっかり管理するんだぞ?」
こうして俺達は冥界を後にしてパークに戻る。
「さて、脱線してしまったけどパーク内の視察を続けよう」
その後、俺達はパーク内の視察を終え会議室に戻る。
「全体的には問題はないと思う。後は細かい箇所を修正してオープンだな。まぁ開園した後から少しずつ問題が出るだろうけどその辺は順次解決していけばいいだろう」
「そうですね。全て完璧という訳にはいかないでしょうから優先順位を決めて対策していきましょう。ではみなさんオープンに向けて最後の仕上げです!!オープンまで気を抜かないようにしっかりとやりましょう!!」
マーチンの言葉に全員が大きく頷く。
こうしてマットドリームパークは開園の日を迎えるのだった。