145話 危機は身内から始まる
デスモス連邦国の南方で戦争が続いている最中、俺達はデスモス連邦国の北方の奥地にある獣人の街を目指して歩いていた。
そして、イグニアス王国の国境付近にある街に差し掛かると、そこにはチャコが立っていた。
「毎回ご苦労様」
「仕事ですから」
チャコはニコッと笑うとリブに報告を始める。
「そうか……お互いに被害は甚大だな……」
「はい、ですがこのままいけばリゲル軍が勝つかと」
「そんな感じだな……じゃあ引き続き今日も……」
俺がそこまで言いかけると
「いえ、今日はマガストールと交代です。リブ様の旅には私が同行します」
とチャコが言ってきた。
「ん?場所はわかるの?」
「はい、マガストールから聞いていますから。それに……こっちはこっちで大変みたいですので」
なるほど、チャコもマガストールもお互いに限界って事か……
「わかった。でもそうすると部屋割りが大変だな?」
「それなら大丈夫です。リブ様はおひとりでお使いください。あとはこちらでなんとかしますから」
チャコはカラ達の方を見るとニヤッと笑う。
「そうか任せた。じゃあ行こうか」
俺達は獣人の街に行く道中での最初で最後の街に向かう。
そして街に入ると宿屋で部屋を取る。
「それで?部屋割りはどうするの?」
「はい、まずリブ様はお1人でお願いします。カラ、アイーナで1部屋、紅玉、霞で1部屋です。そしてソンカクと……」
チャコは辺りを見回す。
「どうかしたのか?」
「いえ、大丈夫です」
「それならいいけど……それで?チャコはソンカクの部屋って事でいいのか?」
「いえ、私は護衛を」
「護衛?何から誰を守るの?」
「それは……」
チャコは再度辺りを見回す。
「まぁよくわからないけど、よろしく頼む」
「了解しました」
俺は部屋に入る。
するとなぜか誰もいないはずの布団が膨らんでいる。
「えっと……」
俺は意を決して勢いよくその布を捲る。
するとそこには、一糸纏わぬ姿のルシファスが横たわっていた。
「うん……お前何してるの?」
「何って……クロート様の温もりを……」
まだその布団には入ってもいないから温もりなどないはずだが……
「今着いたばかりでその布団には俺の温もりなんてないぞ?」
「なんですって!!」
ルシファスが大きな声をあげる。
「そこにいましたか!!」
突然部屋の扉が勢いよく開くとチャコが入ってくる。
そして裸のルシファスを拘束するとそのまま部屋から出ていった。
「こ……こら!!チャコ!!何をする!!私は今夜クロート様と!!」
「はいはい……寝言は寝てから言ってくださいね」
あ〜さっきからチャコがキョロキョロしてたのはそういう事か……
なんにしても俺はチャコのお陰で無事休息を取ることができたのだった。
翌日、俺達は獣人の街に向かっていた。
ルシファスがチャコにすまきにされて担がれているが気にしないでおこう。
「それで?今日はどの辺りまで行くんだ?」
「はい、今日はあの山の向こう側までです」
そう言ってチャコが指差す先に大きな山がそびえていた。
「あれ?山ってモンスターの地形じゃないの?」
「それが、何故かあの山はモンスターの地形ではないのです」
「普通の山って事?」
「普通……ではありませんが、モンスターが生み出した地形ではないようです」
普通じゃないってどういう事?
まぁ行ってみればわかるか……
俺達は山を目指して進んで行く。
そして、半日ほど歩いた所で、山のふもとに辿り着いた。
「近くで見るとかなり高い山だな」
山……というより壁だな……
「連山か……」
「はい、数十キロに渡って連なる連山です。少しでも方向を間違えれば遭難してしまいます」
「みんな気をつけて登るぞ。はぐれないように」
山道に入ると、深い樹海になっていた。
「これは想像以上に厳しそうだな。無理はせずゆっくり進もう」
「はい、ですがこの連山は夜になると濃い霧が発生して方向を見失ってしまいます。ですのでなるべく早く明るいうちに下山しなければ」
「そうか……じゃあそんなにのんびりもしてられないか……」
しかし、山は登れば登るほど木々に覆われて方向感覚を狂わせる。
チャコがいなければ、間違いなく遭難していただろう。
「後どのくらいなんだ?」
2時間ほど歩いたがまだ頂上には達していない。
しかも頂上に近づくにつれて現れるモンスターも強力になっていた。
「もうすぐ頂上です。ですが、頂上にはワイバーンがいると聞いていますので気をつけてください」
ワイバーン?ドラゴンの亜種か
「でもマガストールはここを抜けたんだろ?ワイバーンを倒したのか?」
「いえ、隠密スキルで気が付かれないようにすり抜けたそうです」
なるほど……それなら気づかれずに通れるわけか……
「ということは俺達は倒さないとダメな訳か……」
「いえ、倒さなくてもワイバーンに気づかれなければ大丈夫です」
「それなら少し遠回りしてでも迂回して行くか」
「それがいいかと」
そんな話をしながら歩いていると、木々が開けて頂上が見えてきた。
「あれが頂上か?それでワイバーンは?」
「あそこに寝ているのがワイバーンです」
チャコに言われた方を見るとそこに大きな翼を起用に折りたたみ首を丸めて寝ているワイバーンがいた。
「よし、ワイバーンに気づかれないように少し離れた所を静かに通り抜けよう」
俺達はワイバーンから距離を取り迂回して行く。
このまま寝ていてくれればいいけど
そして、後少しでワイバーンを回避できるというところまできた時だっだ。
「わ〜!!何あれ!!綺麗!!」
カラが突然、青く光る石に向かって走り出す。
そしてその石を取ろうと手を伸ばしたのだが、
「えー何これ?全然取れないんだけど?」
どうやら地面に食い込んでいるようだ。
「取れないなら無理に取らなくていいんじゃないか?」
俺はカラを説得する。
「せっかく見つけたのですから欲しいです〜〜」
しかし、カラは強引に引き抜こうとする。
だが、青く光る石は全く動かない。
「今は急いでるし、ワイバーンにも気づかれると面倒だから今回は諦めよう」
「そうですわね……今回は残念ですけど……」
カラは理解してくれたようだ。
青く光る石を諦めた俺達は急いで下山を始める。
そして、何とかワイバーンにも気づかれずに無事、山を下る事が出来た。
「帰りも気をつけないとな」
「そうですね、でもカラさんがあの石を諦めてくれて良かったです。あそこで時間を使っていたらどうなっていたか……」
チャコも気が気ではなかったようだ。
「それで?もう結構暗くなって来たけど今日はどこで休むの?」
「はい、あそこに川がありますのでその近くがいいかと」
「よし、じゃあ準備するか」
「はい、では私はかまどを作って……」
「ああ〜それは大丈夫だよ。ちゃんと準備して来たから」
チャコが不思議そうにしているが、俺は気にせず川の側で広めの所に向かう。
そして、出かける前に作ったコテージの材料をアイテムボックスから取り出すと、クリエイトのスキルで作成する。
「えっと……それは?」
「ん?コテージだけど?」
「それは見ればわかるのですが……一体どうやって?」
「ああ、新しくアイテムボックスっていうスキルを手に入れてね。そこに入れて来たんだ」
アイテムボックスは、幹部の役職を整理した時に手に入れた新しいマーチャントスキルだ。
容量はかなり入るようで、まるであのポケットのようだった。
更に、アイテムボックス内の時間は停止しているらしく、色々検証してみたのだが食べ物は調理後の物を入れて1時間後に取り出しても温かいままだった。
但し、収納出来る大きさには制限があるらしく、コテージをそのままは入れる事が出来なかった。
なので、材料を収納して現地でクリエイトのスキルを使って作成する事にしたのだ。
「あ……そういえば、リブ様はマーチャントでしたね……」
「ああ、そういう事」
最近は完全に忘れられているが、俺は元々生産職なのだ。
「とりあえず中に入ってくれ」
俺に言われて全員コテージの中に入って行く。
「部屋は1人1部屋用意してあるからチャコもゆっくり休んでくれ。風呂とトイレも完備でキッチンもあるし材料も冷蔵庫に入れてあるから」
キッチンの水は川から引いている。
風呂のお湯は川から引いた水を外に置いた湯沸器を通して温めて出るようにしてある。
「それでは私が食事の支度をしますね」
アイーナがキッチンに向かって行く。
「じゃあ私達は荷物を部屋に置いたらお風呂に入りましょう」
「俺は少し部屋で横になるよ」
夕食までの数時間俺達は各々の過ごし方をするのだった。
だった……
だった…………
だった…………………
そして、今俺の部屋の布団が盛り上がっている……
デジャヴだろうか?
いや……ほぼ間違いなくあいつだろう……
「うーん……ルシファス?そこで何を?」
「あ〜〜ん、クロート様の匂いを……」
だから……まだそこには寝ていないから匂いなどついていないのだが……
「えっと……そこはまだ……」
「クロート様の匂い〜〜!!」
ルシファスは段々変態化して来ているな……
俺はそっと部屋を出る。
部屋の中から不思議な声がするが聞かなかった事にしておこう。
「リブ様!!ご無事ですか!!」
チャコが慌てた表情で駆け寄って来る。
その後ろにはカラ達もいる。
「あの女は!!」
紅玉が興奮気味に聞いてきたので部屋の現状を伝える。
「リブ様!!お部屋に入る許可を!!」
霞まで興奮している。
「あ……ああ……よろしく頼む」
「ありがとうございます!!みんな!!行くぞ!!」
カラと紅玉、そして霞が俺の部屋に向かう。
「チャコはいいのか?」
「リブ様は今からお風呂に行かれるのですよね?」
「ああ」
「では私はそちらの護衛を」
「あ……ああ……すまない」
こうして、俺とチャコは風呂に向かう。
「では私はここで」
男子風呂の脱衣所の前でチャコが辺りを見張る。
「あ!!少しお待ちください!!」
チャコはそう言うと男子風呂に入って行く。
そして、少しするとすまきになったものを4個抱えて出てくる。
って……4個?
「全く……油断も隙もない…… これで安心です。ごゆっくりどうぞ」
チャコが呆れている。
「クロート様の〜〜!!」
「何故私達まで〜〜!!」
「チャコさ〜ん、許してください〜」
「私は彼女達を……」
4人が何か言っているが無視しておこう。
こうして俺はゆっくり風呂に入りアイーナの美味しいご飯を食べる……の……だった……
「うふふ……リブ様、2人でゆっくりお話しましょ……」
俺の意識が薄れていく……。
気がつくと、そこは布団の上だった。
それにしても……体が重くて動かない……
「あら?お気づきになられたのですか?」
「えっと……アイーナ?そこで何を?」
「少しだけお料理にお薬を……」
アイーナは俺の料理に何かの薬を混ぜたようだ。
そして、ゆっくり自分の服を脱ぎ出す。
「ちょっとの辛抱ですから……」
これはヤバい……
流石の俺でも油断した……
まさか薬を盛られるとは……
「これで私の……」
アイーナの顔が近づいてくる。
っと……突然アイーナが倒れ込む。
「全く……まさか薬を盛るとは……」
声のする方を見るとそこにはチャコとマガストールが立っていた。
「申し訳ありません。私まで眠り薬を盛られてしまい……マガストールが来てくれなければ危なかったです……」
「報告の時間になっても連絡がつかなかったので急いで参りました」
「ああ、マガストール助かった。ありがとう」
しかし、無効化スキル持ちの俺やチャコを眠らせる薬って一体何を盛ったんだ?
「とりあえずご無事で何よりです。私はリブ様に報告がありますのでチャコはアイーナさんを」
「了解、じゃあ後はお任せください」
チャコはアイーナを抱えると部屋を出て行く。
「ふ〜それで?戦場はどうだ?」
「はい、昨日同様白兵戦から始まりました。その後……」
こうして俺はマガストールから戦場の報告を受けるのだった。