141話 鬼人の街と新たな旅路
鬼人達が目を覚ますまでの間、妲己とソンカクが昔話をしていた。
俺達はその会話を横で聞いている。
そして、ソンカク達の秘密を知る事になった。
『それで?もしかしてそなたらはあの秘術を行ったのではないだろうな?』
「妲己様……申し訳ありません……私達はその秘術を行いました……」
『ふ〜〜仕方のない奴らじゃ……して……その秘術を行使したのは誰じゃ?』
「はい、アスタロト様にお願い致しました」
『あのアホ悪魔龍め!!それでお主達の他に誰が?』
「私達12名と獣王達、そして巨人族の族長と従者でございます。エルフとドラゴニュートは元々長命ですし天使族も悪魔族もそもそも実態がありませんので、寿命の短い我々が行ったのです」
『じゃが獣王や巨人達は短命じゃからわかるが、お主らは長命種ではないか?』
「長命とはいえ、歳はとりますので……いざという時に役に立たないのでは意味がないのです」
『全く……アホどもが……その時は若い者に任せれば良いじゃろうに……」
「お恥ずかしい話ですが、先程も見て頂いた通り、鬼人族は自己顕示欲が強く自信家が多いのです。それは今も昔も変わらず……ですので100年前に差別を受けていると嘘をつき鎖国したのでございます」
『なるほどの……抑制できる者が必要じゃったという事か』
「はい、今回のモウキのように表立って異議を唱える者がいれば言葉だけで済ませる事も出来ますが、リュウキのように裏で画策する者には武力行使が必要でしたので……」
『じゃが、復活したクロート様の力が強大じゃったのが誤算じゃったという事かの?』
「はい、まさかここまでとは思いもしませんでしたので」
妲己とソンカク達が俺を見る。
「いや……俺を見られても……知らないよ?」
『はっはっは!!今のクロートは規格外だからな!!』
ドリーが高笑いをしている。
『さて、私達はそろそろお暇させてもらいますわね?また何かあればいつでも呼んでくださいませ。ソンカク達もクロート様の為にしっかり働くのですよ?では』
「リコル様も、後程戦場でお会いしましょう」
リコルがソンカク達に声をかけると、俺に頭を下げ3人とも指輪に戻っていく。
「さて、そろそろみんな起きる頃かな?それより気になる事があったんだけど聞いてもいいか?」
「はい、何なりと」
「獣王もその秘術をやったんだろ?という事はこの後行く予定の獣人の街でも同じ事が起こるのか?」
「なんと!!この後獣人の街に行かれるのですか?では私達もお供しましょう。そうすれば彼らとの交渉がスムーズになるかと」
確かにまたドリー達を呼び出すのも気が引けるし、ソンカク達が知り合いならその方がいいだろう。
「じゃあ頼むよ。その前にこの街を俺の城に統合しなきゃならないんだが……中々起きないな……」
「それはリブ様の覇気がそれだけ強力だという事です」
何故かカラが胸を張っているのだが、それは無視しておこう。
「リブ様、よろしいでしょうか?」
「ああ、マガストールどうした?」
「先程南方を監視していたクリオとリゲルを監視していたチャコから連絡がありまして、クイーン軍が国境付近の街に駐屯してるとの事です。そして、リゲルもそれに気がつき急いで軍を編成し国境まで進軍を開始したようです」
「遂に動き出したか、急いでこの街を移動させないとな」
「はい、ですのでこれをお使いください」
「これは?」
「ケイン様から預かった都市ワープの巻物です」
「しかし……」
俺は周りを見回す。
目を覚ました鬼人から順番に俺の前に跪いたまま動かない。
「皆の者!!間も無くこの街の近くが戦場になる。なのでこれよりリブ様の国に街ごと移動する!!まだ倒れている者を急ぎ起こすのだ!!子供は無理させず母が抱き抱えておくように」
ソンカクの言葉に、鬼人達が一斉に動き出す。
「リブ様、準備が整いました。こちらはいつでも大丈夫です」
「ああ、じゃあちょっと待ってくれ」
俺はそう言うと胸から本を取り出す。
「あっ?ケイン?今から鬼人の街をワープさせるから衝撃に備えるように通達を頼む」
「了解致しました」
俺はケインに向こうの準備をさせると都市ワープを使う。
ドーン!!という地鳴りと共に強い衝撃が走る。
「さて、どこにくっついたかな?」
俺達は街から出ると鬼人の街の位置を確認する。
ここは……
目の前に大きな山が見えた。
「ドラゴニュートの里の隣か」
「そのようですね」
俺とマガストールはそのまま城に向かって歩き出す。
「ねえ、まさか一度帰ってくるなんて思わなかったわ?」
「ええ、もしかしたらこのままここに残れって言われないかしら?」
「想定外でしたね……それに今度はあの鬼人達も一緒なんですよね?」
「私だけまだデートしてないのですが?」
俺達の後ろで4人がコソコソ何か言っているがどうせろくな事じゃないから気にしないでおこう。
「さて、今夜は城で寝て明日の朝出かけよう。今度はソンカク達がいるし距離もそこまで遠くないから4人は来なくていいぞ?」
俺はカラ達にそう告げると城に入って行く。
「やっぱりこうなりましたわね……」
「ええ、これは一大事です」
「どうしましょうか?」
「私はまだデートしてないのですが?」
4人は城の前で悩んでいる。
「とにかく、明日の朝までになんとかしなきゃ!!」
「そうね……ここは歪みあっている場合じゃないわね」
4人は作戦を考えながら城に入って行く。
翌朝、俺はマガストールとソンカク達と一緒に城壁の前にいた。
「それで?君達は何をしているのかな?」
そして目の前にはカラとアイーナがいる。
「もちろん、獣人の街までご一緒する為に待っていたのですわ?」
「えっと……今日は着いて来なくていいって言ったよね?」
「ですが、ソンカクさん達は人間の街で目立ってしまいますので」
「そうですわ?私達と一緒にいれば街で迫害されないですわ?」
「確かに私達は鬼人の街から出ていないですからみなさんがいてくだされば安心ですね」
おっと?
ソンカクも向こう側についたのか……
まぁ確かにカラ達の言い分も一理あるのが悔しいな……
「わかったよ……じゃあ行こうか」
結局4人も一緒に行くことになってしまった。
「そういえばケインさんやノエルさんは今回も不参加ですか?」
「ああ、ケインとノエルは今テーマパーク開業に向けて忙しいからな」
「なるほどですわ、それでは行きましょう」
クーパー達に任せているテーマパークが来月にはオープンする所まで来ていた。
その最終調整や細かい打ち合わせなどで幹部は大忙しなのだ。
「それで?獣人の街までどのくらいなんだ?」
「3日くらいですが……」
「ん?どうかしたのか?」
「はい、獣人の街はかなり辺境にありまして……1日目は大丈夫なのですがそこから先は道中に宿泊できる街がないのです」
うーん……
と言う事は2日目は野宿になるって事か……
「ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うと城に戻り準備をする。
「お待たせ、これで大丈夫だ。じゃあ行こうか」
みんなが不思議そうに見てくるが気にせず歩き始める。
国境までくると、チャコが待っていた。
「おや?チャコどうしたの?」
「はい、報告があって待っていました」
「遂に始まったのか?」
「はい、かなり大規模な戦場になっています。1日2日では決着はつかないかと」
「そうか……それで?どうなりそう?」
「現在、草原が戦場になっていますので、軍事力ではクイーン軍が少しだけ上ですが……リゲルは街と城をワープさせて籠城も視野に入れているようですので長期戦になればわからないですね」
「城と街を?まさか王城を?」
「いえ、配下の誰かの城だと思います。そこに街がついていました」
「ふむ……そういう戦い方もあるのか」
「ええ、勉強になります。ですので、長期戦になれば兵站という点でリゲルに分があるかと」
「なるほどな、それに兵士も街で休めるから野宿のクイーン軍は士気の点でも分が悪いか……しばらく大変かもしれないがクリオと一緒に偵察を頼む」
「了解しました。では私はこれで」
チャコはそう言うと戦場に向かって走って行く。
俺達も獣人の街に向かって歩き出す。
国境を超えてかなり歩いた。
日も暮れ始めもうすぐ夜になろうかという時、やっと最初の街が見えてきた。
「遠かったな……」
「はい、ですが獣人の街に行くまでにここが最後の街になります」
「わかった。じゃあ今日は宿屋に入ってゆっくりしよう」
俺達は街に入ると宿屋に向かう。
「お部屋はお2階になります。ではごゆっくり」
宿屋の店主から鍵を受け取ると、俺達は部屋に入る。
「流石に疲れたな……」
俺はベッドに横になり目を閉じる。
「ブ……様……リ……ま……リブ様……」
「ん……?んん?」
誰かに呼ばれて目を覚ます。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。
「おはようございますリブ様、お食事のお時間です」
俺は目を開けると声のする方を見る。
「申し訳ありません。ドアの向こうから何度も声をかけたのですが返事がありませんでしたので無断で入らせて頂きました」
そこにはアイーナが立っていた。
「ああ……すまない……もうそんな時間か、いつの間にか寝てたみたいだ……」
俺はベッドに腰掛けると軽く伸びをして立ち上がると部屋を出る。
「少し残念ですが……お疲れでは仕方ないですね……」
アイーナが小声で何か言っている。
「どうかしたのか?」
「い……いえ……大丈夫です」
「そうか?」
まぁ本人が大丈夫と言うのなら気にしないでおこう。
食堂に着くとみんなが待っていた。
「悪い待たせたな。じゃあご飯にしようか」
俺が席に着くと食事が始まった。
食堂というより酒場のような雰囲気の場所で客は俺達の他にも沢山いた。
その一角で飲んでいる冒険者達の話が聞こえてきた。
「そういえばよ〜昨日行った洞窟の奥に見た事も無い、禍々しい扉があったらしいぞ?」
「マジかよ?もしかしてそこにお宝があるんじゃないか?」
「ああ、でも何をやっても開かないんだってさ」
「なんだよ〜もったいないな〜どうにかして開かないのか?」
「武器でも魔法でも傷ひとつつかないんだってよ。まるで何かに守られているみたいだって言ってたぜ?」
「もし開けれたら大金持ちだな」
そう言うと冒険者達は大笑いしている。
「リブ様、少しよろしいでしょうか?」
その話を聞いていたソンカクが小声で俺に話しかけてくる。
「どうしたの?」
「はい、先程の冒険者達を聞いて少し気になる事があるのですが」
「気になる事?洞窟の事?」
「いえ、そちらではなく扉です」
「ああ〜何をやっても開かないっていう?」
「はい、もしかしたらその扉に心当たりがあるかもしれません」
え?マジ?それって大金持ちになれるって事?
「ただ……」
「ただ?」
「私の考えが合っていればその先にあるのはお宝ではなく……」
「ではなく?」
「恐らくですがそれは冥界の門かと」
はっ?えっ?冥界の門?
「冥界の門って?」
「はい、悪魔の世界への入口です」
悪魔の世界?
何故そんな所に繋がっているんだ?
「それで?冥界の門ってなんなんだ?」
「冥界……悪魔龍ニーズヘッグ様が支配する領域とこの世界を行き来する為の門です。冥界にはニーズヘッグ様が生み出した眷属……悪魔と呼ばれる種族がおります。しかし、かの者達は実態を持たず、精神生命体として存在しております」
精神生命体?
という事はこちらで活動する為には何か器のような物が必要って事か。
「そして、ニーズヘッグ様は邪竜戦争時代はクロート家の龍族筆頭として戦っておりました」
「クロート家の龍族筆頭?」
「はい、龍族はケルティック様、ファフニール様、ジャワザール様の精霊系ドラゴン、テュポーン様、ニーズヘッグ様、ラードーン様の聖なるドラゴン、そして太古龍……ゴリニッチ様……その方々がクロート家に支えていた龍族です」
「クロート家って事は他の召喚一族にも?」
「いえ……アルジョンテ様とシュバルツ様はクロート様の配下でしたので……ですが……シルバー様だけは……」
「裏切ったのか」
「はい……ですので、もしかしたら何体か龍族がいたかもしれません……」
「なるほどな……それで?そのニーズヘッグって会えるのか?」
「わかりません。ですが、冥界の門に行けば何かわかるかもしれません」
「よし!!じゃあ明日その洞窟に行ってみよう」
こうして俺達は獣人の街に行く前に、冥界の門を目指す事にしたのだった。