140話 鬼人族と王の資質
男達を追いかけて街の中央までくると、そこには大勢の鬼人達が集まっていた。
「おい!!そこのお前!!さっきの話をもう一度みんなに説明してやってくれ!!」
鬼人の男は俺達を見つけるとみんなに説明しろと言ってきた。
「マガストール頼む」
「了解しました」
俺はマガストールに頼むと一緒に説明を聞く。
「……と言う訳です」
「なんて事だい……ついに国が出来たって……」
「ソン婆どうする?」
「どうするかね?とは言え、今のままではまた新しい王とやらに攻め込まれて逃げ回る事になりそうじゃし……」
「戦おう!!逃げてばかりじゃまた同じことの繰り返しだ!!」
「そうだ!!そうだ!!」
「まぁ待て……戦うと言っても戦力的にはこちらは精々100人程度……軍勢で襲ってこられたら歯が立たんじゃろう……しかし……先程の話じゃと、この大陸が3国に割れ全ての土地に王が誕生しておる……簡単に移動もできん状態じゃ……」
どうやらソン婆と呼ばれた老婆がここの最年長で決定権を持っているようだ。
と言う事はこのお婆さんと話をつければいいのかな?
「お話中失礼させて頂きます。私はリブ・クロート様のメイドをしておりますアイーナと申します。よろしければ、お話を聞いて頂けませんでしょうか?」
俺が悩んでいるとアイーナが前に出て鬼人達に声をかける。
「なんじゃ?たかがメイドがなんの用じゃ?」
「はい、私達が今回こちらにお邪魔したのは鬼人族の皆様に我が国に来て頂けないでしょうか?というお願いをしに参りました。よろしければ、お話を聞いて頂けませんでしょうか?」
「そちらの国にじゃと?」
「ええ、そうですわ?」
カラもアイーナの横に立つ。
「ふん!!わしらを奴隷にでもするつもりか?貴様ら人間の国になど行かんわ!!」
「ああ!!そうだぜ!!人間は敵だからな!!」
「そうよ!!そもそもなんでこの街に人間がいるの?」
鬼人達が騒ぎ始める。
「まぁ待てよみんな、ソン婆も落ち着いてくれ。俺がこの人間を信用して街の案内をした」
「そうじゃったな……」
「あ……ああ……」
「なぁ、ここにいてもリゲルとかいう奴がこの街を攻撃してくるだろう?そうなったら街もめちゃくちゃになるし怪我人も出るだろ?だったらそうなる前にこの街を捨ててこの人達の国に行かないか?」
男がみんなを説得している。
「しかしの……その国の王も信用できるのか?」
「えっと……その王って俺なんだけど?」
俺は小さく右手をあげながら前に歩み出る。
「はっ?」
「え?」
「なんじゃと?」
鬼人達は困惑している。
「だから、イグニアス王国の国王リブ・クロート……です」
いつもはケインが上手く紹介してくれていたので、自分から名乗り出るのが少し恥ずかしい。
というか、マガストールはいいとして他の4人は本当になんの為にいるのだろう?
まぁ、いいか……
「本当に貴様……あなたがその王様だとして俺達を仲間にしてどうするんだ?一体俺達に何を求めている?」
「俺は各種族の方達に隠れて暮らすんじゃなくてもっと安心して暮らせる場を提供したいと思っている。それに人間にはない特殊な能力があるかもしれない。だから、戦闘に参加したいという同士を募って新しい部隊も編成したいとも考えている。まぁ強制はしないし、もし嫌だというのなら無理に参加させたりしないけどな」
「そんな理想を語っても簡単には信用できんの……」
「だろうな、だから無理強いはしない。ちなみにドラゴニュート達はもう仲間になって一緒に暮らしているぞ?」
「な!!なんじゃと?あのドラゴニュートが……じゃと?」
ソン婆が驚いて固まっている。
「なぁソン婆、そのドラゴニュートってなんなんだ?」
「ドラゴニュートは龍人と呼ばれる種族じゃ……邪竜戦争の後、ドラゴン族だからという理由で我等と同じく迫害されて山奥に里を作って細々と暮らしていた少数部族じゃ……」
「ああ、そのドラゴニュート達は今では子供も増え俺の国で人間の移住者達と仲良く生活している。そして、俺の最初の新しい部隊だ。彼等は空を飛べるから空撃部隊の訓練をしてもらっている」
それにしても……
このソン婆って、この鎖国的な街なのにやけに外の情勢に詳しいな?
もしかして?
「ソン婆といいましたか?もしかしてあなたは……」
「ああ、その通りじゃ。我はあの邪竜戦争を知っておる……というか参加しておった……」
「な!!」
俺だけではなく、鬼人達も驚いている。
「儂は鬼人族の戦士として仲間と共に戦場におった。そこでドラゴニュートや獣王達と一緒に戦ったのじゃ。じゃが……シルバー様とクロート様の……」
ソン婆が言い難そうにチラッと俺の方を見る。
「ああ、それなら知ってるよ。ドリーやケイローン達に聞いたからな。シルバーに裏切られてクロート軍は壊滅したんだろ?というか時空の狭間に飛ばされたって言った方が正解か?」
「ほむ……ドリー様やケイローン様が……なるほど……本物のクロート様じゃったか……」
ソン婆が突然俺の前に跪く。
それを見た鬼人達は驚きながらも慌ててその場で跪く。
「クロート様……ご無事で何よりでございます。まさか今一度御前に立てるとは思いもしませんでした……」
あれ?ソン婆の話し方が変わった?
『のじゃ』がなくなって急に普通の敬語になった。
「私はソンカクと申します。少しお待ちくださいませ」
ソン婆はそう言うとスッと立ち上がると何やらブツブツ念仏のようなものを唱える。
すると、次の瞬間ソン婆の体が眩い光に包まれる。
「ふ〜この体になるのは300年降りくらいか……」
ソン婆の周りから光が消えていくとそこには20代くらいの綺麗な女性が立っていた。
その女性は再度俺の前に跪くと、
「クロート様!!我等鬼人族、総勢500名!!今よりあなた様の配下として働かせて頂きます!!」
「ちょっ!!ソン婆!!突然若返ったと思ったら俺達の意思を無視して何を勝手に!!」
鬼人の男は立ち上がるとソンカクに向かって異議を唱えている。
「モウキ、これは決定事項だ。クロート様が復活なされた今、我々鬼人族はクロート様に尽くすのが使命なのだ」
「そんなの聞いてないぞ?なぁみんな!!」
鬼人達は黙っている。
「皆も納得できないか?ならば、私と戦って黙らせてみるがよい!!」
ソンカクが戦闘体制を作る。
「全く……まぁ待てソンカク……」
跪く鬼人達の後方に10人ほどの年寄り達が歩いてくる。
それを見た鬼人達は老人達が前に来れるように道を開ける。
「モウキも少し落ち着くのじゃ」
「でもよ!!ロン爺!!ソン婆が勝手に!!」
モウキと呼ばれた男はやはり納得していない。
「クロート様……ドリー様はお元気ですか?」
「ん?ああ、あなた達もソンカクさんと同じく戦場に?」
「はい、あそこにおりました……」
「そうでしたか、じゃあドリー達にお会いになりますか?」
「なっ!!会えるのですか?」
「ああ、今すぐここに呼び出すよ?」
「そ……それでしたら少々お待ちください……」
そう言うと老人達は一斉に光に包まれる。
「ま……まさか!!ロン爺達も?」
モウキは再度驚いている。
ロン爺達の光が収束するとそこにはソンカク同様、若返ったロン爺達が立っていた。
「お待たせ致しました」
ソンカクの隣に来るとゆっくりと跪く。
「じゃあ今いる神獣を呼び出すよ」
俺は指輪から神獣達を召喚する。
『クロートよ今度は誰と戦うのだ?』
俺に召喚されたドリー達が姿を現す。
「いや、別に戦わないよ?」
『では……ん?こやつらは?』
ドリーが俺の前に跪く鬼人達に気がつく。
「ああ、鬼人族だよ」
俺とドリーのやりとりにソンカクは目を輝かせている。
他の鬼人達は突然目の前に現れたドリーやリコル達に腰を抜かしている。
「ドリー様……お久しぶりでございます。それにリコル様と妲己様も」
『あら?あなた達はもしかしてソンカクとロンケイかしら?それに懐かしい顔が沢山』
『ふむ、妾も覚えておるぞ?』
『ソンカク?……ああ!!思い出したぞ!!鬼人の女戦士か!!』
「左様にございます」
『鬼人……か……なるほどのぅ。流石は長命種というわけか』
「はい、我等生き残りはこの時の為に秘術を使用しておりました。今一度クロート様と共に」
「だからそれは!!俺達の意志じゃないだろ?」
ソンカクがそこまで言うと、モウキが我に返って反発する。
「ふむ、ならばやはり戦うしかないな……」
「ああ、若返った事には驚いたけど、俺も鬼人の戦士だ!!負けないぜ?」
なんか勝手に盛り上がってるな……
俺達の事は無視かよ……
というか、ソンカクってさっきまで杖をついた老婆だったよね?
大丈夫なのか?
『クロートよ、安心しろ。ソンカクは強いぞ?』
俺の心配に気がついたのか、ドリーが囁いてくる。
「そうなのか?」
『ええ、彼女はああ見えて鬼人族最強の女戦士でしたから』
リコルも笑顔でそう言っている。
「というか、そもそも戦わないとダメなのか?」
『クロート様、鬼人族とはそう言う種族なのじゃ』
妲己が呆れながら教えてくれた。
「じゃあ、俺達も座ってゆっくり観戦する事にするか」
俺はそう言うとその場に座り込む。
いつの間にか鬼人族もその場から離れてソンカク達の戦いを見守る感じになっている。
「モウキ、手加減はしないぞ?」
「はっ!!それはこっちのセリフだぜ?いくらさっきまで年寄りだったからって全力で行かせてもらうぜ?」
お互いにジリジリと間合いを詰める。
睨み合う2人の間にふっと風が吹くと、ほぼ同時に地面を蹴る。
ドーン!!と言う轟音と共にぶつかり合う2人。
そこからは、攻防の応酬だった。
「オラわくわくすっぞ!!って言いそうな戦いだな」
俺は隣にいるマガストールにあのアニメのセリフを言う。
「そうですね……楽しそうです」
何故かマガストールがうずうずしている。
そうしてしばらく拮抗した戦いをしていた2人だったが、戦いの終わりは突然訪れるのだった。
「これで最後だ!!」
モウキの拳が鈍く光るとソンカク目掛けて真っ直ぐ突き出される。
その拳はソンカクの頬を掠めるとうっすらと血が滲む。
「ぐはっ!!」
だが、倒れ込んだのはモウキだった。
モウキの腹部にソンカクの蹴りがめり込んでいたのだ。
「まだまだ若いな……」
ソンカクはそう言うと頬の血を親指ですくうとペロっと舐めている。
「決着はついたな……まだ我の意見に異議のある者は前に出よ!!」
ソンカクは鬼人達に向かって威圧する。
すると、ロンケイがソンカクの前に出る。
「なんじゃ?ロンケイ」
「ソンカクの気持ちはわかる。だが、今の鬼人族は昔の事は知らん。俺達も今のクロート様の実力を知らない。だから、まずはリブ・クロート様の力をお見せ頂きたい」
ロンケイの言葉に鬼人達がジッと俺の方を見る。
『なんだ?我等と戦うのか?』
ドリーがやる気満々で立ち上がる。
「いえ、ドリー様ではなく、リブ様のお力を知りたいのです。あの頃のクロート様と今のクロート様の違いを……ね」
ロンケイはそう言うと口元に笑みを浮かべる。
「なるほどね……」
俺はゆっくり立ち上がると前に出る。
「それで?相手は?」
「ちょっ!!ちょっと待ってよ!!なんでリブ様と戦う事になるのかしら?それなら私達が!!」
カラと紅玉、そして霞が俺の前に出る。
「そうだ!!ロンケイ!!貴様私の顔を潰す気か!!」
ソンカクもロンケイの胸ぐらを掴む。
「いや、これは俺の試練のようだから大丈夫だよ。ソンカクも手を離してやれ」
俺は3人を退かすと再度前に出る。
ソンカクも仕方なくロンケイから手を離す。
「それで?ロンケイがやるのか?」
「いえ、それでは意味がありません。ですのでこちらも現在最強の戦士を」
なるほどな……
ロンケイ、中々の策士だ。
「わかった」
「リュウキ前に」
ロンケイに指名された男が前に出てくる。
「ロン爺……俺が本気でやっていいのか?」
「ああ、構わない。まだクロート様の配下ではないからな。お前が本気でやりあえばみんなも納得するであろう?」
「ふ……殺しても文句は言うなよ?」
「それは大丈夫だ。殺せるのならな」
ロンケイはリュウキの肩をポンっと叩くとそのまま後ろに下がっていく。
「さて、過去の英雄様がどの程度なのか見させてもらおうか」
リュウキはボキボキっと指を鳴らすと、俺に顔を近づけてくる。
うーん……男に顔を近づけられても嬉しくないな……
「ああ、お手柔らかに」
「はっはっは!!情けない男だ!!本当にこんなやつで大丈夫なのか?」
リュウキはポンっと後ろに飛び退くと戦闘体制を取る。
そして、ウォーっと気合いを入れると闘気?を身体中に纏う。
うーん……やっぱりあのアニメっぽいな……
でも、俺はあんな事できないからな〜
どうしよう?
とりあえず君主覇気とかいうスキルがあったよな?
それを使ってそれっぽく見せてみるか。
俺はそう思ってリュウキの真似をしてウォーと君主覇気のスキルをリュウキに向かって発動させてみる。
………………
ん?
あれ?
リュウキが口から泡を吹いて倒れる。
そして何故かニヤニヤ見ていた鬼人達がガタガタ震えている。
「リ……リブ様……今のは一体?」
カラ達も恐る恐る俺に聞いてくる。
その隣でドリー達は大声で笑っている。
「え?いや、リュウキの真似をして覇気を飛ばしただけなんだけど?」
『は〜〜はっはっはっは〜〜!!流石はクロートだ!!覇気だけでこの威力か!!これは普通の人間では耐えられんぞ?俺達でもギリギリだったわ!!』
ん?神獣でギリギリ?
俺は辺りを見回すと鬼人の女性や子供が気絶している。
「ク……クロート様……これほどとは……あなたを試そうなどと思った我々をお許しください……これから鬼人族はあなた様に絶対服従でございます……」
ロンケイが震えながら頭を下げてくる。
あれ?これで終わり?
特に何もしてないけどまぁいいや。
「リブ様……強いのは知っていましたが……ここまでヤバいとは思ってなかったですね……」
「ええ、私達はリブ様が直接戦っている所を見た事がないですからね……」
「こんな覇気を直接受けたリュウキは大丈夫でしょうか?」
紅玉と霞、そしてアイーナがコソコソ話をしている。
「リブ様?もしかして今のは君主覇気ではないのでは?」
マガストールに言われてスキルを確認してみる。
「あっ!!」
スキルが君主覇気が無くなって覇王覇気に変わっていた。
「どうされました?」
「君主覇気だと思ってたら覇王覇気に変わってた」
俺は頭の後ろに手を当て舌をペロっと出して謝る。
「いや……それは耐えられる訳ないじゃないですか……リュウキが廃人にならない事を祈りましょう……」
マガストールがため息をつきながら呆れている。
「いいか!!これより私達の主人はリブ様だ!!」
ソンカクが大声で鬼人達に言っているが9割の人は気絶しているのだった……。