138話 組織の再編成と今後の方針
俺は大広間にメンバー全員を招集する。
大きな円卓が置かれた座敷にmatのメンバーが全員座って俺の事を待っていた。
「リブ様、全員揃いました」
「ああ、今日集まってもらったのはある計画を説明する為だ」
「計画とは?」
ケインが不思議そうな顔で俺を見る。
「今後のイグニアスに関する事だ。まず初めに、俺は本気で大陸の王を目指す事にした。だが、今のままではクイーンに勝てないだろう」
俺の言葉に大広間がザワザワする。
「みんなの気持ちはよくわかる。だけど、現実問題で軍事力という点では残念ながら劣っている」
「しかし!!我々も!!」
フランが興奮しながら立ち上がる。
「まぁ最後まで聞いてくれ」
俺はフランを落ち着かせて座らせると
「現状、俺達とクイーン軍は個々の能力ではほぼ互角だろう。でも、互角じゃダメなんだ。圧倒的に勝利出来なければその先には進めない」
「その先とは?」
ケインが再度俺を見る。
「俺達の最終目的は邪龍を倒してこの世界を取り返す事だ。だが、先日のカマイタチ戦でわかった通り、四天王の眷属にさえ苦戦する状態だ。それでは邪龍どころか四天王にも勝てないだろう?それにまだ他の四天王の眷属も残っているんだ」
カイザー達が下を向く。
「それにメンバーも増えて今の体制だけでは十分とはいえないと思う。だからまずは体制を再編成する。その上で新たな称号を与えて個々の能力を底上げしようと思う。その上で軍も再編成しようと思う」
「軍を再編成ですか?ですが今からでは間に合わないのでは?」
カイザーが顔を上げると質問してくる。
「ああ、とはいえ今日まで訓練してきた今の軍はそのままにして新たに追加する」
「と言いますと?」
「みんなはこの世界に来た時に種族を選んだよね?」
「はい、私とお姉ちゃんは獣人です」
ノエルがウサギの耳をピクピクさせる。
「ああ、でも不思議に思った事はないか?」
「不思議にですか?」
「ああ、俺達が属州にしてきた街は基本人間だ。だがドラン達ドラゴニュートを仲間にした時にもしかしたら他の種族も存在してるんじゃないか?って思ったんだ」
「なるほどです……」
「だからマガストールに頼んで捜索してもらっていた。そして今回獣人と鬼人の集落を発見したんだ」
「なんと!!ですがそれと今回の再編成とどういった関係があるのですか?」
俺は興奮するケインを宥めると本題に入る。
「まず、各種族を仲間にして特性を活かした隊を作ろうと思う。例えばドラゴニュートは空を飛べるから空軍みたいな感じでね」
俺は説明しながらドラグの方を向く。
ドラグは真っ直ぐ俺を見ると大きく頷く。
「我々にも活躍の場を与えて頂けるという事ですね?」
「ああ、今までは内政に集中してもらっていたが、住民も増えて来た今若い男達は戦場に出てもいい頃だろう?」
「はい、確かにそのような声が出てきているのも事実です」
ドラグがドラゴニュートの現状を全員に説明する。
「という訳で今の軍隊の底上げをしようと思う。もちろん今ある軍隊の訓練は続けてもらうけど、小隊を細分化して戦略の幅を広げたいというのが俺の考えだ」
「細分化と言いますと?」
「例えば、今は歩兵隊の中のロイ、ネージュの小隊って感じでしょ?それを剣士小隊、武闘家小隊みたいな感じでやる事を変えるんだ。そうする事で戦略が変わるしもっとやれる事が増えると考えている。そこにドラゴニュート部隊とか獣人部隊とかが加われば更にパワーアップできるんじゃないかな?」
「それは素晴らしい考えです!!それなら私達も戦術の選択肢が増えます!!」
ケインとフランが目を輝かせている。
カイザー達も何か考えているみたいだ。
「という訳で俺は商人ろしてリゲルの国に行こうと思う」
このタイミングで俺は今回の会議での1番重要な事を伝える。
「は?」
「え?」
「今なんと?」
マーチやケイン、そしてロイまでも目を丸くしている。
「い……いえ……それはまた別の話かと!!」
「ん?だって獣人や鬼人を仲間にしなければこの構想は崩壊するでしょ?」
「それはそうなのですが……リブ様が直接行かなくてもよろしいかと……」
ケインが困った顔をしている。
「それでは私が同行しましょう!!」
いつの間にか俺の隣に座っていたカラが突然立ち上がり一緒に行くと言い出した。
というか、さっきまでそこにはノエルがいたはずなんだけど……?
「私なら隣国に顔も割れていませんし、これといったスキルもないですから一般人と言ってもわからないですわよ?」
何故か自分の無能をアピールしてくるのだが……
メンバーとしてそれはどうなのだろう?
「あら?カラ様?それはご自分が役に立たないお荷物である事を自ら宣言されているのですか?」
大広間からキッチンに抜ける入口のところで待機しているアイーナが怖い顔でカラを睨む。
「あら?家事しかできないメイド風情が私にそのような意見をするのですか?」
カラも負けじと応戦する。
「家事すらできないカラ様に言われたくありませんわ?それにリブ様のお供には私の方が何かと役に立つと思いますわ?」
2人はお互いに睨み合ったまま動かなくなる。
「それでしたら私が同行致します。隠密行動には慣れていますので」
今度はハンゾーの隣にいる紅玉が立ち上がる。
「紅玉さんはあちらの大陸に行く任務がありますので私が代わりに隠密として同行しましょう」
紅玉の言葉に反応したのは、ハヤテの隣にいる霞だ。
ハヤテを挟む形で座ったまま紅玉と睨み合っている。
「う……うん……とりあえず今回はマガストールに同行してもらう予定だよ……」
俺は女性達の争いから逃げるようにマガストールを指名する。
「は?男と2人旅ですか?しかもこのおっさんと?」
「あ……ああ……所在地を知っているのはマガストールだけだからな」
4人が一斉にマガストールを睨んでいる。
睨まれたマガストールはどうしていいのかわからないという顔で俺に助けを求めてくるが俺はそっと目を逸らす。
マガストール……すまん……こうでもしないと治らないんだ……
「という事はチャコさんも一緒ですか?」
カラが今度はチャコに絡み始めた。
「いえ?私は行きませんよ?こちらでやる事がありますので」
チャコは何も無かったかのようにいなしている。
流石だ……
「ではやはり女性が必要ですわね?」
うん……カラ……何故そうなった?
「ですね。ではやはりメイドとして私が」
堂々巡りだな……
「まぁ……それは後にするとして、新しい組織を伝えておく。その前に、俺がいない間の代表代理はケインに任せるから何かあったらケインに報告して指示を仰いでくれ」
俺が話を始めると険悪だった空気がとりあえずは落ち着く。
カラが何かブツブツ言っているが無視しておこう。
「それじゃあ今後のイグニアス王国の組織と称号を伝える。まず国政に関する文官の幹部から発表する!!相国兼軍師にケイン、右丞相にマーチ、左丞相にフラン、参義にノエル、大蔵卿にヤリス、医官にアドオンとする」
まずは国政を担う文官の幹部を決める。
役職名はなんとなく聞いた事がある役職を思いつきで付けた。
「続いて武官の幹部の発表をする!!軍事部を6部門に分け各軍団長に大将軍を授ける!!騎兵部門 : 騎兵大将軍カイザー、歩兵部門 : 歩兵大将軍ロイ、魔導部門 : 魔導大将軍ミーシャ、弓部門 : 弓兵大将軍ギート、召喚獣部門 : 召喚大将軍クーパー、暗殺部門 : 刺客大将軍ゼキル!!尚、大将軍筆頭をカイザーとする。諜報武官は2部門に分ける、隠密諜報武官統領 : チャコ、隠密御庭番衆頭領 : ハンゾー、最後に魔導開発総括兼魔導兵将軍 : サリー、商業部門総括兼歩兵将軍 : ネージュ、冒険者ギルド総括セシル、今後は以上の者を幹部とする」
「「「はっ!!!!」」」
「次に各幹部の副官及び補佐として任命するメンバーを発表する。騎兵部門カイザー補佐ゲーリック、歩兵部門ロイ及びネージュ補佐ワイズ、魔導部門ミーシャ及び開発部門サリー補佐ウェンツ、弓兵部門補佐ユリーカ、召喚獣部門補佐マーチン、暗殺部門補佐羅刹、シエル、隠密諜報部員マガストール、クリオ、隠密御庭番衆ガルフォード、紅玉、小太郎、ハヤテ、霞、冒険者ギルド王宮冒険者ヨシツネ、ラーレン、レリック、医官補佐ライズ、大蔵卿ヤリス補佐カラ以上だ。みんなこれからも頼むぞ?」
「「「はっ!!!!」」」
「最後になるが、筆頭執事兼属州都市総括 : セバスチャン、メイド長アイーナだ」
「はっ!!」
「後の事はケインに任せる。細かい所を決めてくれ」
「了解致しました」
まぁ、基本的には以前の編成と変わりないのだが称号を変える事で何か変化が起きるかもしれない。
多少のいざこざはあったものの概ね伝えたい事は終わった。
後は各種族が集まればその時に増やせばいいだろう。
俺はゆっくり席を立つと満足気に大広間を出るのだった。