137話 動き出す盟主
城に戻った俺達はそのまま風呂に向かう。
ここでゆっくり話を聞きたかったのだ。
「それで?ケインはマーチでロイはノエル、カイザーはネージュ、サリーはミーシャか?」
「は……はい……」
「別に責めている訳じゃないよ?むしろ今まで何もなかった方が不思議なくらいだからな」
「しかし、リブ様が大陸の王になろうと決心されたのに我々が浮かれているのも……」
「いいんじゃない?それはそれ、これはこれだろ?これだけ長い間男女が一緒に生活したり仕事しているんだから逆に自然の流れじゃない?」
「は……はぁ……」
「そんな事より他にいないのか?」
「他に?とは?」
「だ・か・ら、君達以外にカップルが誕生していないのか?って事」
「え〜っと……私が知る限りでは後はアドオンさんとライズさん、ゼキルさんとシエルさんですね」
おっと……みんな結構恋愛してた。
「そ……そうなんだ……」
「ですが、リブ様の想像しているような関係ではないですよ?」
「ん?俺が想像している関係とは?」
「い……いえ……みなさんしっかりとリブ様を王にする為に仕事は完璧にこなしておりますので、浮かれてデートをするような感じではないと……」
「ふーん……まぁ別に俺に気を使わなくていいから普通に恋愛すればいいんじゃない?プライベートまで強制なんかしないよ?」
「ですが……」
「というか、俺的にはそういう関係なのに俺のせいでデートもしないとか言われた方がキツイんだけど?」
「あ……」
「隠れてコソコソされるのも嫌だし……」
3人とも下を向いたまま固まってしまった。
「そ……そういえば!!」
ロイが突然何かを思い出したように大きな声を上げる。
「どうした?」
「はい!!リブ様に恋心を抱く女性がおります!!」
「ふ〜ん……って!!えっ????誰なの?」
「えっと……カラさん、紅玉さん、霞さんそれと……アイーナさん……その他……」
「はっ?4人も?」
「4人どころではないですよ?住民の女性達まで含めればもう数え切れないほど……それにリブ様の彼女になるという事はゆくゆくはこの国の王妃になる訳ですから」
王妃に?って結婚が前提なの?
「ま……まぁ俺は今は彼女とか考えられないかな?俺こそ浮かれてる場合じゃない……」
俺の言葉にまたしても3人が下を向く。
「せめてこの大陸を平定できたら考えるかもしれないけど……俺の場合負けたら即終了だからな……王のまま先に進むかどこかの村で平民としてのんびり生活するか……そんな事になったら王妃どころか貧乏農夫の嫁だぞ?もしかしたら殺されるかもしれないしな?」
そうなのだ……ケイン達は再度新しい王に仕官して将軍として生きていける道がある。
だが俺にはその道はないのだ。
負けたらその時点で今の地位は消えてなくなり、平民としてどこかでひっそり暮らすか最悪処刑されてこの世から永遠にさようならという未来もないとは言い切れないのだ。
そんな男が恋愛にうつつを抜かしている場合ではないのは事実だった。
「という訳で俺とみんなではそもそも違うんだ……だからみんなには胸を張って堂々と恋愛してほしい。本当に俺の事は気にしなくていいからな?」
「これはカラさん達は大変ですね……リブ様にその気がないのに振り向かせるのは不可能に近いです。それ以前に……それはさておき私も気持ちを入れ替えてもっと勉強しなければなりません」
「ええ、というか我々もイグニアスの平和な空気に浮かれていました……ここはまだ戦場なんですよね……」
「私も今一度訓練のし直しです。今後カマイタチ以上のモンスターが出てくるのは必然ですからね。もっと強くならなければ」
3人はお互いに顔を見合わせると大きく頷く。
「それはいいけど、彼女も大切にしろよ?」
俺はみんなの恋愛を終わらせたい訳ではない。
寧ろ応援したいのだ。
それを俺に遠慮して別れるとかありえない。
両立してくれればそれでいいのだ。
「しかし……」
「仕事とプライベートは別で考えろって事だよ。さてそろそろ出るか」
風呂から出ると大広間にマーチ達が嬉しそうにケイン達を待っていた。
俺はその光景を横目にそのまま素通りし階段を登ると自室に戻る。
「ふ〜」
バタンっとベッドに横になると天井を見つめる。
「恋愛か……考えてもいなかったな……」
こちらに来てからメンバーとは家族として接してきたからか、そういった感情は持てなかった。
だがよく考えてみれば、みんな日本からこっちに来た普通の男女なのだ。
元々恋人同士だったり夫婦だった人達もいるのだから他のメンバーもそういう関係になっても何も不思議はないのだ。
「まぁ俺は元々向こうでもボッチだったけどな……」
それでもこっちでは俺に好意を持ってくれている人もいるみたいだが、もし戦争に負けてこの国が無くなり俺が王じゃなくなってもそういう気持ちを持ってくれるのだろうか?
「やっぱり今はそういう気になれないな……」
とりあえず、大陸の王になるのが先だ。
イグニアスの発展もまだまだ時間がかかるだろうし、今はやる事が多すぎて彼女を大事にしてやれる自信がない。
そんな事を考えていると、部屋の扉をノックする音がした。
「どうした?」
「はい、ご報告がございます」
「どうぞ」
「失礼します」
扉が開くとそこにはチャコとマガストール、クリオが立っていた。
「おやすみのところ申し訳ございません」
「いや大丈夫だよ。それで?わざわざ部屋まで3人揃って来たって事は結構重要な報告という事でいいのかな?」
俺はベッドから降りるとゆっくりと立ち上がる。
「はい、まずハンゾーさんから引き継いだリゲル・オリバーとシトールの王城攻防戦ですが、リゲル・オリバーが勝利しました。そして、王城を占拠した彼らはそのまま国内の平定に向け軍を派遣したようなのですが、その内のひとつの軍隊がシトールの軍に敗北しました」
「ほう、将軍クラスだけではシトールには勝てないって事か」
「そうですね」
「それで?その後シトールはどうしたの?まさかリゲルの国に居座ってる訳じゃないでしょ?」
「いえそれが……どうやらそのままそこに城を構えたまま動かないようです」
「は?まさかリゲルの国を乗っ取るつもりなの?」
「どうやらそのようです……恐らくですが同じくらいの戦力だったので次は勝てると思っているのかと……」
「え?シトールってアホなのか?王城を取った盟主にはドラゴンが守護龍としてついているんだよ?どんなに軍事力を上げてもそこには勝てないでしょ?」
「はい……恐らくですが……知らないのかと……」
「え?マジか……まぁいいや……コウリュさんには申し訳ないけど彼らの事は忘れよう……それで?他にもあるんでしょ?」
「それは私から」
後ろで黙っていたマガストールが一歩前に出る。
「リブ様から命じられておりました本に載っている種族の捜索ですが、獣人族と鬼人族を見つけました」
「おお〜〜!!それで?仲間になってくれそうな感じなの?」
「それが……」
「ん?何か問題があるの?」
「問題というほどの事ではないのですが……どちらもリゲルの国にあるのです……」
「ああ〜〜そういう事か……」
「はい、さすがにリブ様が乗り込むとなると戦争になるかと……」
「だよな……どうにか相手にバレないようにこっそり接触出来ないかな?」
「リブ様は隠密スキルも持ってないですし……それは難しいかと……」
隠密スキルか……
流石に持ってないな……
あれ?そういえば商人スキルでいけないかな?
「なぁ商人として入り込めないかな?」
「商人ですか?」
「ああ、俺は元々マーチャントだから商店を開店するスキルがあるだろう?それを利用して取引する名目でリゲルの国に入って獣人の街に行けないかな?」
「なるほどです……我々が付き人として付いていくという訳ですね?」
「ああ、それなら戦争にならずに済むんじゃないかな?」
「わかりました。ではそのようにケインさんにもお伝えした上で準備しておきます」
「ああよろしく頼む」
「それでは最後に私から」
クリオがスッと前に出る。
「南方のクイーン領ですが、国内の平定を終え軍事行動の準備が行われております。恐らくは新興国であるリゲル領に攻め込むつもりかと」
「は?もうリゲルを攻撃するの?」
「まだ、準備段階ですがかなりの数の兵士が集まっておりました。大将はボルドでロジットが副将のようです」
「それで?リゲルは気がついているのか?」
俺はチャコの方を見る。
「いえ……リゲルは国内の平定に忙しいようで……まだ気がついておりません」
それだと急がないとやばくないか?
「マガストール、大至急リゲルの国に行くぞ?ここから1番近いのは獣人か鬼人か?」
「鬼人族の集落は南方にありますので少し遠いかと……獣人の集落でしたら3日ほどのところにありますのでそちらの方が近いかと……」
「いや、鬼人族の集落が南にあるのなら先に行こう。戦争に巻き込まれたら接触どころじゃないからな」
「わかりました。では早速準備にかかります」
チャコ達は1礼すると部屋から出ていく。
さて……ついに俺もこの国を出るのか……
もしもの為にこっちの準備もしておくか。
俺はゆっくりと部屋から出るとケイン達の元に向かうのだった。