136話 決着とそれぞれの恋?
対策を見つけられないまま、俺はケインとロイを連れて急ぎカイザー達の元に向かう。
カイザー達が食べられてしまったら元も子もない。
「あれが山か……」
「はい、ネージュさんからは通信妨害やワープも使用できないと聞いています……ノエルさん大丈夫でしょうか?」
ロイが心配そうに山の方を見ている。
「ん?ノエル限定?」
俺がロイの方を向くとロイはスッと顔を背ける。
ん?もしかして?
「それで?他のメンバーと軍隊は城に戻ったんだよな?」
俺はロイを横目にケインに確認する。
「はい、皆無事に帰還しております。チャコさんやゼキルさんも参戦を申し出てきましたが、今回は見送らせて頂きました。特にサリーさんがミーシャさんを心配しておりまして……かなり取り乱しながら魔導兵器で乗り込もうとしていましたのでウェンツさんに止めてもらっています」
「サリーが?え?それってもしかして?」
俺は興味深々でケインを見る。
「はい……しかしながら今は他人の恋バナをしている場合ではありません。一刻も早くマーチさん達を助けなければ」
ケインが俺の興味をかき消すように答えるのだが、こちらはマーチを心配しているようだ。
ん〜〜いつの間にかみんなそういう感じなのか?
まぁ、恋愛は個人の自由だから別にいいんだけど……
落ち着いたらみんなを問いただしてみよう。
「ん……んん……じゃあ行こうか」
俺は軽く咳払いをするとケインとロイを連れて山に入る。
「うーん……どうやらなんらかの結界が張られているようですね」
「わかるのか?」
「はい、地形感知のスキルを使用しました所、結界に妨害されてしまいました」
「なるほど……その結界を壊さないと通信もワープも出来ないって事か……」
「そのようです」
俺達が困っているとケインの指輪が光出し、ケイローンが姿を現す。
『ケインよ困っているみたいだな?』
「ケイローン様?どうして?」
『私は他の神獣とは異なりお主の心に住んでいるからな』
「心に?」
『そんな事より、クロート様妲己を呼び出して頂けますか?奴なら結界を破壊できると思いますので』
「妲己が?そうなんだ!!よしじゃあ早速呼び出そう」
俺は指輪から妲己を召喚する。
『お呼びでございますか?』
「ああ、すまないがここに張られている結界を壊してくれないか?」
『ん?結界ですか?』
妲己は周辺を見回すとクスッと笑う。
『この程度の結界を壊すなど妾にかかれば簡単な事です。では早速』
『破界神風連撃!!』
妲己は9つの尾を振り回すと、風の力を操り結界を破壊していく。
『これで一帯に張られた結界は無効化されました。それでは妾はこれで』
「ああ、ありがとう。助かったよ」
妲己はふふふっと笑うとスッと指輪中に消えていく。
『では、私もこれで。ケインよ困った事があればいつでも呼び出すが良いいつでも知恵を貸すぞ?』
「はい、ありがとうございます。今後ともよろしくお願い致します」
『私に敬語など必要ない。クロート様をお支えする事が私達の役目だからな』
ケイローンも笑いながらケインの指輪に消えていく。
「これで通信もワープも使えるはずだな?誰かに通信してみよう」
「そうですね!!では私がノエルさんにお伝えして範囲ワープで逃げてもらいます!!」
ロイは本を取り出すと嬉しそうに通信を始める。
「まぁ……いいか……」
「ノエルさんと通信できました!!しかし……」
「どうかしたのか?」
「はい……カイザーさんが残ると聞かないらしく……それを心配したネージュさんも一緒に残ると言っているらしく……」
ん?まさかとは思うけど……そこも?
まぁ今はいいか……
「じゃあすぐ行くから、俺達が到着するまで必ず生き残るように伝えてくれ!!」
「わかりました!!」
ロイは再度ノエルに通信を始める。
「さて急ごうか」
俺達はカイザー達の元に急ぐ。
そして頂上の手間で戦闘中のカイザー達を見つけた。
「カイザー大丈夫か?」
「リブ様……なんとか頑張ってはいますが……こちらの攻撃が全く効かないようで……」
「なるほど、俺達も加勢するよ」
『餌が更に増えたか!!今日はご馳走だな!!』
「悪いがお前に食べられる気はない」
『ははは!!ではどうするのだ?』
「もちろん倒すさ、毛蟲の長麒麟の眷属霊獣カマイタチ」
『ほう……我を知っているとは』
「まぁな、とりあえず女性陣は帰させてもらうぞ?ノエル、マーチ達を連れて城に戻ってくれ」
「しかし!!」
「大丈夫だ。頼むぞ」
「……わかりました。お姉ちゃん、ミーシャさん、ネージュさん行きますよ?」
『範囲ワープ!!』
ノエルが魔法を唱えると女性陣はスッと消えていく。
『な!!何故ワープができるのだ?』
「お前の結界は壊させてもらったからな。今度はこっちの番だぞ?」
『まぁいい!!結界などまた張ればいいだけだしな!!まずは貴様らをいただくとしよう!!』
カマイタチは前足を低く構え戦闘体制をとる。
『召喚!!』
そのタイミングで俺はドリー達神獣を召喚する。
ケインもケイローンを召喚している。
『クロートよ今度は何用だ?』
「おまちかねの戦闘だよ」
『なんだと?それは本当か?』
ドリーは目を輝かせている。
『神獣か……面倒な……』
カマイタチがドリー達を睨む。
『こいつが敵だな?』
「ああ、霊獣カマイタチだ。久しぶりに思いっきり戦えるぞ?」
『霊獣か……邪竜四天王の眷属か……』
「ん?邪竜四天王?なにそれ?」
『クロート様?それは後でいいのではないですか?』
リコルが静かに怒っている。
「あ……ああ……そうだな。まずはこいつを倒さないと、いくぞ!!」
『ああ!!』
ドリーが大剣を振り下ろす。
『くぅ!!』
『轟風雷神斬!!』
カマイタチは寸前のところでその大剣を躱すとそのまま攻撃を放つ。
『天罰の神雷剣!!』
『烈風角斬!!』
ドリーはカマイタチの放った雷を剣に纏わせると大剣を振り下ろす。
リコルも烈風を角で受け止めるとそのままカマイタチ目掛け突進していく。
『なんだと!!』
自分の放った技を逆手に取られたカマイタチは咄嗟に大きな翼でガードする。
大きな衝撃と共に爆風が巻き起こり辺りに砂塵が舞う。
『中々に硬い奴だ』
『ええ、まさか耐えられるとは』
その砂塵の中からドリーとリコルが姿を現す。
その先に翼の裂けたカマイタチがボロボロになりながらもなんとか立っていた。
『鳥と馬の攻撃など……』
『ふん!!霊獣の猫が何を言う』
『ね……猫だと?よくも侮辱してくれたな!!』
カマイタチは怒りに我を忘れ体を震わせている。
と、次の瞬間赤かった体がだんだん黒くなっていく。
『許さんぞ!!貴様ら!!』
カマイタチは体中の気を全て口元に集めると
『黒虎爆風!!』
虎の咆哮と共に口から風雷の一撃がドリーとリコルに向けて放たれる。
かなり大規模な攻撃で周辺の木々は吹き飛んでいき爆風が巻き起こる。
ドリーとリコルは防御するのが精一杯だ。
『天狐の絶対結界!!』
妲己が俺達の周りを結界で防御する。
「妲己ありがとう。助かったよ」
『このくらいの攻撃でしたら妾の防御結界で守れますわ?』
しかし、ドリーとリコルには結界は間に合わなかったようだ。
2人ともダメージを喰らっている。
「ドリー、リコル大丈夫か?」
『なんとかな……だが神力が少なくなってきているからもう大技は使えんかもしれん』
「そうか……ケイローン何かないか?」
『クロート様、ここは神獣達とここにいる戦士達でひとつになりましょう』
「???どういう事???」
俺はケイローンの提案が理解出来ないでいた。
『あれをやるのでありんすか?』
『ええ、ドリーとリコルの神力は残り少ない……しかし、カマイタチも今の攻防でかなり消耗している様子、であるならば一気にカタをつけるのが得策かと』
ケイローンはドリーとリコルの側まで行くと
『聖なる癒しの光!!』
ドリーとリコルの体を暖かい光が包む。
『すまんケイローン……』
『傷付いた体であれをやるのは厳しいでしょう?しかし傷は癒しましたが神力は無理ですよ?』
『ああ、わかっている』
「なぁさっきから言ってるあれって?」
『その前に確認したい事がございます。クロート様、そちらにいらっしゃる方々の得意な戦闘スタイルは何ですか?』
「ケインとカイザーがタンクだな、ロイは前衛で剣術だ。俺は……」
『クロート様は大丈夫でございます。ではケインとカイザーは前で大楯を構えてください。ロイはクロート様の前にドリーとリコルと妲己も配置に……』
ケイローンがそこまで言うと俺の背後に気配がした。
「よー!!クロート!!俺達も仲間に入れてくれよ!!」
振り返るとそこにはグラキエースとハティが立っていた。
「グラキエース?」
『クロート様、こちらの方々は?』
「ああ、ファフニールのグラキエースと神獣ハティだ」
『ファフニール!!ドラゴン様ですか!!それに……ハティ?』
ケイローンに睨まれたハティはバツが悪そうに下を向く。
「よ……よう……ケイローンに妲己……久しぶりだな……」
『貴様!!』
『お主!!』
ケイローンと妲己が大声を上げる。
「今はそれどころじゃないだろ?というかハティは俺の仲間だ。問題ない」
『そうですか……クロート様がそう仰るのであれば』
「それよりカマイタチが何か仕掛けてくるみたいだけど?」
俺の言葉に全員がカマイタチの方を見る。
『貴様ら!!この俺様を無視しやがって!!絶対に許さん!!この攻撃は結界でも防げんぞ!!死ね!!』
『魔虎爆裂破!!!!』
カマイタチは黒くなった体に闇の力を込め、周囲に重力の波を放射する大技を放つ。
「ぐっ!!」
「ぬぅ!!」
俺達は重力に押し潰されそうになりながら必死に耐える。
「俺に任せろ!!フォルムチェンジ!!」
グラキエースは青いドラゴンの姿になるとカマイタチ目掛け口から波動を放つ。
『ぐぁ〜〜〜〜!!!!』
流石のカマイタチもこれには耐えられなく、泡となって消えていく。
『ん?脆い奴だな?』
「いや………だいぶ弱ってたし……というかドラゴンの咆哮で一撃って……」
「ま……まぁ……これで無事解決ですね」
ロイも呆れている。
と、山が消えて俺達は草原に立っていた。
『そ……それでは私達はこれで……』
ケイローン達も気まずくなったのか、そそくさと指輪に戻っていった。
「まぁ一件落着だな」
「ですね、私達も戻りましょう」
ケインは戦利品を拾うと城に向かって歩き出す。
「そういえば君達知らない間に恋愛してたんだね?」
俺はニヤニヤしながらケイン、ロイ、カイザーを順番に見る。
「そ……そのような事は……今はいいではないですか!!」
ケインが顔を真っ赤にしながら歩く速度を上げると、カイザーとロイもそれに続き逃げるように俺から離れていく。
「ふ〜ん」
俺は3人を後ろから見ながらゆっくり歩くのだった。