131話 一件落着
俺達の前にスパイを拘束したチャコとゼキルが到着した。
スパイ達はもう抵抗する気もないみたいだ。
「リブ様、任務は無事完了しました」
「ああ、ありがとう。それで?お前達は誰の配下なんだ?」
俺がスパイ達に声をかけるとゆっくり顔を上げる。
「俺達は南にある王城の女王クイーン様の配下だ」
女王で名前がクイーンって……
ん?クイーン?
「なぁケイン?クイーンってあのクイーンかな?」
「恐らくそうだと思います」
だよな?
「お前達の本当の主人はクイーン・デルタで合ってるか?」
「な!!なぜクイーン様の名前を!!」
「間違いないみたいだな」
スパイ達は俺からクイーンの名前を聞くと驚いた顔をする。
「なんでって……俺はそのクイーンに勝ってこの国の王になったんだから知っていても不思議じゃないだろ?」
「な!!まさか……」
「まさかって言われてもな〜ボルドだっけ?あのデカいおっさん」
「はい、彼は中々の強者でしたね」
「ボルド様をデカいおっさん呼ばわりとは!!」
スパイの1人が興奮して立ち上がろうとする。
が、すぐにゼキルに地面に叩きつけられる。
「そうか……クイーンと直接戦った訳じゃないから彼女の王候補としての資格は残ったままだったって事か……っでこの大陸の南にある王城を占領して王になったって事だな?」
俺はゼキルとスパイのやりとりを無視して考察を始める。
「そういう事だと思います。彼女達はこの国を出て力をつけると言っていましたからそのまま南に下り王城を占拠したのだと」
「それで、他の国にスパイを送ってこちらの動向を伺っていたと」
「はい、それで間違いないかと」
俺とケインが話そんなをしていると
「それは少し違うな……」
チャコとゼキルの背後から突然男が現れる。
「何者!!」
チャコとゼキルが咄嗟に戦闘態勢を取る。
「そう警戒しなくて大丈夫だ……今はお前達と争う気はない……そいつらを返してもらいに来ただけなんでな……」
青白い顔をした薄気味悪い男が、こちらに聞こえるかどうか程の声で話かけてくる。
「うーん、気配を経ってここに来たその実力は認めるけど……突然スパイを返せと言われて、はいそうですかと返せないんだよな〜」
「なぜだ……こいつらを尋問しても何も出て来ないぞ……こいつらはそこのハンゾーをこちらの陣営に引き込めるかどうかを偵察していただけだからな……それに……こいつらには重要な情報は何ひとつ与えていない……」
「最初から捨て駒だったって訳か。まぁその辺は予想通りだったんだが」
「ほう……そこまでわかっていながらなぜ尋問を……」
「それは……お前が出て来るのも予想してたからだな」
俺がそう言うと男は辺りを見回し始める。
「なるほどな……さすがはボルド様達に勝った男だ……今回は俺の負けだ……だがそいつらはそちらに渡す訳にはいかないのでな……」
男はそう言うとふっと消える。
次の瞬間、スパイ達の首から血が飛び散る。
「こいつらの後始末が俺の今回の任務だ……ではまた会おう……」
そう言うと白い霧が立ち込めると男は姿を消すのだった。
「なっ!!」
まさか自分の配下を躊躇いもなく斬るとは思いもしなかった。
流石の俺でもこうなったらどうする事も出来ない。
ノエルのスキルでも死者を蘇らせる事は不可能だ。
残念だが、彼等を生き返らせる術はない……
戦争でも死者は出ていたが、モンスターのように消える訳ではなく終戦後に埋葬していた。
せめて彼等も埋葬してやろう……
「想定外の結末だったが、なんとなく事情はつかめたな……さて、ハンゾー達の役割だが、御庭番衆は全員、俺の直属の諜報部隊として活動してもらう。まずは現在持っている情報を開示して欲しいから一度城に戻ろう」
俺がそう言うと御庭番衆全員の体が光りだし、忍装束の様な服装に変わる。
遠くで見守っていた紅玉達も同様に変化している。
「ハンゾーさん、全員を連れて王城にお越しください」
隣にいたケインが後ろに立つハンゾーにそう告げるとハンゾーとガルフォードは軽く頷き紅玉達の元に向かって行く。
「さて、それじゃ俺達も帰ろうか」
俺達はノエルの範囲ワープで一足先に城に戻るのだった。
城に帰ると、玄関でセバスチャンとアイーナ達が出迎えてくれている。
いつもの光景だ。
「リブ様、今夜も宴会ですね?」
アイーナが嬉しそうにしているのだが、祭りが終わってそんなに経っていないのにまた宴会か……
「任せるよ……」
もう何を言っても意味がないので適当にあしらって風呂場に向かう。
ケイン達と湯船でのんびりしていると、脱衣所からセバスチャンの声がする。
「リブ様、お客様が到着されました」
「セバスチャンありがとう。とりあえず全員風呂に入ってもらってくれ。日本人が多いみたいだから説明はいらないはずだから」
「かしこまりました。ではこちらに案内させて頂きます」
セバスチャンにここに連れて来るように言い湯船でのんびりしていると、脱衣所の方からいつもの反応が聞こえてくる。
「あの反応にも慣れたな……」
「そうですね……」
「まぁあれが普通の反応だけどな……俺もかなり驚いたから……」
ゼキルが顔に乗せていたタオルを取ると、湯船を出てサウナに向かいながら捨て台詞のように呟く。
「だって日本人なら風呂とトイレは必須だろ?」
「まぁそうだな……ここが異世界じゃなかったらな……」
俺は後ろからゼキルの言葉に反応すると、ゼキルから更に追い打ちをかける言葉をもらう。
「まぁ……いいじゃないですか……」
ケインがお猪口をクイっとさせながら宥める。
そんなやりとりをしていると、ハンゾー達が入ってきた。
「リブ様!!ここは銭湯ですか?」
「まぁ……そんな感じだ」
「素晴らしいです!!サウナまであるなんて!!」
ハンゾー達はキョロキョロしながら珍しそうに見ている。
日本出身の四天王と配下の男達はとても嬉しそうだ。
「これからは好きな時に自由に入っていいから。ただし仕事はきっちりやってくれよ?」
「はい!!もちろんです!!こんな素晴らしい城に仕えることが出来るなんて幸せです!!」
何故か1番嬉しそうなのは小太郎だ。
「お前な〜流石に調子良すぎだろ?戦争の時……」
俺がそこまで言いかけると
「あの時は本当に申し訳ございませんでした!!」
と御庭番衆全員が急に緊張した様子で片膝をつき頭を下げる。
「ふ〜〜全裸でやる事じゃないよ?風呂は心身共にリラックスする場所だろ?そう言うのは服を着て公式の場でやろうぜ?」
俺はそう言うとケインの前に浮かんでいる酒をお猪口に注ぐとクイっと飲み干す。
それを見た小太郎達は、緊張から解き放たれ風呂を堪能するのだった。
「さて……俺達は先に出るけど、久しぶりの風呂だろうし気にせずゆっくり入ってくれ」
そう言うと俺達は風呂から出て大広間に向かう。
大広間にはすでに宴会の準備がされていた。
「今日はビュッフェスタイルなのか?」
「はい、日本?以外の方もいらっしゃるとの事でしたのでマーチ様に相談したところその方がいいと言われまして……」
「それを言ったらセシル達もそうなんだけどね?」
「はい、ですので今回はセシル様達にも意見を聞いております!!」
アイーナの宴会にかける気合いは毎回すごい……
と言うか……最近ではマーチ以上に宴会好きになってないか?
などと思っているとハンゾー達が風呂から出てきた。
タイミングを同じくして、玄関の方からメンバー達も合流して来る。
「リブ様、無事完了したみたいでんな?」
「ああ、こっちは予定通りだ。それで?サリーの方はどうだ?」
「全然あきまへんわ……『ガワ』は出来たんやけど……肝心の武器を持つ指の動きや、足廻りが上手くできへんのですわ……」
サリーが手がける機動戦士の開発が最近スランプだと報告を受けていた。
一時期は調子良く進んでいたのだが、やはりイメージだけで作ると細かい部分に支障が出て来るらしい。
「魔導兵器は乗って移動するだけやったんで簡単に再現出来たんやけど……乗って操作するってなると難しいですわ……」
「そうか……まぁ最悪魔導兵器のデカい版みたいな扱いでもいいけどな」
「ほんまにそうなりそうでっせ?」
「気長にやってくれ!!とりあえず風呂にでも入ってゆっくりしてきてくれ」
「そうさせてもらいますわ……」
サリーは疲れた顔で風呂に向かって行く。
他のメンバー達もケインやマーチに報告をすると風呂場に向かって行くのだった。
「あの……」
そこに場違いのような気になったハンゾー達が恐る恐る声をかけてくる。
「ああ、気にしないでその辺でくつろいでいてくれ。全員揃ったら宴会が始まるから」
「いや……そうではなく……我々は先程まで敵対していて……みなさんからしたら誰?って感じなのですが……」
「ん?それは気にしなくていいんじゃないか?いつもの事だし」
「は?」
「ふふふ……困惑するお気持ちはわかります……でもmatはそうやって大きくなってきたのですわ?ですので本当にお気になさらず。みなさんはこちらにどうぞ」
マーチがハンゾー達の隣にきて説明しながら座る場所まで連れて行く。
俺はそれを見届けると、大広間を出て階段を上がりいつものようにハンゾー達の部屋作りを始めるのだった。