129話 ハンゾーという男
祭りが行われる数日前……
イグニアス王国の南方に純日本家屋の城が建っていた。
その城の城主の名前はハンゾー・ブラン。
出身は日本……ではなく、アメリカだ。
幼い頃からニンジャに憧れ、こちらに来た時に『忍』として生きる事にしたその男が城主をしている。
そして、日本から来たという同じ志を持つ同士が徐々に集まり『隠密衆』を結成した。
そこまでは良かったのだが、アサシンのような暗殺者まで集まって来てしまい、『隠密衆』は武闘派になってしまった。
ハンゾーのイメージでは、王の影となり間者のような仕事をするはずだったのだが、まさかの自分自身が王になる素質だった。
「はぁ〜……何でこうなったのかな?」
ハンゾーは大きなため息を吐く。
そんな時、自分の住む土地が、突然リブという王に占領された。
ハンゾーはチャンスだと思った。
リブという王に仕える事が出来れば、夢だった間者の仕事が出来るかもしれない。
しかし、その意思に反して、暗殺者達がリブを殺す計画を立て始める。
その計画と言動にハンゾーは違和感を覚えた。
いくらアサシンとはいえ、厳重に守られた王を暗殺するなど不可能だと思っていたからだ。
しかし、数人のアサシンが勝手に行動を始めた。
王城で祭りがあるというのだ。
その騒ぎに乗じて、リブという王を殺すという計画だった。
「ガルフ、すまないが彼らの行動を監視して欲しい」
ガルフと呼ばれた男はハンゾーの言葉に無言で頷くとスッと消える。
このガルフはアメリカ時代のハンゾーの友でこちらではガルフォードと名乗っているニンジャだ。
ハンゾーが唯一心を許した、右腕とも呼べる最高幹部だ。
『隠密衆』はハンゾーが頭領で、配下筆頭にガルフォード、その下に紅玉、小太郎、ハヤテ、霞という四天王と呼ばれる幹部がいた。
ハンゾーと幹部の5人で『隠密衆』を作ったのだ。
そこに、噂を聞きつけたニンジャ仲間が集まって今の形になった。
しかし、アサシン達は違う。
ハンゾー達が攻めた城の配下で、城主を裏切り暗殺してこちらに入って来たのだ。
不審に感じたハンゾーは、ハヤテに命じてその者達を徹底的に調べた。
結果は大陸の最果てにある国の王の手下だった。
そう、スパイだったのだ。
彼らは実力がありそうな王候補の城にスパイとして配下に加わり、情報を集めて本来の城主に送っていたのだ。
そのアサシン達がリブという王を殺そうとしているのだ。
それは、自分のためではなく、本来の城主に危害が及ばないようにである。
確かにリブがこのまま勢力を拡大していけば、いずれ最果ての国の王と戦争になるのは時間の問題だ。
そうなる前に排除するのが彼らの本来の目的だ。
しかし、ハンゾーはリブの配下になりたいと考えている。
その考えにガルフォードは賛成なのだが、四天王は納得していない。
四天王をはじめとした『隠密衆』はハンゾーが王になる事を願っているのだ。
そして祭り当日、案の定アサシン達は暗殺に失敗して帰って来た。
それどころか、リブからお金を渡され祭りを楽しんで来たようだ。
「奴らは一体何をしているのだ?」
紅玉は怒りを抑えきれないでいた。
「ハンゾー様!!奴らを捕縛し、地下牢に入れておくべきかと!!それでなければ他のメンバーに示しがつきません!!」
紅玉がハンゾーに強く意見する。
「紅玉よ、この私を無視してハンゾー様に直に意見するなど……何様のつもりだ?」
ガルフォードが紅玉を睨みつける。
「ガルフォード様、申し訳ございませんでした……しかしながら、勝手に暗殺しに行き、失敗して戻っただけならまだしも、遊んで帰って来るなど……」
「紅玉よ、恐らくリブという王には彼らの素性はバレただろうな。とすれば私達は王に逆らった逆賊という事になるのだが?」
ガルフォードがハンゾーの前に立ちそう答える。
「はっ!!ハンゾー様の威光をリブという王に見せつけてあげましょう!!」
「しかし、ハンゾーはリブという王に仕えると言っているのだぞ?」
「それに関しては我々四天王は反対でございます!!ハンゾー様であればリブなどというたまたま王になっただけの男など!!」
「ならば紅玉よ、王城に行き王の配下を暗殺して来てくれ」
「はっ!!必ずや成功させてみせます!!」
紅玉はそう言うとスッと消える。
「ハンゾー?いいのか?そんな事をすればここも無事では済まないぞ?」
「仕方あるまい……戦わなければ四天王達をはじめとした隠密衆全員が納得はしないだろう。それよりも防衛の準備を万全にしておいてくれ」
「ああ、わかっている。それと、ここには一般の住民はいないから街の防衛はしないぞ?」
「それでいい」
この城には街はない。
そこにあるのは街に似せて作った隠密衆の住居だ。
すなわち、住民は全て隠密衆なのだ。
なので、都市シールドは使えない。
「それで?これからどうするつもりだ?」
「それはわからない。紅玉次第だな。本当に王の配下を倒したのなら全面戦争になるだろうな……」
「そうならないという自信があって紅玉を送り出したのではないか?」
「さぁな?こればかりは運だろう」
そう言うとハンゾーは天を仰ぐ。
「まぁ、俺は俺のやれることをやっておくよ」
ガルフォードは部屋を出て行く。
「本当に……なんでこうなったのかなぁ……」
ハンゾーは深くため息を吐くとゆっくりと立ち上がるのだった。