127話 双方の思惑
紅玉は自分から名乗った事に驚いている。
どんな拷問にも、最悪殺されても何も話さない自信はあった。
というか、それが『忍』である自分の務めでもあると感じているのだ。
だが、まさか何もされていない状況、更に目の前にいる王は仲間を殺そうとした自分に、全く興味を示さないのである。
流石にこんな経験のない紅玉からしたら何が正解なのかわからない。
(この王は一体なんなのだ?思わず名乗ってしまったではないか……)
紅玉は頭の中をフル回転させて今後の展開を予想する。
「ふーん、紅玉って言うんだ。やっぱり日本人なんだね?」
「ええ……そうよ?それがどうしたの?」
「ん?いや?この大陸には日本人が多いなと思って」
「あなた何も知らないのね?」
「何の事だ?」
「別に?」
紅玉は何か知っていそうだ。
だが俺は、今は敢えて深く聞かない。
そう、これは半蔵という王候補と俺との『戦争』なのだ。
先日、クリオから報告を受けた時からケインと色々話あった結果、向こうの意図が少し見えて来ていた。
だからこそ、この紅玉という女性の行動もある程度は想定の範囲内だった。
「まぁいいや、それに関しては今後ゆっくりと」
「はっ?今後って何?」
「それは知る必要はないな。紅玉を解放してやってくれ」
俺はそう言うとネージュに縄をほどかせる。
「え?いいの?また襲うわよ?」
「ああ、それは好きにすればいい。まぁ負けるつもりもないけどな」
こうして、解放された紅玉は城を出ると半蔵の元に戻って行く。
俺は、謁見の間にいる幹部達と話し合いを始める。
「さて、想定より早く動き出した訳だけど、こっちとしてはもう少し準備を進めてから攻めようと思うんだけど……クリオ、向こうの様子はどうだった?」
「はい、半蔵の城はほとんど準備が終わっています。それと、街の住民達を盾に使うようです。酒場の店主と街の代表がシールドは使わないと言っていました」
「やはりな……」
「すみません、今の状況も含めて、私にはさっぱりなのですがどう言う事なのでしょう?」
「ん?ああ、半蔵は王候補で隠密衆の頭領だろ?」
「はい、そうですね」
「だから、簡単に俺の配下にはなれないんだよ」
「はい?」
「一度も勝負もしないうちに負けを認めたら半蔵の配下はついてこないって事さ」
「はぁ……ですが何故攻めるのではなく守るのですか?」
「王城に攻めるなんて暴挙を犯した人間を配下にすると思うか?」
「いえ、国中から批判されてイグニアスにはいれないと思います」
「そう、だからこそ今回の行動は、半蔵からしたら苦肉の策なのさ」
「はぁ……」
「クリオさん、リブ様が半蔵の城を攻めるとしたら、その理由はなんだと思いますか?」
「何かリブ様の怒りに触れる?あっ!!」
「そういう事です」
「なるほどですね。しかし、今回紅玉さんが失敗したのですよね?どうなるのですか?」
「そうだな、俺も大々的に攻める訳にはいかないからな。数人連れて城を燃やそうと思ってる」
「数人とは?」
「ケイン、ノエル、カイザー、チャコ、ゼキルかな?ネージュも必要かも?」
「近接攻撃のメンバーですか?なら私も」
「いや、クリオとマガストールには別の仕事を頼みたい。防衛はマーチに指揮を取らせる」
俺は攻撃部隊と防衛部隊を分けるとそれぞれに指示を出す。
「決行は3日後、フェルノ達もいるからこっちは大丈夫だと思うが、攻撃部隊は油断しないように」
こうして、半蔵達『隠密衆』との戦争が始まるのだった。
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一方、半蔵の城では着々と準備が進んでいた。
そこに、作戦の先鋒である紅玉が帰ってきた。
「半蔵様……申し訳ありません……作戦に失敗しました……かくなる上は……」
「そうであろうな……そうでなくては面白くない。それで?リブという王はどんな人だったのだ?」
「はっ!!それが……」
「どうした?」
「全くわからないのです……私を捕らえたのに拷問も処刑もしませんでした。それどころかこちらの情報すら聞き出そうともしませんでした……私には興味も示さず……そのまま釈放されました……」
「ふむ……それで?向こうの戦力をどう見た?」
「私が戦ったクリオという者はそこまで強くはありませんでした。しかし、私を捕らえた者達はそれなりの強者かと!!」
「ほう。王はどの程度だと思う?」
「申し訳ありません。私にはわかりませんでした……」
「わからない……とは?」
「はっ!!覇気も感じさせませんでしたし、威圧するわけでもなく……」
「しかし、紅玉は捕らえられ王をその目で見て来たのであろう?」
「はい……ですが……」
「その強さを測れなかったと?」
紅玉は適切な言葉を探す。
しかし、あのふざけた王を比喩する言葉が出てこない。
「1つだけ申し上げますと……私は相手にされていない……という事だけです」
「なるほどな……そういう事か……それならば、早くて3日後か?」
「半蔵様?どう言う事なのでしょうか?3日後に何が?」
「王はこちらの狙いを知っている……という事だ。そして今回の紅玉を送り込んだのは私の失敗だったという事だ……すまん。しかし……中々に面白い王のようだな」
「な!!何故半蔵様の失敗なのですか?私の力不足で!!」
「そういう事ではない。そもそも紅玉に王城に行ってもらう必要がなかったという事だ。今回は私の負けだな」
半蔵の言葉に紅玉は、ますます混乱する。
しかし、半蔵とリブという王は、既に戦っているのだという事はわかった。
そう思った紅玉は、自分の入れる隙はないと感じそれ以上何も言えなかった。
「それでは、私はこれで」
「ご苦労様でした。ゆっくり休んでください」
そう言うと紅玉は半蔵の前から消える。
「リブさん……ですか……相手にとって不足なしですね」
半蔵は不敵な笑みを浮かべると、ゆっくり目を閉じる。
「半蔵様、お呼びですか?」
そこに1人の男が入ってくる。
「ああ、決戦は3日後だ。皆にそう伝えてくれ」
「3日後ですか?」
「ああ、間違いない」
「わかりました。ではそのように」
男はふっと消えるとそこにまた静寂が訪れるのだった。
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王城の大広間に攻撃部隊の6人が集まっていた。
「なぁ、リブさんは何を考えているんだ?」
ゼキルがケインに尋ねる。
「それではお話をさせて頂きます。その前に、戦争は起こりません」
「はっ?だって半蔵とか言う奴の城を攻撃するんだろう?」
「はい」
「どういう事だ?」
ゼキルが頭を捻る。
「誤解なきよう。戦争は起こりませんが、戦闘は行います」
「と言うと?」
「こちらが一方的に蹂躙するという事です」
「おっ?面白そうだな」
「ケインさん、それにしては戦力が少ない気がするんですけど?」
「チャコさん、それに関してはリブ様からお話があると思います」
「わかりました。それで、そのリブ様はどちらに?」
「今はマガストールさんとクリオさんに特別任務を伝えに行っておりますので、もうしばらくしましたらお見えになるかと」
「それが気になってたんですよね〜あの2人に何をさせるんですか?長の私にも教えてくれないんですけど?」
「チャコさんには申し訳ないのですが、味方にも内密にとの事ですので」
「そうですね、どこから漏れるかわからないですからね……」
「理解して頂きありがとうございます」
「しかし、リブ様は我々だけでどのように蹂躙するおつもりなのでしょう?」
「そうですね。近接攻撃しかできないメンバーみたいですが?」
カイザーとネージュがケインを見る。
「一応私は後衛なのですが?」
ノエルが笑っている。
「みなさんの心配はわかりますが、そもそもこれはリブ様と半蔵の知恵比べなのです」
「はっ?」
「どちらが優れた支配者なのかという話です」
「なるほどな、だから戦争は起こらないって事か」
「え?どういう事ですか?」
「チャコさん……簡単に言えばどちらの配下が上かって事だよ?」
「へ〜!!あっ!!だからこのメンバーなのか!!」
「そういう事です」
他のメンバーも何となく意味がわかって来たみたいだ。
「アイーナさんお茶のおかわりをお願いしても?」
「はい、喜んで」
アイーナがゼキルにお茶のおかわりを注ぐと、そこにリブが入ってくるのだった。