125話 過去の問題は現代で解決
ケイン達がアルベレスと数人のエルフを連れて王城に戻って来た。
「リブ様、エルフェイムのアルベレス様をお連れしました」
俺は謁見の間の椅子に座りケインの後ろから入って来た女性を見る。
細身で金髪の長い髪が綺麗だ。
「ご苦労様、それで?ケインの後ろの人達は何故土下座をしているの?」
俺に言われてケインが後ろを振り返るとエルフ達が正座をして床に頭をつけていた。
「アルベレス様、顔をお上げ下さい。仮にもエルフの女王なのですから……」
ケインがアルベレスに近寄ると、アルベレスの肩に手を置きながら小声でそっと囁く。
「ケイン様……それは無理というものじゃ……目の前にクロート様がいらっしゃるのだぞ?我々には数100年分の罪があるのだ……まともに顔など見れる訳がなかろう……」
「しかし……今のリブ様にはその記憶がないのですよ?」
「それでもじゃ……妾達はクロート様に詫びなければならんのじゃ……」
アルベレスは床に深く頭を付けたまま、全く顔を上げようとはしない。
「まぁいいよケイン、そちらにも事情があるんだろ?」
俺がケインを下げると、アルベレスに問いかける。
「アルベレスさんと言ったかな?エルフ族って事でいいのかな?」
「はっ!!左様でございます!!我々エルフ族はこの数100年間クロート様に懺悔を捧げ続けて参りました。こうしてお目にかかる事さえおこがましい事ではありますが、何卒我々をお許し頂きたく、恥を覚悟で御身の前に馳せ参じました」
なんか言葉がめちゃくちゃだな……
緊張……というより恐れ?って感じだな。
「なぁ俺ってそんなに怖いか?」
「いえ……滅相もございません。恐怖など……」
「ふーん、じゃああなた達は何をそんなに怯えているんだ?」
「我々はクロート様を裏切ってしまった種族でございますれば……どの顔を下げてお会いすればいいのかわかりませぬ……」
「裏切った?俺を?というか数100年前のクロート家をって事?」
「はっ!!」
うーん記憶のない俺にはよくわからないな……
ドリー達を呼ぶか。
俺は、ドリーとリコル、そしてハティを呼び出す。
まぁハティの場合人化してフェルノのところにいるので本当に呼んだだけなのだが。
『クロート、今日はどうしたのだ?』
「ドリー悪いね、この人達が数100年前に俺を裏切ったって言うんだけど……どういう事?」
『何!!貴様ら!!よくもここに顔を出せたな!!』
ドリーがアルベレスを見ると同時に怒り出す。
『本当ね……恥を知りなさい!!』
珍しくリコルまで怒っていた。
「まぁまぁ2人とも落ち着いて」
俺がそこまで言うと謁見の間の扉が開く。
「クロートよ!!数100年前の裏切り者が来たと聞いたが?処刑するなら我が一瞬でやってやるぞ?」
そこには少し困った顔のハティと怒り狂ったグラキエースが立っていた。
「グラキエースもかよ……とりあえず処刑はしないよ?はなしを聞きたいからね」
「ふん!!相変わらずお人好しな奴だ!!」
怒り狂ったグラキエースがギロッととアルベレス達を睨みながら俺の隣にくる。
その後ろから申し訳なさそうにハティが続く。
「さて、当時を知るメンバーが揃った訳だが、俺としては記憶がないんでね、双方の話を聞いて精査しようと思う」
『この者達の話など聞く必要などないわ!!』
ドリーの怒りは全く収まらない。
俺は、そんなドリーを諌めるとお互いの話を聞く。
話を聞き終わった後、俺なりに結論を出してみる。
お互いの意見には少し違和感があったがそれは後にしよう。
「お互いの話はわかった。結果から言うとアルベレスさん達は裏切り者ではないと思う」
『何故だ?』
「その為にアルベレスさんにいくつか聞きたいけどいいかな?」
「クロート様、我々のような者に敬称など不要でございますれば呼び捨てで構いませぬ。それに、クロート様の質問に答えないなどあり得ませぬ故、なんなりとお聞き下さいませ」
「うん、じゃあまず、門外不出の魔法陣はどうやって封印されていたの?」
「はっ!!当時の族長の家の地下に誰も開けれぬよう魔法陣を組み厳重に保管してありました」
「その魔法陣の存在を知っていた人は?」
「族長と十老頭と呼ばれるメンバーだけでございます。それ以外の者は存在さえ知りません」
「それで?事件の後その魔法陣はどうなっていたの?」
「と……申されますと?」
「いや、本当にそこから運び出された物だったのかって事」
「え?いや……あの魔法陣はひとつしか存在していませんので……」
「確認してないって事だね?」
「申し訳ございません!!」
「別にいいよ、次に当時のケインは俺と一緒にいなかったんだよね?」
『それなら、常に隣にいた護衛があの時だけ一緒にいなかったのを不思議に思ったからよく覚えているぞ?あの者はクロートに同行していなかった』
「って事はやっぱりそうなるよね?」
俺はケインの方を見る。
「はい、恐らくは」
「クロートよどういう事だ?」
「それはまた後で言うよ。最後にシルバー家が魔法陣を使った時に俺は笑っていたんだよね?」
「はい、我々を怒るでもなく、憎むでもなくいつもの優しい笑顔で我々を見ておられました……」
うん、これでほぼ確定だな。
しかし、それを上回る出来事が起こってしまったと言う事か……
「そろそろ結論を言うのだクロートよ!!」
グラキエースがイライラしている。
「ああ、すまんすまん。じゃあ結論を言うよ?」
俺がそう言うと全員が興味深そうに見て来る。
「さっきも言ったけど、エルフ達は裏切り者じゃない。シルバー家がエルフ族を犯人に仕立て上げて自分達の責任逃れに使おうとしたんだろう。その証拠に封印されていた魔法陣は多分そのまま今でも封印されているはずだ。恐らく時空転移を使ったのはシルバー家ではない」
「どういう事だ?」
「聖龍だよ」
「な!!だが……うむ……確かに奴ならそれも可能だな……」
「ああ、シルバー家は俺達を完全に消すつもりだったはずだ。歴史からもね……」
「だが、何故そう思うのだ?」
「それは当時の俺とケインがシルバー家の裏切りを知っていたからだよ」
『なんだと?』
「まず当時のケインが俺の隣にいなかったという事がおかしい。護衛騎士だったのなら尚更、そんな事は絶対にあり得ない。にも関わらず俺と同行しないでどこからか現れたって事は先回りしてシルバー家の策略を潰す作戦だったはずだ」
「なるほどな、それなら辻褄が合う」
「ああ、だけど魔法結界までは読めなかったのだろう。それに慌てた当時のケインが俺を守ろうと駆けつけた。そのタイミングで俺達を守る為に聖龍が時空転移の魔法を使ったのだろう。と……これが俺の見解だ」
『なるほどな……クロートを殺させないように時空転移を使ったと言う事か』
「ああ、だがそれによって聖龍も力を使い果たして眠りについたって事だな。それで、復活させる神力が回復した時に俺達は日本に転生していて、誰が俺なのかわからないからまとめて全員呼び戻したってところかな?」
「それなら、私達がこちらの世界に来てから聞いた話とも全て合致しますね」
「だから、そもそもエルフ族には罪がない。罪のない者を処刑なんて出来ないだろ?アルベレス達も俺に対して謝罪なんてする必要も、それを許す必要もないんだ。だからこれからはいわれのない罪に苛まれる事もないし、誰かに責められる理由もないって事だ」
俺の言葉にアルベレス達は涙を流す。
『そうか……では俺達は無実のエルフ族を恨んでいたという事か……すまなかったな……』
『ええ、こちらから謝罪を申し上げます』
「エルフ族よすまなかったな……これからは昔のように仲間としてクロートを盛り上げてくれ」
「みなさん……ありがとうございます……クロート様……いえリブ様本当にありがとうございます……」
神獣やグラキエースと和解出来て本当に良かった。
って?あれ?ひとつ気になる事が。
「なぁ、そういえばハティって何をやらかしたんだ?今の話だとハティの事が出てこないんだが?」
『そうだな……大事な事を忘れていた』
「このバカのしでかした事か?」
俺が聞くとドリーとグラキエースがハティの方を見る。
ここまで一切口を開かず気配を消していたハティが更に小さくなる。
『ついでだ、教えてやろう。こいつは魔法陣が展開される前にシルバー家に騙されてリブ達を船に足止めしたのだ。それがなければ俺達が魔法陣に囚われる事はなかったという訳だ』
「はっ?それって?」
「申し訳ございませんでした!!」
ハティが全力で謝って来る。
「しかもこのバカはこともあろうか、魔法使用不可の結界まで張りおってな。それでエルフ族もクロートも魔法が使えなくなったのだ」
「は?え?」
「まさか?ハティが?」
アルベレス達も驚いている。
「あの時はイキがっていたのです!!中々自分を認めてくれなかったので……シルバーの言うことを間に受けてしまい……」
「それどころか用済みになって封印されそうになったのをクロートに助けられる始末だ……」
「それはもう恩を感じております。ですから今は必死に仕事をしております」
「ああ、そうだな。俺は過去は知らないが今なら知っている。これからも期待しているぞ?」
謁見の間が爆笑に包まれる。
これにて数100年に及ぶ一連の事件は一件落着……
ではないな、シルバー家も復活しているはずだから、そいつに過去の記憶があるかないかが重要になって来そうだ。
もし、記憶があるなら前回以上の事を仕掛けて来るだろう。
とにかく、注意が必要だな。
こうしてエルフ族が仲間になるのだった。