123話 不穏な動き
機動テストを終えた俺達はゼキル達に魔導兵器を見せた後城に戻る事にした。
研究所を出ると、外は既に暗くなっており、時計の針が7時を指していた。
「おっと、もうこんな時間か?魔導兵器は明日にして、城に戻るか」
「そうですね、皆さん帰って来ているでしょうし、ゼキルさん達の紹介と部屋も決めないといけませんから」
「そうだな……あっ!!」
「リブ様どうされました?」
「紹介するって事は新しい配下にってだよね?」
「ええ、それはもちろんで……」
ケインも気がついたようだ。
そう……新しい仲間が増えるという事は……しかし、既に7時を過ぎている……という事は……
「マーチさん達の機嫌が悪くならなければいいのですが……」
「まぁ今日は忙しかったし、ゼキル達の事も突然だったからな……」
俺とケインの会話を聞きながらゼキル達は不思議そうな顔をしている。
「俺達何かしちゃいました?」
「ん?ああ……いや……うちの恒例行事というか……なんというか……」
俺の言葉に3人が更に困った顔をしている。
「3人は気にしなくていいよ?ただ、怖いお姉さんが俺にブチギレるだけだから……」
「それって大丈夫なのですか?」
シエルが不安そうにしている。
「今回はケインも一緒だから大丈夫だろう」
俺がなんの根拠もない返事を返すと
「私もですか?」
と今度はケインが困った顔をしている。
「まぁ、なるようになるだろ」
そう言いながら俺達は城に入ると、大広間に向かう。
そこには既にメンバーが揃っており俺達を待っていた。
「リブ様お疲れ様です。今日は遅かったですね?それでそちらの方々は?」
マーチが俺達に気がつくとゼキル達の方を見る。
「ああ、こちらはゼキル、羅刹、シエルと言ってね今日隣国からうちに亡命して来たんだ。それで話合いをした結果俺の配下になる事になったからみんなもよろしくな?」
「へ〜〜亡命……ね?それで……リブ様の配下になったのですわよね?」
「あ……ああ……本当にさっきな!!つい10分くらい前の話だよ?なぁケイン?」
「は……はい、そうです。間違いありません」
「ふ〜〜ん……ノエル?本当?」
「配下になったのは事実みたいですが、時間はどうでしょう?そこに若干嘘がありますね」
「リブ様?どういう事かしら?」
「ノ……ノエルの勘違いじゃないか?」
「ノエルのスキルに間違いがあると?」
「あら?私のスキルは完璧ですよ?」
「申し訳ありません!!機動戦士に夢中になって報告が遅れました!!」
「ふふふ……最初からそう言えば良かったのでわ?」
「すまない、今日はもうあれだから歓迎会は……」
俺がそこまでいうとアイーナが料理を運んでくる。
「リブ様大丈夫です。しっかり宴会の準備はしてありますので!!」
アイーナが宴会料理とお酒を並べている。
「え?なんで?」
「先程、ノエル様がお客様をお連れでしたのでそうなるだろうと思い準備をしておきました」
さすがはマットのメイド長のアイーナだ。
「あら?さすがはアイーナですわね?それでは先にお風呂にしましょうか」
マーチはそう言うとシエルの手を引くと風呂場に消えていく。
「アイーナありがとう。命拾いしたよ……」
「マットのメイドとして当然の事をしたまでです。リブ様達もお風呂にどうぞ?」
アイーナはニコッと笑うと炊事場に向かって行く。
「あ〜怖かった……今回はアイーナのファインプレーだな」
「ノエルさんのスキルを失念していました……」
「えっと……俺達にもわかるように説明を……」
「ああ、風呂でゆっくり教えるよ」
「その……まずここにはお風呂があるのですか?」
「羅刹はん、ここにはリブ様が作った大浴場があるんですわ」
俺とケインの後ろで気配を消して小さくなっていたサリーが得意気に説明し始める。
「サリー?お前な〜」
「まぁええやないですか、今回は呪われずにすんだのですから」
「それもそうだな、遅れると危険だからサクッと風呂に入るか」
そして男性陣も風呂に入ると、恒例の驚き攻めを受けながら風呂に入る。
「それで?あの女性は?」
湯船の中でゼキルが聞いてくる。
「ああ、あれはマーチと言って俺の参謀だよ。軍事参謀がケインで内政参謀があのマーチって訳。でもマーチは宴会とか祭りが大好きでね、イベントを忘れると怒り出すんだ……」
「参謀様でしたか」
「へ〜王様も大変なんだな?」
「いや、俺は王とかどうでもいいんだけどね?ただ、みんなが俺を慕ってここに居てくれるなら俺の出来る事をするだけなんだ。だから、王とか配下とか関係なくってここにいるメンバーも国民も等しく俺の家族なんだよ。俺はその家族の笑顔を守りたいんだ」
「前の城主に聞かせてやりたいな……」
「ああ、俺達はここに来れてラッキーだったな」
羅刹とゼキルは追放された事に感謝したい気分だった。
「きっと今頃シエルも一緒の事思ってるぞ?」
「間違いなくな」
そして、風呂から出ると恒例の歓迎会が始まる。
「さて、みんなに紹介しておく今日から俺達の仲間になったゼキル、羅刹、シエルだ。みんな仲良くしてあげて欲しい」
「3人はどこからいらしたのですか?」
「3人とも日本人だ。しかも今までいなかった職業だからこれから更に忙しくなるぞ?」
「新しい職業ですか?」
「ああ、ゼキルがアサシンで羅刹がサムライ、シエルはセージだ」
「セージ?と言う事は私の所ですわね」
「そ……そうなるのか……」
「当然ですわ?魔法剣士なのですから」
「魔法と言えば、チャコの方はどうだった?」
「はい、代表との接触は成功しました。是非マットに入りたいと言われてます」
「そうか、じゃあ明日ケインとノエルとチャコで話をつけて来てくれ」
「了解しました」
「さて、飲む前に他に報告がある人はいるかな?」
「リブ様、よろしいでしょうか?」
「クリオどうした?」
「はい、半蔵率いる『隠密衆』ですが、何やら不穏な動きがございます」
「不穏な動き……とは?」
「はい、どうやらこちらと一戦交える覚悟かと」
「攻めて来るって事か?」
「それが……攻めて来るというより籠城の準備と言った方がよろしいかと」
「籠城?なんでこっちが攻める事が前提なんだ?」
「それはわかりません……が、間違いなく戦争の準備はしておりました」
うーん、どういう事だろう?
というかあの5人が説得したんじゃなかったのか?
「クリオ、明日はあの5人の誰かと接触して意図を聞き出してくれるか?」
「それが……無理なのです」
「え?なんで?」
「私もそう思ってあの5人を探したのですが、どうやら地下牢に幽閉されているみたいで」
「幽閉?勝手に出歩いて俺達にバレたから?」
「それも違うみたいなのです……街の住民の話では、半蔵を説得する所まではやったようですが、その後急に幽閉されてしまったと」
「ふむ……まぁその内向こうから何か言って来るだろう。それまでうちは計画通りに進めよう」
「了解しました。注意して監視しておきます」
「頼む。他にはないかな?無いようだったら始めるぞ?」
「ええ、料理が冷めてしまいますわ?」
う……うん……マーチが待ちきれないみたいだ。
「それじゃあ、新しい仲間に……乾杯!!」
「「「「乾杯!!!!!」」」」
こうして今日も宴会が始まるのだった。