121話 追放と亡命
新生イグニアス王国の南側にある国に大きな城が建っていた。
まだ王が誕生してはいないが、この城の城主が王に1番近い人物であった。
そこに3人の男女が『サムライ軍』として軍団長を務めていた。
この城は色々な国の出身者が集まった多国籍軍なのだが、城主はアメリカ出身者だった。
3人はその城主に呼ばれて広間にいた。
そこには全ての軍団長と幹部が揃っていた。
「君達を呼んだのは他でもない。今日を持って『サムライ軍』は解散、君達にはここから出て行ってもらう事にした」
3人は突然突きつけられた現実に言葉を失う。
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
団長の男が城主に詰め寄る。
「理由は簡単だ。『サムライ軍』は超接近戦の歩兵軍だ。だが騎兵主体の戦場において『ヨーロッパ軍』の重装歩兵隊の方が結果を残している。それに弓隊にしても、最近開発に成功した『アメリカ軍』の銃器隊が台頭してくれば、君達には対抗出来ない。そうなれば戦力的に必要ないのだ、そもそも君達個人の能力もここにいるメンバーよりかなり劣るしな!!」
城主が大笑いしながら3人をけなす。
それに同調するかのように部屋にいる全員が笑い出す。
団長の男はその場で項垂れる。
そもそも、この城主の戦略がおかしいのであって、自分達が悪いわけではないと思っている。
海外の人によくあるサムライの認識が違うのだ。
能力に関しても適材適所で使ってくれれば決して他のメンバーにもヒケを取らない。
「しかし、兵士達まで追放する訳にはいかないので彼らには騎兵と重装歩兵に入ってもらう。部下達はそのまま残しておくので安心してくれ。そういう訳だから君達3人だけ追放する事になった。これは全軍団長と幹部全員一致の意見だから、意義は認めない。即刻この城から出ていくように」
3人は更に驚く。
まさか追放されるのが自分達だけだったのだ。
しかも、全員の意見だという。
仲間だと思っていた軍団長達にも裏切られたのだ。
「わかりました……それでは失礼します……」
3人は立ち上がると周りを見る。
横に立つ軍団長達の口元には笑みがこぼれていた。
どうやら自分達は嫌われていたようだ。
今回の追放は、恨みや妬みによるものなのかもしれない。
だが、それは今の3人にはわからない。
自分達の居場所を必死に守っていただけだったのに、最後にはこの仕打ちだ。
3人は、そのまま後ろを振り返ると広間から出ていく。
「まさか、追放とはな……」
「ええ、降格か他の部隊に編入くらいだと思ってましたけど」
「さて、これからどうしようか?」
特に荷物などない3人はそのまま城の外に出ると、何もない草原を見回す。
「この辺は俺達が燃やした城だらけだからどこも受け入れてくれないだろうしな」
「困ったわね……あの城主の評判のせいで街にも入れないですし……」
「何か情報でもあればいいんだけど、何も教えてもらってないしな……」
「とりあえず、ここにいても仕方ないから適当に歩いてみるか……」
「ねえ、そういえばこっちの方って行ったことないんじゃない?」
「そういえばそうだな、なんでこっち方面は攻めなかったんだろう?」
「何かあるのかな?」
そう言うと3人は歩き始める。
この世界に来てからある程度は見てきたはずなのだが、自分達が行った事がない方面なら泊まれる街があるかもしれないのだ。
しばらく歩くと大きな壁が現れた。
「え?何?この大きな擁壁は、こんなの見た事ないんだけど?」
「ああ、流石に驚いた!!こんな物があるなんて知らなかったな」
「まさか、ここが世界の果てなのか?」
3人が擁壁の前で驚いていると
「ねえ、貴方達そこで何をしているの?」
と、擁壁の上から声が聞こえてきた。
「え?あそこに人がいるよ?」
「本当だ。女性……かな?」
「俺達は城から追放されて行く宛がないんだ。それで、ここは一体何かな?」
「これは国境の擁壁です。ここから先はリブ様が治めるイグニアス王国ですよ」
「リブ様?イグニアス王国?聞いた事がないな」
「ええ、知らないわね。ねえ!!そっちってどんな国なの?」
「どんな……とは?」
「私達は日本からこっちに来たんだけどアメリカ出身の城主が威張ってる城にいたの、でも城の中にも街にも私達の求める物は何もないのよ」
「ああ、そう言う意味ですか。イグニアス王国は日本人だったリブ様が好き勝手やってるから快適ですよ?まぁ配下も9割が日本人だから文化水準は現代日本って感じかしら?」
その言葉を聞いた3人は顔を見合わせる。
「日本人だって!!文化水準も日本ならそっちの方が生活しやすくない?」
「私もそう思いました」
「ああ、それに王が日本人なら俺達の能力も上手く活用してくれるんじゃないか?」
「私達そっちに亡命って出来るのかしら?」
「多分大丈夫じゃないかな?リブ様はそう言う事は一切気にしないから、ちょっと聞いてみますね?」
女性はそう言うと本を取り出すと何やら話をしている。
「リブ様は今忙しくて無理だから、ケインさんって言う参謀の人が話を聞いてくれるみたい。ノエルさんっていう外交官の人が迎えに来るからそこで待っていてくれるかな?私は今から情報収集しに行かないとだからこれで失礼するね」
「あ……貴方の名前……」
そこまで言いかけたのだが、その女性は消えるようにいなくなってしまった。
「情報収集って事は諜報員か何かなのかな?だとしたら私達の能力もきっと役にたてるはずよ?」
「ええ、私もそう思いました。やっとこの能力を発揮できるのですね」
「俺の場合かなり特殊だからな……役にたてるかどうか……」
そんな話をしていると、突然3人の目の前にウサギ?の耳を持った女性が現れる。
3人は咄嗟に身構える。
「チャコさんが言っていたのは貴方達で間違いありませんか?」
「チャコさん?ああ!!さっき上で話をしていた女性かしら?と言う事はあなたがノエルさんかしら?」
「はい、そうですね。では王城にお送りしますので後はケインさんとお話下さい」
ノエルと言う女性が自分達の近くまでくると、一瞬光に包まれる。
次の瞬間、見たことのない豪華な城の前に立っていた。
「それでは中へどうぞ」
ノエルはそう言うと城の中に向かって歩き出す。
3人も慌ててノエルについて行く
玄関に入ると、老紳士とメイド達が並んで頭を下げている。
「履き物はこちらに」
こっちの世界に来てから履き物を脱ぐ習慣が無かった3人は慌てて脱ぐと、老紳士が3人の履いている物を受け取り、靴箱にしまってくれる。
「執事さんかな?すごいしっかりしてるお城なんだね?」
「メイドさん達もちゃんと教育されてる印象だな」
「ああ、それに外はすごい豪華だったのに中は結構落ち着いた感じなんだな」
そんな話をしていると謁見の間と呼ばれる大広間に通される。
中に入ると大きな椅子の隣に1人の男が立っていた。
「お話は伺っております。私はこの国で参謀をさせて頂いておりますケインと申します。リブ様は今仕事中でして、手が離せないとの事ですので私が代わりにお話を伺わせて頂きます」
ケインと名乗る男性が深くお辞儀をする。
「申し遅れました。俺の名前はゼキルです」
「あっ私は羅刹です」
「私はシエルと言います。よろしくお願いします」
「皆さんはどうして亡命をされたのですか?」
「俺達はこの国の隣国で将軍として活動していたのですが、突然城主に城から追放されてしまって……その城主が色々な人や街からかなり恨みを持つ人物なのでどこにも行く事が出来ず彷徨っている時に擁壁に辿り着きまして、そこでチャコさん?に出会ってここに亡命させて頂いたのです」
ゼキルがケインに経緯を説明すると、ケインはノエルの方をチラッと見る。
そして、ノエルが軽く頷くと
「嘘は無さそうですのでリブ様にお会いして頂きます。ですが、先程申し上げた通りリブ様は今仕事中ですので手が離せません。一度確認しますのでしばらくお待ちください」
ケインはそう言うと本を取り出して何やら話を始める。
「ねえ、王様なのになんの仕事をしているのかな?」
「視察とか?」
「だったら参謀さんもついて行くよね?」
「それもそうだな……」
羅刹とシエルが小声で話をしていると
「リブ様がお会いになると言う事ですのでついて来て下さい」
ケインが3人を連れて謁見の間から出ると、城の外にある見慣れない大きな建物の中に入って行くのだった。