115話 陰謀
シェライルの代表代理の女性が俺の正面に座る。
その隣に若い男性が、そして先程玄関に立っていた男性達が次々と席に着く。
「申し遅れました。私、シェライルの代表代理をしているナージャと申します。まさかリブ様が直々にお見えになるとは思わず先程は失礼致しました」
サラと名乗った女性がゆっくりと立ち上がると頭を下げる。
「うむ。俺がこのイグニアス王国の王リブ・クロートだ。今回はシェライルを編入させるかどうかという話だったのだが、生憎うちは今大祭の準備で皆忙しくてね、参謀の2人も動けないから俺が直接話を聞きに来たんだ」
「お忙しい中、我々の嘆願をお聞き入れ頂きありがとうございます。嘆願書にもお書きしたのですが、我々も街の代表が先日病気で亡くなったばかりで……現在は娘である私が代理をしております」
先代の娘だったのか。
若い女性が代理っておかしいと思った。
「それで?正式に代表になるのはナージャでいいのかな?」
「それは……」
ナージャは周囲を見ると、一瞬ため息をついたように見えた。。
「普段ここの代表はどうやって決めているんだ?」
「はい、それに関しては私から説明させて頂きます」
ナージャの右隣に座っている老紳士が席を立つ。
「私はこの街の副代表をしているコーリアスと申します。通常この街の代表は選挙により住民投票で決定されます。しかし今回はリブ様がこの地域を支配されましたので急遽先代の娘であるナージャに代理をお願いした次第でございます」
どうやら、先代の代表が亡くなったタイミングで俺がこの地域を支配してしまい急ぎ代理を立てたって感じみたいだ。
「そうか、それは悪い事をした」
俺が頭を下げるとコーリアスは困惑した顔で焦っている。
まさか一国の王が頭を下げるなど思っていなかったようだ。
「い……いえ……そのような事はございません!!リブ様の国の噂は街の住民全員が知っていますので、我々としては非常にありがたい事ですので」
「そうなのか?」
「はい、先代も是非貴方様の国に入りたいと常々申しておりました」
「ふむ、それで?どうするんだ?選挙をやるのか?」
「その事についてご相談をしたくご足労頂いた次第でございます」
「相談?」
「はい、通常は選挙で決めていましたが、王国に編入という事になれば話は変わって来ます。王がいない状態では街の運営を代表が全権を握りますが今回はリブ様の下に入る事になります。ですので、街の運営はリブ様が行う事になりますれば、代表決定権はリブ様という事になります」
なるほど……そういう事か。
それで、代表候補者と見届け人がここにいるって事か。
「なるほど、それで?代表候補は誰なんだ?」
「はい、まずは前代表の娘であるナージャ、そして、私の息子であるリアンこの両名となります」
サラの隣に座っていた若い男性が座ったまま頭を下げる。
この男がリアンって事か。
「ふむ、しかし代表に関しては俺の一存では決めれないんだ。だから今から各街の代表を呼んで一緒に決めようと思う。なのでしばらく待ってくれ」
俺はそう言うと通信を始める。
そして、通信を切ると出されたお茶をすする。
「ねえ、リブさんって王様だったの?」
カラが小声でクリオに囁く。
「そうだ、リブ様はこの国の素晴らしい王だ」
クリオがカラに囁き返す。
カラは驚いた顔で俺を見る。
そんな事をしているとドアをノックする音がした。
「はい?どちら様でしょう?」
ナージャがすぐに反応する。
「ナージャさん、お客様がお見えです」
ドアの向こうから女性の声がする。
「急ぎかしら?今は取り込み中なのだけど?」
ナージャが後にして欲しいという。
「それが……リブ様のお連れだとか……」
「ああ、俺が呼んだんだ。入れてくれ」
俺がそう言うとナージャは席を立ちドアを開ける。
「リブ様、セバスチャン達を連れてきました」
ドアの向こうにノエルが立っていた。
その後ろにはセバスチャンをはじめとした各街の代表がいた。
「ノエルありがとう。とりあえず入ってくれ」
「はい」
ノエルが部屋に入るとクリオが席を立ちノエルをそこに座らせる。
「クリオさんありがとう」
「いえ、自分は立ってますので」
そう言うとクリオは俺とノエルの間の少し後ろに立つ。
「あら?こちらの方は?」
ノエルがカラに気がつく。
「あ……私はカラと言います」
「カラ……こっちに……」
クリオが慌ててカラの腕を掴むと自分の隣に立たせる。
「え?ちょ!!」
カラは困惑しながらクリオに引きずられながら横に立たされる。
「ふふふ」
ノエルはそれを見ながら笑っている。
セバスチャン達も部屋に入ると俺の後ろに立つ。
「さて、ここにいるのがイグニアス王国の属州都市の代表達だ。シェライルが属州になるというのであればこの者達の下に入って一緒にやっていってもらう事になる。なので、新しい代表はセバスチャン達と一緒に決めようと思う」
俺言葉にナージャは慌てて席に戻り立ったまま頭を下げる。
リアンとコーリアスは席に座ったままセバスチャン達を見ている。
見届け人達もそのまま座ったままだ。
「さて、セバスチャンどう思う?」
俺は後ろを振り返るとセバスチャンに確認する。
というか今の行動でほぼ決まったようなものだが……
セバスチャン達も全員一致のようだ。
「はい、ナージャさんがよろしいかと」
「ほう、ではチャーリー、レナード、マリアーネ、ドラグ達の意見はどうだ?」
「はっ!!私もナージャさんを推します」
「ええ、私もナージャさんがいいですね」
「はい、ナージャさんでお願いします」
「そうですね、ナージャさんしかいないと」
4人もナージャで決まりだと言っている。
「な!!まだ何も知らないではないですか!!それなのになぜ皆さんはナージャを!!」
コーリアスが大声で意義を唱える。
見届け人達もまさかの事態に困惑している。
「あなたは?」
セバスチャンがコーリアスを睨む。
「わ!!私はリアンの父でこの街の副代表をしているコーリアスです!!」
「ふむ、ではコーリアスとやら、理由を教えて差し上げます」
セバスチャンは1歩前に出ると見届け人とコーリアスを睨みながら見回す。
「まず、我々がここに着いた時にリブ様の連れだと申しました。そして、リブ様が我々の紹介をした時に席から立っていたのもナージャさんただ1人。リブ様は敢えてこの街は我々の下に入ると伝えたにも関わらず席を立たないという事は自分達の立場を理解していない証拠です。そのような者が代表になれると本気で思いますか?」
セバスチャンは声を荒げながら続ける。
「それに!!そもそも我々はリブ様の配下になるのですよ?クリオ様でさえ幹部のノエルさんがお見えになった時にご自分の席に座らせてご自分は席を立っておられます!!我々も一度も席に着いていません!!それなのに!!あなた方はそのリブ様と対等の立場のような姿勢で平然と椅子に座っている!!我々としてはそれは許せません!!」
セバスチャンが怒りを露わにしている。
「ええ!!私もそれに関しては許せません!!」
レナードもかなり怒っている。
というか代表達5人全員の顔が怖い……
そう言われてコーリアスとリアン、そして見届け人達は顔を青ざめ急いで席を立つ。
「いいですか?リブ様はお優しい方ですので、いちいちこのような事ではお怒りにはなられません。しかし、配下の幹部の方々は違います。リブ様に対して不敬だと判断されればこんな街一瞬で無くなりますよ?」
「幹部の方々でなくとも我々ドラゴニュートが燃やし尽くしてくれるわ!!」
ドラグが怒りのピークに達している。
「まぁまぁ、ドラグもセバスチャンも落ち着こう」
「申し訳ございません……」
「失礼致しました」
ドラグとセバスチャンは俺に頭を下げる。
「という事だ。これからシェライルの代表はナージャという事でいいかな?ノエル、ケインに連絡してそのように伝えてくれ」
「はい、わかりました」
ノエルは席を立つと通信するために部屋を出る。
「リブ様、この者達の処遇はいかがなされますか?」
セバスチャンがコーリアス達を見る。
コーリアス達は下を向いて震えている。
「ん?処遇って?」
「この者達はリブ様を下に見ていたのですよ?恐らくリブ様を利用して息子を代表に就かせてこの街を牛耳る計画だったのではないかと。それに前代表の死も怪しいですし」
そこまで言われてコーリアスの顔が強張る。
どうやら病死というのは怪しいみたいだ。
「どういう事?」
「それに関しては私から説明します」
ドアの向こうからチャコが部屋に入ってくる。
「ケイン様の指示で私がこの街を調査しました。その結果、前代表の死に疑問を持ちました。彼は死ぬ3日前まで元気そのものだったようです。ですが、急に咳き込むようになりそしてお亡くなりに……その後突然コーリアスが見届け人という集団と共にリアンを代表にと言い出したようです。それを不審に感じた住民達がナージャさんを代理に立てたようです」
「なるほど……計画殺人って事か?」
「そ……そのような!!」
「やっぱり……お父様が急に亡くなったのはそういう事だったのですね?」
ナージャも父親の死に疑問を持っていたようだ。
「はい、ほぼ間違いなく」
「し!!しかし証拠がないではないですか!!前代表は急性の心臓発作で亡くなったのです!!」
「証拠?ありますよ?」
チャコがドアの方を見るとマガストールが3人の男を連れて入って来た。
「この医者達がコーリアスの指示で病死に見せかける為の毒薬を作って前代表に飲ませたって全部教えてくれましたから」
チャコがコーリアスを責め立てる。
「こ!!こんな者達など私は知らん!!そ……そうだ!!こいつらは私達親子を失脚させるために嘘をついているんだ!!」
「そうだ!!」
コーリアスの言葉に合わせるように見届け人達も一斉に騒ぎ出す。
あーうるさい……
これは確定演出じゃないか……
「もういい!!黙れ!!」
俺の言葉に全員が黙る。
そして静かになった部屋にノエルが入ってくる。
「それで?ノエルどうだった?」
「はい、コーリアスさん達から虚偽の兆候が見られました」
「そうか。じゃあ決定だな」
「はい」
「ど……どういう事ですか?」
「ああ、ノエルは他人の嘘を見抜くスキルを持っているんだ。だから部屋を出てそのスキルでみんなの話を精査してもらっていた」
「な……」
そう言うとコーリアスが膝から崩れ落ちる。
「こうなったら!!」
リアンが叫びながら隠していた短剣を取り出す。
が、次の瞬間クリオによって短剣は落とされ、そのまま拘束される。
「リブ様」
「ああ、こいつらを牢に入れて置いてくれ」
「了解しました」
そう言うとチャコ達がナージャ以外を拘束してそのままノエルのワープで連れて帰る。
「という事で今からナージャがシェライルの代表という事でいいかな?」
「はい!!精一杯父の代わりに頑張らせて頂きます!!」
「じゃあ補佐に彼をつけるって事でいいかな?」
そう言うとドアの所に1人の若い男が立っていた。
「え?エンリ?どうしてここに?」
「リブ様から君の補佐として働くように言われて……」
「という事だからセバスチャン、教育を頼むよ?」
「はっ、かしこまりました」
こうしてシェライルが新たにマットの属州都市になるのだった。