114話 精霊と新スキル
イフリートは炎を纏った巨人で知性のあるモンスターだった。
今まで戦って来たモンスターと違い、上位の存在みたいだ。
「なぁ、イフリートって炎の精霊じゃないのか?」
『確かに俺は炎の精霊だ』
「精霊なのにモンスターなのか?」
『貴様には関係ない事だ!!どうせここで死ぬのだからな!!』
イフリートはそう言うと炎を巻き上げる。
『所詮は脆弱な人間だ……この炎には耐えれないだろう?』
イフリートは高笑いをしながら俺を見る。
しかし、炎の中にいる俺は耐性を持っているので全くノーダメージだった。
「なぁ?この炎が最大の攻撃なのか?俺には効かないみたいだけど?」
俺は炎の中からイフリートに聞いてみる。
『な……なんだと!!』
俺の声を聞いたイフリートは驚愕の表情で炎の中にいる俺を確認する。
「じゃあ今度はこっちの番だな」
『コールドボルト!!』
氷の礫がイフリート目掛けて飛んでいく。
『ふん!!こんな低位な氷魔法なぞ俺には効かん!!』
イフリートはその氷の礫を体の周辺の炎で溶かし尽くす。
「お互いに効果はないみたいだな」
俺はイフリートの前まで歩いて行くとイフリートも距離を詰めてくる。
『ふん!!貴様の事を少し舐めていたみたいだな!!だが次で最後だ!!』
イフリートはゆっくりと宙に浮いて行くと両手を天高く上げると頭上に大きな炎の塊を作り出す。
『死ね!!烈火豪炎!!』
イフリートはその炎の塊を俺目掛けて振り下ろす。
その大きな塊は俺に近づくにつれてどんどんその炎を激化させる。
「うーん……これは流石に耐えるとかいう次元じゃないな……」
『シルフの息吹!!』
極大の風魔法がイフリートの炎の塊を吹き消す。
『な……なんだと?シルフの息吹だと?貴様が何故その魔法が使えるのだ?』
「それは……」
俺が説明しようとした時だった。
『私がこの方に力を貸しているからですよ?イフリート?』
右手の中指に装備している指輪が光るとそこからシルフが現れた。
というかシルフってこの指輪の中にいたんだ……
知らなかった……
『シルフ……まさかお前ほどの精霊がこの男に?』
『失礼ですよイフリート?このお方はこの国の王であり、召喚一族の長であるクロート様ですよ?』
『クロートだと?まさか……』
『あなたも精霊なら知っているはずですよ?』
シルフは俺の方を向くと頭を下げる。
『な!!シルフが頭を下げるだと!!それでは……本当にクロート……様なのか?』
イフリートはシルフの行動に驚いている。
もしかしてイフリートよりシルフの方が格が上なのか?
よくわからないが、そのシルフが俺に頭を下げる意味はイフリートにとってかなり衝撃的な事みたいだ。
『ふ……本物みたいだな!!だが!!シルフが認めたとはいえ、俺は自分より弱い奴に従う気はない!!』
イフリートは再度大きな炎を作る。
『シルフよ!!次はお前の手助けは無しだ!!この男の真の実力を知りたいからな!!』
『ええ、いいでしょう』
いいでしょう?
ってシルフさん?あなたどの立場で俺を試しているの?
そして何?その自身満々の笑顔は?
これってシルフの息吹以外であの攻撃をなんとかしろって事なのか?
やるしかないか……
『烈火豪炎!!』
イフリートが再度大きな炎の塊を振り下ろす。
『リブ様、炎だから水系の魔法でなければ相殺出来ないなんて事はないんですよ?』
ん?
シルフそれってどういう事?
『相手は精霊なのですから』
ふふふっとシルフは笑う。
なるほど……
って!!さっぱりわからん!!
もういいや適当にデカい魔法でもぶっ放すか!!
『ライトニングサンダー!!』
俺はイフリートの頭上から一際大きな光の雷を落とす。
ドーンという轟音と共にイフリートにその雷が落ちる。
次の瞬間イフリートが放った炎の塊が俺に当たる。
大きな爆風が巻き起こり、俺とイフリートはその砂塵に巻き込まれる。
クリオとカラは飛ばされないように必死に堪えている。
しばらくして、爆風が止むとゆっくりと砂煙が消えていく。
「リブ様!!大丈夫ですか?」
クリオが慌てて駆け寄ろうとする。
『ふふふ、大丈夫よ?』
それをシルフが笑いながら止める。
そして、砂煙が収まるとそこに無傷で立つ俺と地面に倒れて気絶するイフリートの姿が現れる。
「ふー……なんとかなったな……」
『さすがクロートね。まぁイフリート程度に負けるようなら私が力を貸していないんだけど』
やはり、イフリートよりシルフの方が上位の存在みたいだ。
すると、イフリートが意識を取り戻してゆっくりと立ち上がる
『どうやら俺の負けみたいだな……クロートよ俺の力も使うといい……』
俺は精霊使役のスキルを発動させる。
するとイフリートが俺の中に入ってくる。
「おお……やっぱり暖かいな……」
すると俺の体が光りだす。
「リブ様?もしかして?」
「ああ、イフリートのスキルを手に入れたみたいだ」
『ふふふ、じゃあ私も戻るわね?』
「ありがとうシルフ。助かったよ」
『まぁ私が出るまでもなかったんだけどね?イフリートが生意気だったから向こうで説教してくるわ?』
そう言うとシルフは笑いながら消えて行く。
どうやら、この指輪は精霊の世界と繋がっているみたいだ。
「ほどほどにね?」
俺の言葉がシルフに届いたかどうかわからないが多分大丈夫だろう。
「それでリブ様?どのようなスキルが?」
「ああ、そうだった。確認してみるか」
俺はスキルを確認する。
追加スキル : : 炎影刹那、陽炎、烈火豪炎、アクセルブースト
となっていた。
ついでにスキル鑑定で内容も見ておこう。
炎影刹那 : 手足から炎を燃やし、一瞬で相手に激しい炎の一撃を放つ。
陽炎 : 陽炎で周辺の風景を歪ませて体を隠す
烈火豪炎 : 巨大な炎の塊で攻撃するイフリートの強力な炎魔法
アクセルブースト : 足から爆風を起こし移動出来る。
意外と使えそうなスキルが多いな。
特に陽炎は使い方によってかなり有効なスキルだ。
「結構いいスキルが多いな」
「これでさらに最強になりましたね」
クリオが俺を称賛している。
その隣でカラが顔を赤らめてポーっとしている。
「ん?カラ?どうかしたのか?」
「い……いえ……べ……別になんでもないです……」
そう言うと、俺から目を逸らす。
まぁ何もないなら気にしなくていいか。
そういえばここから1番近い街って俺達が目指してる所だな?
確かシェライルとかいう名前の街だった。
「ここから1番近い街が俺達の目的地だからそこまで送るよ」
俺はカラにそう言うと歩き出す。
「もう……少しは私の事を気にしてよ……」
カラが小声で何か言っているが俺には聞こえない。
しばらく歩くと街の擁壁が見えてきた。
街の入口まで来ると門の前に衛兵が2人立っていた。
「ここはシェライルの街です。今回はどのようなご用で?」
衛兵は俺達に怪訝そうな顔で質問してくる。
「貴様!!このお方を!!」
その対応に怒ったクリオが凄い勢いで衛兵に掴みかかろうとする。
俺はそのクリオを後から羽交い締めにすると衛兵に名乗る。
「すまない……俺はリブ・クロートという者だ。こっちは従者のクリオ……今回こちらからの要請で話を伺いに来たんだけど……」
暴れようとするクリオを必死に止めながら衛兵に答える。
「え?リブ・クロート?本物ですか?」
「このやろう!!」
その言葉にクリオが更にヒートアップする。
「ちょ!!これ以上刺激しないでくれるかな?」
俺は衛兵にお願いする。
「し……失礼致しました!!まさかこんな僻地にご本人様がいらっしゃるとは思わず!!大至急代理を呼んで参ります!!」
衛兵が直立して俺に向かって敬礼すると急いで街の中に走って行く。
それを見てクリオが落ち着く。
「全く!!リブ様に向かって!!次はないからな!!」
うん……あまり落ち着いていなかったみたいだ……
すると、先程の衛兵が1人の女性を連れて戻って来た。
「リ……リブ様でいらっしゃいますか?」
急いで来たのか女性は息を切らしている。
「も……申し訳ございません……まさか……自らこちらにいらっしゃるとは思わず……」
女性は、はぁはぁ言いながら俺に話かける。
「ああ、俺がリブ・クロートだ。とりあえず深呼吸でもして息を整えてくれていいよ?」
女性は大きく息を吸い込むとゆっくり吐き出す。
そして呼吸が整ったのか俺の前に跪くと頭を下げる。
「リブ様!!この度は私共の嘆願にお応え頂きありがとうございます!!」
「ああ、それはいいんだけどそろそろ街の中に入れてくれないかな?」
門の前でこんな事されても困る……
まるで呼ばれて家まで来たのに玄関の前で話をしている気分だ。
「こ……これは気がつきませでした……どうぞお入り下さい」
女性は頬を赤くしながら恥ずかしそうにしている。
まぁ、急遽代表の代理になったからこういう事に慣れてないのだろう。
「ゆっくり慣れていけばいいよ。うちにはその辺を教えてくれる先輩が沢山いるから」
俺は女性にそう言うと街の中に入る。
「ありがとうございます」
女性も俺が言いたい事に気がついたのか一言お礼を言うとホッとした顔で先導している。
そして、大きな屋敷の前まで来ると大勢の住民が整列していた。
「それではこちらに」
女性は屋敷に俺を誘導するとゆっくりドアを開ける。
そこには数人の男性が立っており、俺に向かって頭を下げていた。
「いらっしゃいませ!!」
「ああ、頭を上げてくれて構わない」
俺は照れているのを誰にも悟られないように気丈に振る舞うと大広間に用意された席に座る。
そして周りを見まわし……
ん?
「ねえ、カラはなんで一緒にここにいるの?」
クリオの隣に当たり前のように座っているカラに気がつく。
「え?だって……一緒に行く流れだったじゃない?」
「そうだっけ?まぁいいや」
ここまで来てしまったのだから追い出すのも変になりそうだからいいか……
そして、シェライルの代表代理達との会談が始まるのだった。