105話 決戦直前
翌日早朝、俺はみんなを見送る為に城門の前にいた。
隣にはセバスチャンとアイーナ、そしてフェルノとハティがいる。
「新しい神獣も仲間になったからこっちの事は気にしなくていい。だから思いっきり暴れてきて欲しい。でも、危険だと思ったらすぐに引き返してくる事!!いいね?」
「「はい!!」」
「クーパー、ケイン任せたよ?」
「はい、必ずいい結果を持って帰ってきます」
「私も精一杯頑張ります」
そして、出陣して行くみんなを見送ると城に戻るのだった。
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早朝に王城を出発した軍隊は昼前に隣国との国境まで来ていた。
「ここまでは安全でしたが、ここから先はもう隣国です。ですので、ここで一度休憩しておきましょう」
ケインが休憩と言ったのは口実であり、本当の目的は先行してチャコに偵察をしてもらう事だ。
「チャコさんお願いします」
「わかりました。では行ってきます」
そう言うとチャコは隣国に入って行く。
「カイザーさんここから一気に王城まで駆け抜けたいのですが大丈夫そうですか?」
「大丈夫なのですが……1つ懸念があります」
「それは?」
「王城に着いてから開戦までの間に馬が回復できるかわからないのです」
「なるほど……通常の2倍の重量で全速力となると馬の負担が大きいですからね……」
「ほないい考えがあるで?」
「サリーさん?それはどういった案ですか?」
「魔導兵器に3人乗ればええんや」
「そんな事が可能なのですか?」
「乗り心地はワルなるけどこの休憩中に急いで作業すればなんとかなるやろ?」
「ではお願いしてもいいですか?」
「せやけど、魔導兵器の数だけでは全員はまかないきれまへんで?」
「騎兵を2分して対応しましょう。途中で馬を変えればいいので半分にしてもらえれば大丈夫です」
「ほな、作業してきますわ」
サリーとウェンツも2人体制で魔導兵器に新たな座席が作られて行く。
「戻りました」
そこに偵察を終えたチャコが戻ってきた。
「チャコさん早かったですね?」
「それは事前に隣国の王城は調べてありましたからね。ここから出るのが1番近いですから」
「それで?様子はどうでした?」
「王城周辺に変化はないですね。でも……」
「でも?」
「前回来た時にはなかったお城がここから王城までの中間地点にありました」
「と言う事は、誰かがテレポートしてきたという事ですか?」
「はい、ただ……城の中に街はなく、配下もいないような城でした」
「完全に1人君主という事ですか?」
「中に入って見たわけではないので確実にとは言えませんが、恐らく」
「うーん……それは面倒ですね……もしかしたら誰かの斥候かもしれませんし、本当に1人君主なのかもしれません」
「そうなんですよね……最近は配下を統合しないで斥候させる王候補もいるみたいですし……」
「少し遠回りになりますが迂回しましょう」
「わかりました。ではなるべく最短で安全なルートを探してきます」
「お願いします」
そしてチャコは再度隣国に入って行く。
「ケインはん出来たで?」
サリーの準備が整ったみたいだ。
ケインはロイとネージュの元に行き、歩兵と弓兵を編成し直すとカイザーの所に向かう。
「カイザーさん、少し迂回する事になりそうですので、馬の調整をお願いします」
「わかりました。では急ぎ再編成します」
休憩とはいえ、ケインが休む事はない。
全部隊が戦闘で全力を出せるようにする事がケインの仕事なのだ。
「ケインさん、ルートの作成終わりました」
「チャコさんありがとうございます。では出発しましょう」
ケインがそう言うと休憩を終えた全軍が動き出す。
ここからが本当の勝負なのだ。
ケインは気持ちを切り替えると、馬にまたがる。
「全軍!!出陣!!」
ケインの号令で50万の軍勢が隣国に侵攻して行くのだった。
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ケインさん達が出陣して5時間ほど経過していた。
クーパーは城の椅子に腰掛け不安そうにしていた。
「クーパーさん、まだ始まってもいないのにそんなに緊張していたらこの先大変ですよ?」
「だって……戦争自体ほぼ初めてなのにいきなり大将なんて……」
「きっと大丈夫ですよ。ケインさん達にお任せしましょう」
「コウリュ……怖くないの?」
「怖いですよ?私だって初めてなんですから」
「それはここにいる全員同じですよ?」
「本当にリブ様達って凄いよね?」
「ええ……」
そんな話をしていると手に握っている本から声が聞こえてきた。
『クーパーさん聞こえますか?』
「はい、大丈夫です」
『王城が見えてきましたのでそろそろ準備をお願いします』
「わかりました」
『こちらは後2分程で到着予定です。ノエルさん達が5分後にテレポートするとの事ですのでこちらの準備ができるまで10分は必要だと思います。ですのでその頃王城をワープさせて頂きたいと思います』
「了解しました。それではこちらも準備を始めます」
『よろしくお願いします』
ケインとの通信が終わるとクーパーは椅子から立ち上がる。
「聞いた通りよ?こっちも準備を始めましょう」
「遂に始まるのですね?相手が弱ければいいのですが……」
「ヤバい……緊張してきた……」
「私も手が震えてます……」
「カイザーさんに鍛えてもらった成果を出さないと」
5人は顔を強張らせながら城から出て行く。
そして、兵士達の前に行くと
「10分後に戦場に向かう!!みんなも初めての戦争だと思うけど、私達も初めてだ!!全力で戦う事は間違いないが、リブ様は死ぬ事を許してはくれないだろう!!危険だと思ったら退去する事!!逃げる事は恥ではない!!必ず全員生きて勝って帰るぞ!!」
「「おお〜!!!!」」
クーパーの言葉に兵士達の士気が上がる。
しかし、顔は緊張したままだ。
そして遂にワープする時間になった。
「そろそろだな……行くか……」
クーパーが城をワープさせようとした時だった。
「まぁそんなに緊張しなくても大丈夫だよ?もっと気楽にいこうぜ?」
クーパーの後ろから声が聞こえた。
その声に5人が振り返るとそこにはリブが立っていた。
「リブ様?何故ここに?」
「何故って?見送りくらいさせてよ」
「ありがとうございます!!」
「来たついでだ、俺も兵士達に一言いいかな?」
「はい!!是非お願いします!!」
そう言うとリブが前に出る。
その姿を見た兵士達がさらに緊張している。
クーパーの兵士達はこの城から出る事がほとんどないので、リブに会う機会などないのだ。
その兵士達の目の前に王が立っているのだ、緊張するなと言う方が無理だった。
「クーパーの兵士達よ!!この防衛戦は大事な1戦である事は間違いない!!だが、負けたからと言ってどうなる訳でもない!!だから死んでまで勝てとは言わない!!しかし、せっかく戦争に向かうのだから経験として吸収してきてほしい!!ケインをはじめとした俺達の軍勢は大きな戦争を潜り抜けた経験と実績がある!!そこから学ぶ事が沢山あるはずだ!!ただ戦争に参加するのではなく、今後のために成長してきてくれ!!そしてこの経験を活かして今後の糧にしてほしい!!検討を祈る!!」
リブの演説が終わると緊張していた兵士達の顔が戦場に向かうそれになっていた。
男も女も関係なく、目の前にいる王の役に立ちたいという気持ちが湧き上がってきたのだ。
「「「オオ〜!!!!!」」」
クーパーの時とは違う雄叫びが城内に響き渡り、地面が揺れている錯覚に陥るほどの振動が伝わる。
「私……鳥肌が立ってます」
「はい……いつも見ているリブ様から想像できないほどの圧というか、熱というか……形容しがたい何かが……」
クーパーとコウリュも腹の底から何かが湧き上がってくるのを感じていた。
「さぁ!!行くぞ!!」
「「オオ〜!!」」
「ではリブ様、行ってきます。必ず勝利してリブ様の期待に応えてみせます」
「無理しないようにね?気をつけて」
リブはそう言うとワープでその場からいなくなる。
リブがいなくなった事を見届けるとクーパーは、城をワープさせるのだった。