104話 神獣ハティ
俺は会議が終わるのを見計らって会議室に入る。
すると、移動の事で揉めているみたいだった。
それなら、俺の同盟から一度抜けてクーパーの同盟に入れば城のテレポートで軍隊ごと移動できるのでは?と考えたのだ。
「リブ様……それは出来ません」
しかし、その案はケインによってあっさり却下されてしまった。
「なぜ?」
「我々はリブ様の恩恵を受けています。それを無くしてしまうと大きな戦力ダウンになるからです」
たしかに俺の役職という名の恩恵があるからこその軍事力か……
そこまで気が回らなかったな……
「じゃあどうするの?移動の途中で気付かれて先に王城に入られたら難しくならない?」
そう、今回の計画はあくまで防衛戦なのだ。
攻城戦となると戦略の練り直しが必要になってしまう。
「ねぇ?問題なのは歩兵部隊と弓隊だよね?ちなみに今うちの戦力ってどうなってるの?」
「現在マットの戦力は、歩兵部隊10万、弓隊15万、弓騎兵隊5万、騎兵隊10万、魔導兵器部隊3万の総勢43万ですね。そこにクーパーさん達の15000とセシルさん達冒険者が500人、コウリュさん達が300人で445800人が今回の戦力になります」
「ちなみにリブ様の王城には何人残るのかしら?」
「護衛部隊として歩兵2万と魔導兵器1万それに弓隊1万、騎兵5万、弓騎兵隊5万が王城に残ります」
「それを除いて44万なのかしら?」
「はい、その通りです」
「じゃあさ、王城に残る予定の弓騎兵隊と騎兵を加えて歩兵部隊と弓隊を乗せて移動したら?クーパーの兵士は王城テレポートで移動して、コウリュとセシル達は範囲ワープで移動すればいいんじゃないかな?」
「しかし……それでは王城の防衛が……」
「王城はとりあえず俺とフェルノで守るから大丈夫!!騎兵隊は輸送したら急いで戻ってくればいいから」
「リブ様がそうおっしゃるのであれば……」
「ドリーとリコルもいるし王城は大丈夫だよ」
「わかりました!!ではその案でいこうと思います」
「ああ、みんな任せたよ?」
「「はい!!」」
全員の士気が上がり、一気に熱気を帯びていく。
俺は会議室から出ると、王城に戻りドリーとリコルを召喚するとフェルノを呼び出す。
『珍しいなクロート、どうしたのだ?』
「ああ、明日から新たな王城攻防戦が始まるから、こっちの王城を守る相談しようと思って」
『あら?あなたは参加しないかしら?』
「俺は参加できないみたいでね……留守番なんだよ」
『ついに大陸の王になる1歩を踏み出すか』
「そういうわけでもないけど結果としてそうなるな……」
「はっはっはっ!!我もいるのだから心配はいらんぞ?」
「ああ、その時は頼む」
『クロート?そちらの傲慢な方はどなた?』
「フェルノはこの王城にいたドラゴンだよ」
『なんと!!ついにドラゴンを仲間にしたのですか?』
「みたいだね……あっ!!そういえば2人に聞きたい事があったんだった!!」
『俺達に聞きたい事?』
「ああ、ハティっていう狼の神獣を知っているか?」
『ハティですって?あいつがまた何かやらかしたの?』
『ハティなら知っているとも!!あの狼今度は何をしたんだ?』
「直接何かをされたわけじゃないんだが、悪魔族と一緒に裏で街を困らせていたみたいなんだ」
『ハティが悪魔族と?そもそも悪魔族の王はクロートの配下だぞ?』
「え?そうなの?」
『ええ、間違いないわよ?悪魔族の王は邪龍戦争でクロート家側にいたわ?』
「そうなんだ……それでそのハティって奴が俺の配下になりたいみたいなんだけど、お前達と一緒にしてもいいのか?」
『そういう事なら問題ないわね。あの狼もクロート家には恩があるだろうし、尽くすと思うわよ?』
「そうか……じゃあ機会があったら召喚獣として仕えてもらう事にするよ」
『うむ、それがいいだろう。あいつを放置しておけばまたやらかす危険もあるしな』
「ところでそのハティって奴は何をしたの?」
『あいつは元々ハグレモノだった。神獣ではあったが、単独行動しかできずに俺達と連携できないでいたのだ。そしてあの戦争の時に騙された奴の行動で俺達は窮地に立たされてしまったのだ……その事を悔いたあいつはクロート家から離れる決意をしたのだが、クロートはハティを許し戦力に加えたままにしたのだ。そして、1番に封印されそうになったハティをクロートが救ったのだ。結果的に俺達は封印されてしまったがハティだけは封印されなかったのではないか?』
「という事はハティだけは封印されずにこの世界に残っていたと?」
『ええ、多分そうじゃないかしら?本人に聞いてみたらいいわ?』
「どこにいるのかわからないのにどうやって聞けばいいんだ?」
『少し待っていろ』
そういうとドリーが消えて行く。
そして次の瞬間、空が明るく光ると
『クロート様……申し訳ありませんでした!!』
そこに大きな狼が現れた。
『全く……近くにいるならすぐに姿を現せばいいものを……』
『しかし……ドリーよ……お主も知っての通り俺は……』
『このクロートもあの時と同じくらいお人好しだぞ?そんな心配はいらんわ!!』
「まぁ俺には記憶がないからな。お前に裏切られた事も知らないが、ハティが俺に仕えると言うなら拒みはしないよ?」
『なんと!!ギャルドの件を知った上でなお俺を必要としてくれるというのか?』
「ギャルドの件は別に俺に被害はないしな、それに謝るのは俺じゃなくてドリーとリコルに謝れよ」
『それは……たしかにそうだな!!ドリーそしてリコル本当にすまなかった!!』
『あら?珍しいわね?あなたがそんなに素直に謝るなんて』
『この数100年俺は後悔し続けたのだ……今回の件もクロート様を復活させる為に計画に乗っただけだしな』
「それはどういう事だ?」
『パラスドールは燃える城に芸術家として魅せられてしまっていた。そして、俺は王候補達が帰還しているという情報を手に入れクロート様を探していた。その時にあの悪魔にパラスドールを紹介されて、城を燃やしてまわればいつかクロート様に会えるのでは?と提案されたのだ。しかし、神獣である俺は直接関与できない……だからあの悪魔を使いパラスドールの計画に乗ったという事だ』
「なるほど、パラスドールに直接力を与えたのでなく、悪魔を通じて協力していたという事か」
『左様でございます』
なんか見た目に反して礼儀正しいのはクロートに恩があるからか?
まぁでもこれで、王城を守る戦力が増えたわけだ。
「ハティ期待してるぞ?」
『なんと慈悲深いお言葉!!このハティあの時のような失態は2度と起こさないと誓います!!ドリーもリコルもこれからは仲間として協力させて欲しい!!』
『単独行動しか出来なかったお前からそんな言葉を聞く時が来るとはな……』
『ええ、未だ復活していないみんなに聞かせてあげたいわ?』
『ああ、あいつらが復活したら改めて謝罪させてもらいたい』
「まぁ、過去の事は知らないし覚えていないが、当時のクロートもハティを許しているんだろ?それなら俺が責める事はできないからな」
『感謝します!!俺はみんながいなくなった世界で1人神力を鍛え続けたから回復する時間はいらないので常にリブ様の近くでお守り出来ます』
「え?そうなの?じゃあフェルノみたいに人化できたりするのか?」
『リブ様とシンクロできれば可能かと』
「シンクロ?どうやって?」
『失礼します』
そういうとハティが俺の中に入ってきた。
入ってきた?
マジか!!
俺と同化するって事?
などと混乱していると、ハティが俺の中から出てくる。
そして、一瞬ハティの体が光るとそこには1人の男性が立っていた。
「これで人化のスキルを手に入れました。これからはフェルノ殿と同じくリブ様の近くで行動できます」
人化したハティは顔は人間だが耳と尻尾は狼という獣人の様な風貌で身長は2mくらいの大男になっていた。
「ハティ、頼りにしてるぞ?後、俺の配下は沢山いるからね?他のメンバーと仲良くしてくれよ?」
「はは……クロート様の仰せのままに」
「ちなみに俺はリブ・クロートだから、リブでいいよ」
「なるほど……では今後はリブ様とお呼びさせて頂きます」
「ああ、そうしてくれ」
こうして、強力な仲間がもう1人増えたのだった。