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第九話:因果③

 ――2年後――


 旅団(チーム)から始まった正義の味方は人数も増えた。

 今や民間の防衛組織として国から支援を受けて活動をしていた。

 また、こういった組織は日本だけでも10組ほどあった。


 ただし、残念な事に渾沌退治後の青写真を描く者や誰がリーダーシップをとるか等の利害関係の駆け引きが横行していた。

 協力して渾沌に対抗しないといけないハズの《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》側はまだまだ一枚岩ではなかった。


 だから未だに渾沌を倒せずにいた。

 本当に残念で悲しい話だ。


 この間に世界の都市の2%が壊滅した。


 一方で富豪の一部は陸地を離れ超大型豪華客船で海上生活をしていた。

 渾沌の出現転移ポイントである漆黒の球体は陸上以外では姿を現さなかった。


 だから最初は確かに安全のように思えた。

 だけど世間の誰かが噂をしていた通り、渾沌は海に沈まなかった。


 原理は分からないが渾沌は海の表面を浮かびながら移動する事が出来た。

 その為、渾沌の気分次第で超大型豪華客船も襲撃を受けた。

 そして何隻も海底へ沈んでいった。


 そもそも渾沌の行動や生態に対して道理をつけようなんて荒唐無稽な話だ。

 この頃には渾沌に人間の常識や世界のことわりは通用しない。

 そんなの誰もが知っていた。


 その頃、オレたちの組織の人員は100名を超えていた。

 いろいろなタイプの《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》の集まった大所帯。

 皆が違う能力を持っている事で以前と比べて大幅に戦力は強化されていた。


 その中には戦闘時に後方支援向きの能力者や非戦闘の場面で活躍する者もいた。

 そして、麻理亜(まりあ)さんの能力“英雄”の効果の一つを使う。

 それにより各自の能力が最大限発揮出来るよう適材適所の人材配置を行う。

 こうして組織の効率化を図っていた。


「――八久舎(やくしゃ)君、ちょっと良いかな」


 《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》の強化訓練を終えて本部に戻ってきたオレ。

 どことなく浮かない表情の麻理亜さんが声を掛けてきた。


 また八荒氏から無理な注文でも受けたのか。

 あいつは本当に人使いが荒いからな。


 いい加減にしろと本気(マジ)で一回言ってやろう。

 麻理亜さんの“英雄”に頼り過ぎだ。


 ほら、見てみろよ麻理亜さんの顔。


 ……困っている麻理亜さんも可愛いじゃないか。


 オレはマジマジと麻理亜さんを見つめた。


「八久舎君は今日の衣装が気になるの?」


 あ、確かに気になるけど、オレが言いたいのはそうじゃなく。


「これは10年くらい前の深夜アニメの……」


 麻理亜さんは嬉々として推しキャラの話を始めた。

 まあ、これはこれで良いか。


 自分の好きなモノを語っている時の麻理亜さん。

 その表情はいつも以上にキラキラ輝いて見える。

 オレはうんうんと頷きながら麻理亜さんの話を聞く。

 

「でねー……。ってウチはその話をしたかったわけじゃなくて」


 おっ、脱線したけど戻ってきましたか。 

 何で途中で話を止めてくれなかったと言わんばかりの視線をオレに向けてくる。

 楽しそうに話をする麻理亜さんの事を止めるなんてオレには出来ません。

 それにしても可愛いなあ。このまま時間が止まれば良いのに。


「八久舎君、話聞いている?」


 おっと心を見透かす麻理亜さん。

 オレはいつでも真面目に話を聞きますよっと。

 うおー、そんな冷ややかな視線でオレを見るのは止めてください。

 キツイです。


「そろそろ話をしても良いかな」


「えっ、あ、はい……」


「あのね、北海道に拠点のある組織から接触があったの。共闘して渾沌を倒さないかって。でもね八荒君が反対するのよ。アチラの方が人数多いからウチらが吸収合併されるとか、リーダーの能力が“悪魔(デーモン)”だから信用出来ないとか。いろいろな理由を付けてね。八久舎君はどう思う」


 本当に渾沌を討伐したいのなら共闘はアリだ。

 いや、むしろ必須条件と言っても過言ではない。


 人間(ひと)の作った兵器で渾沌を傷付ける事は出来ない。

 しかし《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》による攻撃は別だ。

 能力による攻撃は渾沌にダメージを負わせる事が出来る。


 ただ、現在は火力が圧倒的に不足している。

 毎回50分間という限られた時間内に倒しきる事ができない。

 その為、次に出現転移ポイントから姿を現した際には混沌のダメージが全回復しているという最悪の謎システムにやられている。


 つまり渾沌出現から50分以内に倒さないといけない。

 その為の対策として考えられるのは3つ。


 1つ目は個々の攻撃力の強化。

 オレが本部に戻ってくる前にしていた訓練。

 今は3(つい)6枚の翼で大空を(かけ)る事が出来るようになった。


 2つ目は人数増加による総合火力の増強。

 今回の共闘がまさにこれだ。

 100人より200人、200人より600人の方が総合的な攻撃力は増す。


 一斉に攻撃出来れば渾沌を倒せるかもしれない。

 これまでの戦いで能力者に少なからず犠牲者が出ている。

 犠牲者が増えれば当然戦力は減る。

 時間が経過すればするほど渾沌を倒す事は難しくなるだろう。


 3つ目は渾沌を倒せる《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》を持つ者を発見する事。

 もしかしたら渾沌の天敵ともいえる救済の力が存在する可能性もある。

 それを否定する根拠はない。


 ただしそれはどんな救済の力なのか想像もつかない。

 だから可能性としては正直ゼロに近い。

 現時点ではただの気休めの希望。

 もしくは願望。


 それから、各々の救済の力の性質(ユニーク)自体は人格や思考に影響を与えない。

 人格や思考が救済の力の性質(ユニーク)部分に影響しているわけでもない。


 だいたい、オレの人格や思考は“天使”じゃない。

 身の回りで起きる小さな事象に対して善悪の区別がつく程度の普通の男の子だ。

 これは胸を張って言える。


 もちろん、アチラのリーダーも“悪魔”じゃないだろう。

 ん~……、いい加減にしろと本気(マジ)で一回言わないといけないか、八荒氏よ。


 あ~……、先程の救済の力が人格等に影響を与えない話は少し修正。

 救済の力を発現(はつげん)する事で自分の立場や環境が変化する。

 言動や行動が発現前と変わってしまう事はある。


 そういう人間は今まで何人も見てきた。

 お前だよ、八荒氏。


「アチラの組織の事はよく知らないから何とも言えないけど、渾沌と戦う為に共闘するのは方向性として間違ってないと思うよ。麻理亜さんこそどう考えているの」


「ウチは賛成。仲間が沢山いればお互いに助け合う事が出来るし、これ以上渾沌との戦いで犠牲者を増やしたくないし……。最近は渾沌だけじゃなく眷属(けんぞく)が出てくる事もあるから一緒に戦ってくれる人は多い方が良いよね。それで最後は皆で大勝利のお祝いしたいじゃん。それに渾沌がいなくなって世界が平和になったらやりたい事が沢山あるしね。あっ、何をやりたいのかは教えないけど」


 麻理亜さん、コミケみたいなイベントが開催されなくなって数年経ちます。

 でもそういうイベントに関係なく普段からコスプレしてますよね。


 いやいや、わざわざ言わなくても麻理亜さんの好きなものはバレバレですよ。

 自分の好きな事をとことんやり続ける。

 そして貫く。その強さ。麻理亜さんはさすがです。


 それはそうと、麻理亜さんの言葉の中にあった“渾沌の眷属”。

 以前から報告で聞いていた。


 オレたちが眷属に初めて遭遇したのは3か月前の千葉県浦安市近郊。

 いつもと同じく出現転移ポイントが現れたと本部に連絡があった。

 たまたま近くにいたオレと麻理亜さんは現場へ急行した。


 ちなみに漆黒の球体に直接攻撃しても何の手応えもない。

 ロケット弾等の物理攻撃は球体の中に吸い込まれるように入っていく。

 そしてそのままレーダーから消失する。

 爆発音すら聞こえる事はない。


 《救済の力を授かった人(キュウジンシンセン)》による炎や風、光等の攻撃も同じく吸い込まれたまま何の反応もなかった。

 球体の中でエネルギーが雲散霧消(うんさんむしょう)した感覚があったと話す者もいる。


 これはレアケースだが過去に球体の中へ飛び込んだ能力者がいたらしい。

 それからかなりの月日が経つがどうなったのか分からない。

 今は行方不明者として扱われているそうだ。


 その日は好天に恵まれ、雲一つない穏やかな空模様。

 時折吹く風の中に磯の香りが混ざる。

 そういえば何年も海で泳いでないな~……なんて事を思い出す。


 出現タイミングがたまたま漁港に船の集まる時間から外れていた。

 この時は一般人の避難誘導を早々に終えて渾沌の登場を待ち構えていた。


「そうさ向日葵(ひまわり)みたい、君に向かってこの手を伸ばす――」


 あっ、気持ちを挙げたい時の麻理亜さんだ。

 何度聞いても色褪せないその歌は中学か高校の頃に流行ったアイドルソング。


 結構人気のあった男性5人組だったが数年前にグループとしての活動を休止。

 彼等は個人でも活動していてテレビやインターネットで大活躍。


 そういえば渾沌が出た直後くらいからあまり観なくなったなあ。

 まあ、当時はそういう娯楽が許されない雰囲気だったから仕方ないと言えばそれまでだけど。


「その歌、よく口ずさんでるよね」


「うん、これを歌うとキブンがあがって楽しくなってくるから。自然と出てくるんだよね」


「そっかー」


「気付いていた?」


「まあね」


「そっかー。でも八久舎君もキブンあがるでしょ」


「そだね」


 二人で他愛もない話をしていたら出現転移ポイントから巨大な足が勢いよく出てきた。

 どうやらいつもの時間がきたみたいだ。


 まったく、渾沌というのは空気も読めんヤツだな。

 そんな野郎は馬に蹴られて死んじまえ。


「さあ、行くよ八久舎君。ウチらの出番だ」


「へいへい、頑張りますか」

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