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第三十九話:禍の魔狼⑨

 砂利を踏む音が静かな夜の闇に響く。

 全く何も警戒していない軽やかな足音。

 それはリズムを刻むような一定の間隔。

 人のそれより明らかにピッチは速い。


「来たか……」


 騎士団長は唾を飲み込む。

 ゆっくりと息を整えて鞘の中で出番を待つ剣の柄に右手を添えた。


 砂利を踏む音は徐々に近付いてきた。

 罠を仕掛けた場所は記憶している。

 もう少し、もう少しでその音は網の真上に到達する。


 騎士団長は目を閉じ、耳に意識を集中させた。


 まだだ。

 焦るな、まだだ。

 あと5歩。

 あと3歩。

 あと1歩。 


「今だ! 網を引け!」


 騎士団長の掛け声と共に罠は発動。

 まるで漁具の投網。

 投網を引き上げると魚が袋状になった網の中に入っているという仕組みと同じ。

 そして、騎士団は袋状になった網の中に“何か”を捕捉するのに成功した。

 網は竹で出来た四本の柱に支えられながら、ぶらりぶらりと宙に浮かんでいた。


 本来であれば念の為に“何を”捕らえたのか確認は必要だが……。


「一斉射撃、始め!」


 間髪入れずに騎士団長は大声で叫ぶ。

 相手の正体は分からない。


 しかし3つの村を壊滅に追い込んだ相手だ。

 当然“普通の野獣”であるはずがない。


 手を緩めたり隙を見せたりするとそこから巻き返してくる可能性はある。

 ならば自分の責任において一気に攻めるのが正解だ。

 相手に息つく暇さえ与えるつもりはない。


 20名の射手により次々と矢が放たれる。

 一度に3本の矢を撃つ者。

 矢継ぎ早に連射する者。

 弓の長さを最大にして威力を優先とした者。

 まるで空から雨が降ってきたかのように、網に向かって無数の矢が飛び交う。


 大部分の矢は“対象”に当たる事なく地上に降り注がれた。

 だが一部の矢は網の中の“対象”に命中し、そのまま宙に残る。


「竹を切れ!」


 支柱になっていた竹が切られ、ドスンと音を響かせながら網が地上に落ちた。

 網の“対象”に動く気配はない。


「爆裂玉!」


 騎士団長の呼び声で複数の爆裂玉が煉瓦の壁に向かって投じられる。

 導火線の火花を散らしながら壁の前に辿り着いた爆裂玉。

 大きく派手な音を立てて爆発する。

 そして網の左右にそびえたつ煉瓦の壁を崩壊させていく。


 雪崩のように崩れ落ちる煉瓦の壁。

 袋状になった網の上に次々と落下。重なり合い山のようになる。

 もはや網は全く見えない。そこにあるのは煉瓦で出来た瓦礫の山。


「普通に考えれば圧死」


 騎士団長は呟いた。


「松明を灯せ! 状況確認を行う!」



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