第二十四話:偶像と付箋⑤
「……そう。それが貴方の願い」
少女は両手を胸の前で組む。
瞼を閉じて祈るような姿勢をとった。
その後すぐ、一つの光が現れた。
小さな小さなその光はふわふわ宙を舞う。
強い光ではない。今にも消えてしまいそうな儚い輝き。
蛍の光みたいだと劉蒼は思った。
始めは一つしかなかった光だが、どこからともなくポツポツ現れる。そして新しく光が出現する度に少女の前に集まってきた。
「綺麗だ……」
劉蒼は思わず呟く。
その小さな光たちは最初に現れた光に吸収されるように融合していく。融合する度に少しずつ大きくなる。
やがて人の拳くらいになった光はカメラのフラッシュみたいにピカッと鋭い輝きを放ち、一枚の付箋に姿を変えた。それは薄紅色の小さな付箋。
「貴方の願いを叶えましょう」
少女が付箋を手に取ると付箋に謎の文字が浮かび上がる。
少女はそのまま一歩踏み出し、その付箋を劉蒼の体に押し付けた。
「ちょ……」
突然の行為に劉蒼は驚いて身をひねる。
「動かないで」
付箋は劉蒼の体の中にゆっくり溶け込んでいく。
水中に絵具を垂らした時のように、付箋は淡い煙の模様を描きながらそのまま劉蒼の体の中に入ってしまった。
「はい、終わり」
「今のは何?」
「さあ、いってらっしゃい。勇者さん」
先程まで何の表情もなかった少女。
年齢に見合わない艶やかな笑みを劉蒼に見せた。
完全に不意打ち。ドラマなどの収録でこういう表情に慣れているはずの劉蒼もドギマギしてしまう。
そして何も言えずに立ちすくむ劉蒼をその場に残し、彼女は逃げ惑う人々の中に姿を消した。
取り残された劉蒼は少しの間呆けていたが、人々の悲鳴や車のクラクション音で意識を取り戻す。
そうだ、僕もあそこへ行かないと。
白昼夢のような出来事から目覚める為に劉蒼は数回頭を横に振った。
よし、もう大丈夫だ。
今起きた事は現実なのか幻なのか。
そもそも今見ている光景は夢じゃないのか。
そんな事を考えながら劉蒼は再び走り出した。
車道と街路樹の間を通り抜ける。ここが一番進みやすい。
それにしても最初に狼や天狗たちを見掛けてから何分経っただろう。
これだけ走っても全く疲れない。疲労感がない。
脳からドーパミンが溢れ出ているのか。
この非日常に対する幸福感、やる気しかない。
いよいよ僕もヤバい物語のヤバい登場人物になりつつあるのか。
天狗たちは相変わらず稲妻で攻撃している。
武器を持った集団はさっきの狼と同じくバケモノのカラダに登って剣や槍を突き刺しているようだ。
狼はというと……。
「あっ、喰われた」
何の動きもなかったバケモノが突如頭を振り回した。
すると頭頂部にいた狼は足を滑らせ、そのままバケモノが広げた大きな大きな口の中に吸い込まれていった。
「マジか……」
あまりに突然の出来事に劉蒼は絶句してしまった。
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