《奈落》前にて
突然崖の様な壁にぽっかりと大きな口を広げた洞窟。
これが《奈落》か。普通に洞窟だな。
俺達は入口前の広い空間に降りた。あちこちに焚き火の跡がある。冒険者はここを拠点にする用だ。俺達以外はいない
様だ。
「ではダイチさま。冒険の無事を祈ってます。」
「ありがとうアルフさん。迎えもよろしくお願いします。」
「おまかせ下さい。では。」
そういってアルフは来た道を引き返していった。
「やれやれ。これでようやく冒険に集中できるね。」
「そうだとよいのですが…」
「マチルダにはまだ心配が?」
「ええ。私達はここを拠点にします。どうやら他の冒険者は
居ないようですし、夜襲にも警戒した方が良いかと。」
「なるほど。アルフが本当は王都に帰らずこちらを
伺ってる可能性があるって事だね。なるほど。
なら拠点にはダミーの荷物を置いておこう。
念には念を入れておこう。」
「かしこまりました。とりあえずテントの設営をしましょうか。それから食事を取ったらいよいよダンジョンです。」
「ああ、楽しみだ!」
それから俺達はテントを設営して、薪拾いをして
焚き火を囲って食事をした。食事は朝に市場で買った
サンドイッチだ。
馬車の中で食べるつもりだったんだけど、アレフの
サンドイッチを断ったのに自分達のサンドイッチを食べる
のは不自然な為に我慢したのだ。
「しかし、坊ちゃまを狙う理由が分かりませんね。」
「そうなんだ。考えても分からないんだよ。だから
父上の因縁で僕を狙っているのかな?」
「それも考え辛いですね。旦那様の相手にするのは
基本的に外敵です。国外の物がわざわざ騎士団長の
ご子息を狙いますかね?本人を狙う方が
効率的です。戦力が落ちるわけでも有りませんし。」
「確かにね。なら何だろ…。」
「可能性としてですが、《奈落》に何かあるのかも
しれません。」
「《奈落》に?」
「はい。ギルドマスターの依頼を覚えてますか?」
「行方不明の冒険者さんを探すやつだよね?
確か名前がペルさんだったかな。」
「そんな名前でしたね。その人物も《奈落》を目指してました。そして行方不明に。我々も《奈落》を目指してました。
そこにあの男です。もし馬車で毒を飲んでいたとしたら
我々もペルさんと同じく行方不明となるでしょう。」
「なるほど。可能性はあるね。つまりペルさんもあの
アレフに騙されて殺害された可能性があるのか。
って事はアレフの目的は俺達やペルさんの殺害ではなく、
《奈落》のなにかを隠す、もしくは守る為?」
「まあ、あくまでも可能性の一つです。《奈落》に入れば
答えが出るかもしれませんね。」
「そうだね。じゃあ少し《奈落》の説明を頼んでいいかい?」
「おまかせ下さい。」
マチルダに《奈落》について説明してもらった。
まず俺の考えてたダンジョンとは全く別の物だった。
ファンタジーのダンジョンと言えば何回層に分かれてて
階層ボスがいて、宝箱が湧いて、レアな武器が貰えて。みたいな感じだよね。
実際には階層は基本的にない。ただ洞窟なだけだ。
ボスはいるらしい。どっちかって言うとヌシみたいな者だ。
ダンジョンという縄張りのヌシだ。宝箱なんかは全くない。
そんなご都合主義的な特典は無いらしい。武器や防具は落ちてたり、モンスターが装備してたりで手に入る事は稀にあるらしい。これも武器や防具が湧き出て来るわけじゃない。
力尽きた冒険者のものだ。
ただ、ダンジョンの中は魔力が濃いらしい。だから長年
ダンジョン内に放置された武器や防具は魔力が染みて
強力になるらしい。
一番のダンジョンっぽい所は魔石だ。倒したモンスターは
魔石を持っている。解体して魔石を取り出すらしい。
アニメみたいに魔石を残して消える訳じゃない。
魔石は様々な物や魔導具の材料となるので
高く売れる。ダンジョンでの主な目的はこれだ。
みんな一攫千金を目指して魔石を削ぎ取る。
後は奥に行けば行くほど魔力濃度が高くなる。
その分魔物も強い。魔石も純度とサイズがアップする。
ダンジョンの基本はそんな所らしい。まあ、例外の
ダンジョンも少数ながら有るらしいが。
で《奈落》の特長だか、ただただ下に長い洞窟らしい。
一番下に到達した者は居ないらしい。たまに縦穴も有るらしくて試しに石を落とした人が居たみたいだけど
地面に落ちた音が帰って来なかったらしい。
そんな特長から《底無しの奈落》と言われる様に
なったらしい。
マチルダさん?初めて入るダンジョンにしてはなんか…
怖くない?普通はさ、初心者向きのダンジョンとか
あるでしょ?
いきなり未攻略ダンジョンって。まあ、それが
マチルダ流か…。
「ですので縦穴には近づか無いようにしてください。
落ちたらどこまで落ちるか分かりません。まあ、
坊ちゃまなら飛べるので問題は有りませんが。」
「わかった。気をつけるよ。」
「後はモンスターですが、動物系の魔物と虫系の魔物が
中心です。動物系は弱点が心臓など人間大体が同じですが
虫系は分かりにくく、切断しても動き回る者もいます。
仕留めたと思っても油断なさいませんように。」
き、気持ち悪い…虫はやだな〜。別ダンジョンに変えてくれないかな?
「虫が苦手な坊ちゃまは別のダンジョンに
しようと言い出すと思いましたが…?」
「分かってるならそうしてよ!」
「残念ながらダンジョンには基本、虫系モンスターが
必ずいます。では行きましょうか。」
なにこの無駄なやり取り。マチルダさんが
凄く笑顔なんですか?!プチサプライズ?!




