第一話 可愛いあの子に食われるなら本望
薄暗いダンジョンの暗闇に音が響く。
肉が潰れる、皮が裂ける、血が滴る、悍ましい音が。
「グルフッゥゥ・・・ゥゥ」
音の発生源は少女の口だ。
肉の欠片がへばりつき、血で真っ赤に染まった口元からは、血の混じった涎と泣き声にも似た唸り声が漏れている。
口の中身を飲み下した少女は、まだ足りぬとばかりに口を開き、獲物へ噛み付く。
痙攣する肉塊、噴き出した血液が絵の具のようにダンジョンを赤く染め上げ、骨の砕ける気味の悪い音が響く。
獲物にはまだ息があるのか、悲鳴ともつかぬ微かな呻きが漏れてはいるが、その命の灯火は今にも消えてしまいそうだ。
ゴクリ、少女の喉を肉が滑り落ちる。そして、更に獲物を食らおうと少女が口を開く。
「おい、あそこだ!」
「誰かが獣魔に襲われてるぞ!」
だが、獲物の命運はまだ尽きていなかったようだ。
少女の食事場へダンジョンに潜っていたハンター達がやってくる。
「アロウズ!」
「クゥッ」
アーツによる剛弓が少女の肩を抉る。
「硬すぎんだろ!」
「取り敢えず、気を引ければいい!どんどん打て!」
ハンター達の攻撃を受けた少女は獲物を地面に横たえると、弓矢による攻撃を弾きながらダンジョンの奥へと逃げていく。
「追撃はいい!それよりこいつだ、死んでてもおかしくないぞ!?」
ハンターの一人が地面に置かれた少年に走り寄る。
右の肩口から肺の付近まで食いちぎられたその少年の顔には死相が浮かんでいるが、まだ死神に連れ去られてはいない。
「・・・・た、なあ」
「まだ意識がある!直ぐに治療を!」
「はい!キュア・テオナ!」
女性ハンターが治癒の魔術を放つ。
応急処置程度ではあるが、ハンターの生命力があれば、出血さえ止めてしまえば、暫くは保つ。
「すぐに治癒院へ連れてってやるからな」
「あ・・・・・なぁ・・・」
「ん?なんて言ったんだ?」
治癒の魔術では失った血液まで戻す事は出来ない。
これだけ血を失った状態では、まともな会話をする事など出来ないだろうと、男性ハンターは分かっていた。
しかし、それでも、続いた少年の言葉は理解し難いものであった。
「あの子、可愛かったなぁ・・・」
「まずい、意識が錯乱してるみたいだ!早く連れて行くぞ!」