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13_初対面でトイレを借りる時は




 俺は呆然と立ち尽くし、燃える地上を見ている。

 幾何学的な効果音の後、どこかで何かが爆発する。


 はぁっはぁっはぁっ


 どれがけ呼吸をしても息苦しい。



「彩、ナーロ、、傍若はたわか、みんな・・・どうして・・」


 ドゴンとまた爆発音。えぐられた地表の後に太い黒煙が立ち昇る。



「畜生。アイツ等・・・許さねぇ!!」


 痛みをこらえ起き上がる。昨日まで青かった空には落ちそうな程迫った月と、大きな―――




           □



「ぬおあっ」

 目が覚めた。視界に広がっているのは荒廃した大地とは似ても似つかない陰気臭い天井。


「またこの夢か」

 最近、同じような、何者かに地球規模で侵略される夢をよく見る。夢にしては妙にリアルだったが、まぁ、あんな奇天烈きてれつな状況そうそう訪れないだろう。


「さて、今日も子守りに行くか」


 いつものTシャツとジーパンに着替え、ドアを開ける。呑気な、多分休日の陽光を浴び、体を伸ばす。



「あの~すみません」


 背後から声。振り向くとショートカットの女性が立っていた。水色の髪が印象的だった。言うまでもなく知らない顔だった。



「トイレが故障で・・・。よろしければお宅のトイレ貸してもらえないっすか?」

 なるほど。その妙な中腰は尿意のためだったのか。俺は彼女を顔から順に審査する。


 顔は、美人ではないが悪人でもなさそう。胸は百点のデカさで時期尚早の半袖から伸びる腕は締まっており、腕相撲が強そう。下半身は奇しくも俺と同じジーパン。ぱっつっぱっつと窮屈そうに張っている。



 審査結果。

 身なり・良

 発育・良

 顔・並。



「合格、と」


「合格?」


「歓迎します。どうぞトイレをお使いください。歓迎します」


「本当っすか! 助かります! お邪魔しやす!」


 お礼を述べながら彼女は玄関を駆け上がり、トイレの向こうへ消えていった。



 言葉遣い・△



 俺は玄関のドアを閉め、自室へ戻り、トイレのドアに背を預ける。

 これは万が一、トイレが爆発するなどの緊急事態が発生した場合に迅速で最適な行動ができるように備えているのであって、決してドアの薄さを利用してせせらぎを聞こうとか



 ぶぶっ ぶごっ ぶびゅごごごおおおおおおおおおおおおおお


 思考をぶった切る、ぶっとい一発。



 そう、トイレのドアは薄い。


 繰り返す。


 トイレのドアは薄い。


 □


「いやーさっぱりした。いいトイレだったっす」

 便女が風呂上がりの様にトイレから出てきた。手を洗う便女に俺は声をかける。


「君」


「はい? なんすか?」


「ちょっと来なさい」

 手招きし、寝室兼居間の中央へと誘導する。向かい合って座る。


「お茶とかはお構いなくっすよ」


「君」

 すぅーと俺は息を肺いっぱいすいこんで。


「大なら大と最初に言いなさい!!」ドンっと畳を叩く。


「さ、最初にっすか?」


「最初にっす! 次からは気を付けて!! わかった?」


「了解っす! おにーさん面白いっすね」

 彼女はくすくすと笑う。笑顔・優。



「あ、そうだ。自己紹介がまだっすよね。私は祭花まつりばなあお、二十一歳、フリーターっす! 二階の角部屋に住んでいまっす! 今後ともよろしくお願いしまっす!」

 小学生のような溌溂はつらつとした自己紹介だった。



 二十一歳、フリーター。


 二十一歳、大学生、ではなく、フリーター。



 なんて、なんて心安らぐ属性なんだ。



「俺は色無いろなしとおる。二十八歳。鉄筋コンクリートのマンションから最近、この戦前みたいなボロアパートに越してきました。引っ越しそばの一つも持って行かずすみません。今度食パンの耳セット送りますんでご勘弁を」

 深々頭を下げる。これは礼儀を欠いた俺が悪い。



「マジっすか!? 今月ピンチだったんすよー! あざっす! 透さん、これからよろしくお願いします」ペコリと頭を下げる。


「こっちこそよろしく。ぶぶっ ぶごっ ぶびゅごごごおおおおおおおおおおおおおおさん」


「そっちの音は忘れてください。自己紹介の前に脱糞音を聞かせてすみませんでした」

 深々、頭を下げられた。


「すまん。からかいすぎた。じゃあ、今後ともよろしくってことで」


「あぁ、ちょっと! ちょっと待って下さいっす!」

 立ち上がろうとしたところを蒼に右手で制される。


「透さんを見た時から、なんかちょっと引っかかってて。以前どっかで会ったことないっすか?」


「それはー、ないと思うな」

 俺の脳みそは壊れかけてるから記憶にも絶対の自信はない。けど、こんな水色のショートヘアーと面識があればきっと思い出してるはずだ。


「蒼とは恐らく初対め」

 蒼。蒼。さっきまで何も感じなかったのに、今は少し引っかかっている。

 蒼、蒼、蒼、赤、蒼、緑。


 あ


「今朝の夢。今朝の夢で、俺が『蒼』って言ってた」


「夢! そうっすよ! 夢っす!! 私も今朝、というか最近よく見る夢に透さんが出てきたんすよ! 死にかけの!!」


「俺死にかけてたの!?」


「やっと思い出した! その件について詳しく話したいんですが今から時間ありますか?」


「うーん。ちょっとこれから」


「よければ私の部屋で夢分析しませんか? 未開封の煎餅せんべいもあります!」


「喜んで!」

 二人で談笑しながら部屋を後にする。



 お菓子につられた? それとも若い女の部屋につられた??


 甘く見るな。


 どっちもだ。




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