10_三秒前に戻りたい
愉快な音楽とともに俺のクッパがゴールを通過する。
「よっしゃー逆転勝ち!」
「あー負けたー。もう一回やって!」
彩がしかめっ面を引っ提げ、こちらを振り向く。
ふわぁっ、と懐かしい匂いが振り撒かれる。
「しょーがねーなぁ。まぁ、次も俺が勝つけどな」
「今度は負けないもん!」
彩が体勢を戻す。誰しもが何度も嗅いだ経験があるであろう実家の枕の臭いが、振り撒かれる。
スタートダッシュに成功する。
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「よっし! また俺の勝ちぃぃぃぃぃ! あっぶねー」
「あぁ! ハナ差でさされたぁ。もう一回!」
「どんどんこいや。次の罰ゲームは、そうだな。裸踊りでもしてもらおっかな!」
「じゃあ、彩が勝ったら右手だけ深爪にしてもらおっと!」
なぜまた見た目以上にダメージのある罰を。
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「いーーーーーヤッホーーーーーーーー!! 俺の三連勝!! いいのかな彩、どんどん罰ゲームがたまっていってるぞ? 裸踊りしながら夕焼け小焼けを歌いながら綱渡りしてもらうぞ? できんのか? やれんのか?」
「うぅ。次は絶対負けないもん! 彩が勝ったらこれまでの罰ゲーム免除&一日左を向いて過ごしてもらうもん!」
またしても現実味のある酷な罰を。彩、お前の心はどうなってるんだ?
「望むところよ! じゃあ、俺が勝ったら、そうだな。今度は学校にでも行ってもらおうかな!」
返事はない。
調子に乗りすぎた。
水を打ったような部屋に、ピノキオの声だけが聞こえた。
この状況を打開するため、俺はこのレース、わざと負けることを決意した。