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神の使いか天敵か? 狛江ばばあ登場っ!

 十月十日のJ・アイドル・オータム・フェスティバルを終えると――


 冷たい風が吹き、秋の臭いがした――


 めぐみは喜多美神社の大祭を翌週に控え、大忙しだった――


 そんな慌ただしい中、ひとりの年配の女性が鳥居をくぐった――


「典子さん、いらっしゃいましたよっ! 早く早くぅ」


「紗耶香さん、めぐみさん、シッカリとご挨拶をっ!」


「忙しいのに、何なんですか? ふたりとも慌て過ぎですよ」


「めぐみさんっ! 寄付者奉名板のツートップ、西の横綱の大森文子さんよっ! 早く並んでっ!」


 着物姿で、堂々と参道を歩く姿は押しが強く、三人が深々と頭を下げている前で立ち止まり、軽い会釈をすると、参拝を済ませ、神主と神職の者と共に社務所へ向かった――


「ふーん、あの人が大森文子さんなんですね……毎年、桁違いの寄進をして頂き、有り難い事です」


「またの名をぉ、狛江ばばあ。おせっかいババアとも言われているんですよぉ」


「資産家に嫁いで、御主人が亡くなられて、遺産相続でガッポリ」


「あー、だからか……普通の金額では無いですからね。でも、おせっかいババアは何故なんだぜ?」


「あの人は、伝説のキューピッド。その昔、学生時代にお見合いサークルを初めて創った人なんだって。それで、これまでに縁を結んだのが二千五百組、五千人。出生数は一万二千人で、近所であの人の世話になった事が無い人が居ないくらいなの。若者を捕まえては、お見合いをさせるものだから、おせっかいババアって言われるようになったのよ」


「なまはげみたいにぃ『嫁入り前の娘は居ねがー、独り者の男は居ねがー!』って狛江から調布辺りではぁ、超、恐れられているんですよぉ」


「えええっ! 素晴らしい人じゃないですかぁ! 何で嫌うかなぁー」


 典子と紗耶香は、めぐみの後ろに迫り来るその姿に言葉が出なかった――


「ふふふふっ。素晴らしいだなんて、あなた、お若いのに出来た人ね。あなたが、鯉乃めぐみさんね」


「えっ、はい、そうですけど……」


「あなたに聞きたい事が有るの。チョッと、いいかしら?」


「はぁ……でも……」


 横目で見ると、典子と紗耶香が無言で首を縦に高速で振っていた――


「あのぉ……どうして私の名前を知っているのですか?」


「和彦さんと麻実さんの縁談を纏めたのは、あなたでしょう?」


「あっ、あのふたりの?」


「和彦さんの母、由美子は私の同級生で幼馴染なのよ。そして、麻実さんの美容室のお客でも有るの」


「そうなんですね。世間は狭いと申しますかぁ、あははは」


「あははは、じゃないのっ! 和彦さんには家柄の良い女性を紹介したけど駄目だった。麻実さんには不動産屋の倅を紹介したけど駄目だった……私の負けよ」


「えっ、あの、勝ち負けとかじゃないと思いますけど……」


「どうやって、ふたりの縁談を纏めたのか是非、ご教授頂きたいの」


「そんな、とんでも無いですっ! 私は彼の急所を蹴ったり、怒鳴ったり……失礼な事ばかりして、まぁ、雨降って地固まるみたいな。あははは」


「それっ! それがあなたの技なのね。あなたとは話が合いそうねぇ、又来るから。それでは。おーほっほほほほほほ」


 大森文子は神主と神職と丁寧に挨拶を交わして去って行った――


「めぐみさん、大変な人に気に入られちゃったわねぇ」


「押しの強さがぁ、ハンパじゃないですよぉ。何も言い返せなくなるんですよぉ」


「あー、確かに。返答に精一杯になる感じでした」


「めぐみさん。あの人は丙午(ひのえうま)の女だから、怒ると凄いらしいわよ。気を付けてね」


「気を付けろって言われても、気を付けようが無いじゃないですか、もうっ!」



 喜多美神社の境内にはお囃子専用の櫓を組む準備と段取りをする者、又、神輿の睦会の人達も訪れ、大祭への期待に胸を膨らませていた。三人の巫女は神楽殿の清掃と準備に追われ、神前舞は巫女舞から始まるので、打ち合わせや確認作業にと、大忙しだった――


 日も傾き、ひと息ついていると、ひとりの女子大生が鳥居をくぐった――


 スタイルは良く、肉感的で、透き通った白い肌に美しい顔立ちなのだが、美しい黒髪は手入れがされおらず、身なりと言えば、綿のシャツに綿のスウェット、その上に薄手の綿のジャケットを羽織り、綿のパンツは膝が出ており、穴の開いたスニーカーを履いていて、とてもみすぼらしい格好だった――


「えっと、良いご縁が有ります様に……百十五円とっ」


 ガマ口から、賽銭を出そうとするが、五円が出て来ない。逆さにして掌に出そうとした時だった――


「あぁ――――っ!」


 百十五円のはずが、無情にも五百円玉が転がり落ちて賽銭箱にダイブした――


「どうかしましたか?」


「あぁ、いえ、何でも有りません」


 めぐみは心配になって問い質した――


「でも今、悲鳴が? 何か問題でも有りましたか?」


「あぁ……いえ、あのぉ……お賽銭箱に五百円を落としてしまったのですが、お釣りなんて貰えません……よね?」


「お賽銭にお釣りは有りませんが、落とし物と考えれば拾うのが道理です。少々お待ち下さい」


「あっ、いやっ、もう結構です、言ってみただけです。すみませんでした」


 女子大生は恥ずかしそうに下を向いて立ち去ろうとしたが、めぐみは呼び止めた――


「お待ちなさい、あなたには死相が出ている。何かお悩みですね?」


 女子大生は驚いて顔色が変わった。すると、そこへ七海がやって来た――


「めぐみ姉ちゃん、新作のパン焼いて来たよっ! 今日は遅くまで仕事でしょ? 腹が減っては何とかだっつーのっ! キノコのキッシュ風と、渋皮栗のモンブランのパンと、何時ものカレーパンと、力作のラ・フランスのデニッシュだお。召し上がれ」


 その時、女子大生のお腹が「ぐうぅ――っ」と大きな悲鳴を上げた――

お読み頂き有難う御座いました。


それでは、次回をお楽しみに。

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